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「やっぱりそう…なんや」

"結婚した"その言葉を彼女の口から聞いた途端に胸が苦しくなった。

気持ちを入れ替えたくてビールを一気に飲み干す。







「おめでとうな」


よし言えた。よくいった自分。
大人の対応や。


「うん…ありがとう」

「お相手さんどんな感じの人なん?」

「…んーちょっと変わってる人…かな?」

彼女はそう言いながら視線を落とす。



ちょっと変わってる?


「そうなんやなんか意外やな…

…幸せになれや」

「うん」


美優紀は突然思い出したかのように、話題をこう切り替えてきた。

「あーそうや!
すごい良さそうな居酒屋さんみつけてん!
今度一緒に行かへん?」


「おっええやん!
あ、でも旦那さんの方はええん?」

本当は "旦那さん" なんて自分の口から言いたくなかった。
自分の口から入ってしまったら現実が突きつけられるから。

「大丈夫!気にしやんといて!」


お相手さんへの罪悪感がよぎったが、自分の欲が勝ってしまった。

良いやつだったらここで欲に負けずに
"それはあかん" と断っているのだろう。


でも俺は




そんないいヤツになんてなれない。



「…なら行こかっ」

「うんっ」

満面の笑みで楽しそうに笑う彼女にまた胸が苦しくなった。

またあの時の自分の行動を後悔した。
何回後悔すれば気が済むねん。


「じゃあそろそろお開きにするかー」

という上西の声でそれぞれが席立ち始めた。

すでに時刻は11時30分を過ぎていて
終電ギリギリ。


「よしいこか」

「うん」

あっ と美優紀が声をもらす。

「ん?どした?」

「連絡先交換してへんやん!」

「あ、そうやった危ないハハッ」

「飲みに行く約束してたのにアホやなうちら」

「ほんまやな」

無事連絡先も交換し、今夜はお開きという形になった。



それぞれが最寄駅でどんどん降りて行く。


ガタンゴトン…ガタン…
(次はー難波4丁目ー…)


「あ、俺ここやからまたなー!」

「おう!彩連絡ぐらいはしろよ〜?」
「またなー!」

「連絡するってーまたな!」

じゃあと言い、最寄駅に降りみんなと別れを告げて歩きだすと

(みるきーまたねー!)
(今度また遊ぼうなー!)

「またねー!ばいばーい!」

っていう声が聞こえるから後ろを振り返ると、みんなに手を振る美優紀の姿があった。


「あれ?美優紀最寄りここなん?」

「そうやで!!彩も同じなんやっ」

偶然やな〜と言う。

そうやなと返す。


今は一緒に居たいけど居たくなかった。
現実逃避したかった。

だって嫌でも目に見えて現実が突きつけられるから。

神様は意地悪や


今までの悪い行いが自分に返ってきただけなのか。



「楽しかったなー
みんなとすごい久しぶりに会えたし、また集まれると思うー?」

「集まれるやろー
まーちゅんとかがすぐ呼び出しそうやわ」

平気を装うこと。

そう装うんや


「確かにー
あとけいっちとかも頻繁に呼び出しそう」

にこにこ笑っている彼女。
お酒が効いているせいか、
少しだけ頰が赤く染まっていて、
なんか可愛いと思ってしまった。


髪の毛を左手で耳にかける仕草。
それと同時に指輪がまた目に入る。
胸が締めつけられる。

奪ってしまいたい。
自分の隣にいてほしい。

でもあかん…また振り回すわけにはいかへん

美優紀を幸せにはできない


きっと… また傷つける


「じゃあまたな」

「彩またねっ」

ニコッと笑って彼女は体の向きを変えた。

俺も美優紀を見送り、向きを変えた。


手放してしまったものは簡単には
取り戻せない。

この瞬間、言葉の意味と重みを知った。


歩きながら腕時計を見ると既に12時をこえていた。

周りには人は居らず、街灯がいくつかあるだけで真っ暗な道が続いている。

急になぜだか寂しくなる。


1人になると色んなことを考えてしまう。

相手はどんな人なんやろうか
美優紀は今幸せ?
俺があの時引き止めとったら、変わってた?

どんどん溢れてきてその度に後悔の念と共に胸が締め付けられる。

吹っ切りたくて、電柱に手をついて頭を横に振り歩き出す。



はあ…


ガチャ


今日は空に星が見えなくて窓にも月の光が差さない。
静まり返った部屋はただただ静かで真っ暗な部屋だ。

バッグを置いて明かりも点けずにベッドに倒れこむ。


そして瞼を閉じた。


三日月みたいな目で笑って
目に皺を作って笑う顔が浮かぶ。


何よりも笑顔が好きやった



何もかもが嘘だったらええのに









…ピロン














" 渡辺美優紀 "












愛してるのに愛せない

END






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