映画 「海難1890」 | 映画熱

映画 「海難1890」

そろそろ、日本が素晴らしい国だということを、堂々と発言してもいいんじゃないかな。



日本・トルコ友好125周年記念作品。

この映画が製作されたことを、日本人として喜ばしく思います。


あまりにもストレート過ぎる映画なので、

単に、面白さから言えば、中途半端な出来と言われても、しょうがないでしょう。


だけど俺は、この映画の奥底から湧き上がってくる、心意気に反応しました。




樺太の女性電話交換士たちが壮絶だった「氷雪の門」

北朝鮮に残された日本人妻の実情を描いた「鳥よ翼をかして」

インドネシア独立のために戦った日本兵の「ムルデカ」


史実に忠実にしようとすればするほど、娯楽性とのバランスが難しいんですよね。

それは、仕方のないことなんです。



面白さを追求すれば、脚色がわざとらしなっちゃうし、

観客動員数を確保しようと思えば、演技力よりも有名人を起用するもんだし、

それもまた、映画というものがビジネスだから、しょうがないんです。


だからこそ、プロの観客は、そこを見極めて欲しい。



目にするものを、そのまんま受け取るのは、子供の視点です。

俺は、ひとりの大人として、真摯にこの映画を堪能しました。



いい話です~




内容は、色んなところで嫌になるほど紹介されているので、

俺のブログでは省こうかと思ったんですが、

いやいや、やはりちゃんと、説明しておかねば。



1890年、和歌山県樫野崎(現・串本町)の海岸で、エルトゥールル号が遭難。

600名以上の乗組員が海に投げ出されてしまいました。

彼らは、オスマン帝国(トルコ共和国)の、親善訪日使節団を乗せた軍艦の乗組員。


地元住民たちは、荒れ狂う荒波に身を投じ、懸命に救助活動を行いました。


(詳しくは、ウィキペディアで検索すればわかります)




見ず知らずの外国人を命懸けで助けた彼らの行動は、

トルコ国民に感銘を与え、トルコの教科書にも記載され、後世に語り継がれています。


そして、1985年の、あの事件が起こりました…


(映画は、2部構成になっています)





企画・監督は、田中光敏。「利休にたずねよ」の彼ですね。

串本町長の田嶋さんという人が、ある記録を発見し、

同窓生である田中監督に話して、映画化の企画が始まったらしい。

それが、2005年のこと。



田中監督は、10年間にトルコを10往復して、努力を積み重ねたそうです。


「目の前に困っている人がいれば、助ける」という素直な気持ちを伝えたい。



彼らの思いは、ついに実現しました。



2013年。

安倍総理とエルドアン大統領が、合作について協議。

日本外務省とトルコ文化観光省が、製作を全面的にバックアップ。

2015年11月。

トルコのユルドゥズ宮殿で、本作の特別上映が行われ、

安倍・エルドアン両者が、揃って観賞されたそうです。


映画のタイトルは、当初「エルトゥールル」だったそうなので、

トルコを主役にしようとしてくれた心遣いを感じますね。



主演は、内野聖陽。

以前は「まさあき」でしたが、今は「せいよう」と読むんだそうです。

初めて彼を見たのは、役所広司主演の2時間ドラマだったかな…

知的で固いイメージでしたが、「仁」の坂本龍馬役が豪快でガラッと。

「臨場」では、人の死に向き合う、深い演技力を発揮しました。

本作の彼は、村のお医者さん。



共演は、忽那汐里。「つやのよる」の演技がよかった女優さんですね。

彼女はオーストラリア出身ということもあって、英語が堪能。

2役で、前半は寡黙な訳ありの女、後半は教師を演じるので、どうかお楽しみに。



俺的には、エルトゥールル号に搭乗していた海軍大尉を演じたケナン・エジェが主役。

残念ながら存在感が上の2人に負けているので、何だか申し訳ない気分になります。

彼もまた、前半と後半で、2役を演じているので、ご注目下さい。



鎖国をしていた頃の日本は、海に囲まれている島国というだけで、

世界一安全な国だったんだと思います。

黒船が大砲を積んでやって来るようになって、一番危険な国になってしまいました。


外国船打ち払い令が出たのにも、理由があったんです。

それまでは、遭難した外国人を助けることは、よくあったらしい。

ただ、中にはひどい奴らがいたんですね…

井沢氏の歴史の本を読んでから、俺は、歴史観が大きく変わりました。

だから、この映画の中での出来事が、ごく自然に感じられるのです。


基本、知らない人と初対面で打ち解けるのには、ちょっとした勇気が必要。

しかし、相手が困っていたら、何とか助けてあげたいと思うのが人情でしょう。





困っている時は、お互いさま。

情けは、人のためならず。


日本人が本来持っているはずの「美徳」が、この映画で語られます。

わざとらしいかもしれない。

いかにも過ぎて、苦笑するかもしれない。


だけど、一度でも、体を張って、信念を貫いた経験のある人ならば、

必ずどこかで、感銘を受けるはずです。



誰かに、褒められたいからとか、

誰かに、認められたいからとかじゃない。


自分の心の中にある「何者か」が、そっと教えてくれるような、何か。



はっきりした理由を、言葉で明確に述べられるほど、単純じゃないんですね。


ただ、そうした方が、いいと思ったから。

ただ、そうした方が、すっきりするから。

ただ、そうした方が、気持ちがいいから。



貧しさで困窮していても、助けた彼らの心には、失ってはいけないものがあった。

遠い異国の人に助けられた彼らの心にも、かけがえのないものがあった。



人を助けるのに、理由なんかいらないですよね。

ただ、苦しんでいるのを、黙って見ていられなかったんだと思います。



俺も、築き上げてきたものを一瞬で失った経験があるから、

何だか、すごくこの映画が、ありがたく感じました。




トルコでは、日本の協力で橋を作ったり、

1999年のトルコ北西部地震が発生した時は、

日本から緊急救助隊が派遣されたりしました。

2011年の東日本大震災の時は、

トルコ救助隊は、3週間の長期に渡って活動してくれたそうです。

同年、トルコ東部で大地震が発生して、日本は援助物資など、緊急無償協力を行いました。



東の果ての国と、西の果ての国の友情の物語は、現在進行形です。


国同士の付き合いは、人同士の付き合いとおんなじだと思うんです。


利害で付き合うのか。

心が通じ合えるからなのか。


それは、人が人として生きるための、永遠のテーマです。


本作が、映画としてどんな評価を受けるのか、俺はどうでもいい。

この映画が誕生したことに、意義があるのです。


田中監督、いい仕事をしましたね。

あなたは、日本人の誇りです。


そして、125年経ってから史実を知った多くの人がいたことを聞いたら、

串本町のご先祖の御霊は、びっくりなさるでしょうね(笑)



『…いえいえ、私どもは、そんな大それたことは致しておりません。

 ただ、人として、当たり前のことをしただけでございます。』


そんな優しい言葉が、聞こえてくるようですね。


余裕がある時なら、容易に助けられるかもしれない。

いっぱいいっぱいの時だと、勇気が必要ですよね。


だけど、余裕があろうがなかろうが、人を助けることは尊い行為なのです。

それって、言葉ではなく、大人が子供に「行動」で教えるべきなんですよね。


こういう大人になりたいな。

こういう大人にはなりたくないな。

そう思った経験が、必ずあるでしょう。


それには、理由がちゃんとあるんですね。



田嶋町長と田中監督に、心から御礼を申し上げます。





正しいかとか、間違っているとか、損得がどうのこうのとか、

そんなことを考えているヒマがあったら、さっさと行動しちゃいましょう。


どこかで悔いを残したら、その方が一生つらい。

今できることを精一杯やることが、後で生きてくる。



助けられたことに感謝する心が、他の誰かを助ける力になるのだから。




…俺、やっぱり、日本人に生まれてよかったと思います。








【作品データ】

企画・監督:田中光敏 脚本:小松江里子

撮影:永田鉄男 音楽:大島ミチル

出演:内野聖陽 ケナン・エジェ 忽那汐里 アリジャン・ユジェソイ

   夏川結衣 永島敏行 小澤征悦 徳井優 蛍雪次朗 竹中直人

   笹野高史 かたせ梨乃


 (2015年日本・トルコ合作 上映時間:132分)




☆日本とトルコは、第一次大戦においても、第二次大戦においても、

 直接戦火を交えることはなかったそうです。

 この意味を、深く考えてみたいですね。