続・ナンノ推しになった理由

 

一夜明けて工場に出勤すると、同期が話しかけてきた。

「M君、Y子さんに介抱されたんだって!」

"何でお前がそれを知ってるんだ!?"

昨日の今日なのに恐るべし同期の情報伝達網である。話によるとM君の寮はちょっとした騒ぎになったらしい。同期の誰もが知るあのY子さんに介抱してもらったというのだから仕方がない。当のM君は浮かれまくっているとのこと。まあ当然であろう。彼女に介抱してもらったと聞いたら自分もそうなるだろうから。ちょっと自分がM君を助けたとは言い出せなくなった。それは彼女だけが知る秘密にして、黙っていようと心に決めた。

"M君もいい思い出ができてよかったなぁ"

そんなふうに思うのであった。


季節はクリスマス近くになり、英会話クラスでプレゼント交換会をやることになった。予算は1000円。Y子さんに贈ることを想定してプレゼントを考える。どんなものが喜ばれるだろう?それまで女の子にプレゼントなんてしたことがなかったのでなかなか思いつかない。日曜日に渋谷に出かけ、丸1日かけてプレゼントを探す。こういう楽しみって初めてかもしれない。テディベアの可愛らしいマグカップを見つけ、それに決めた。


さてプレゼント交換会当日。あのY君は女性用下着という大胆なプレゼントを用意してきた。Y子さんの気を引くつもりなのがみえみえで、彼女は苦笑。ちょっとやりすぎたようだ。くじ引きの結果、Y君と自分のプレゼントは他の男に。自分はY子さんとは別の女の子からバーバリーの赤いチェックのハンカチをもらった。これはこれで嬉しく思った。Y子さんのプレゼントが何だったか覚えてないが、Y君に渡らなかったことだけは確かだった。


工場は人数が多いので、お昼休みは30分ずらしの2つのグループに分かれていた。自分は後半のグループで食堂にお昼を食べに行っていた。ある日、食堂へ向かっていると、向こうから歩いてくる女の子が笑顔でこちらに手を振っているのが見えた。Y子さんだった。前半のグループで食事を終えて売店に向かう途中のようだった。突然のことにビックリしてしまい、何のリアクションもできなかった。

"もしかして自分の後ろにいる誰かに手を振っているのかも"と思い、すれ違った後に振り向いたが、彼女はこっちを見ていた。やはり自分に手を振っていたようだ。女の子に笑顔で手を振られるなんて初めてだった(それもこんなカワイイ子に)。

"Y子さんって知ってる人みんなに手を振るのかな?"と思った。

それ以来、毎日食堂に行くときに彼女を探すようになった。なかなか会えず、10日ほど過ぎた頃だろうか。向こうから彼女が歩いてくるのが見えた。この間のお返しのつもりで笑顔で手を振った。彼女も手を振り返してくれるというリアクションを想定していた。なかなか気づいてくれなかったが、やっとこちらに気づく。しかし驚いたような表情をして手を振ってはくれなかった。

"もしかしてとんでもない勘違いしているのか?"

と思って、手を振っているのが恥ずかしくなった。それからもお昼休みに彼女を探し続けたが、もう会うことはなかった。


英会話教育が終わると、打ち上げで工場近くのクラブで飲み会をすることになった。集合時間少し前にクラブに着き、人混みの中、席を探していると、後ろから声をかけられた。振り向くとY子さんが立っていた。英会話には途中から来なくなっていたのでちょっと驚いた。
「キャスバルさんって○○グループだったんだね」
唐突な話にとまどったが、新入社員研修のときのグループの事をいっているんだとわかり、
「うん、そうだよ」
と答える。すると、
「私、□□グループだったの。知ってた?」

と言う。

「うん、わかってたよ」

と答える。

それを聞いた瞬間、彼女の表情がパーッと輝くのがわかった。満足する答えだったのか、それだけ聞くとうれしそうな顔をして離れていった。なんでそんなこと言いに来たのだろうか?”新入社員名簿、調べたんだ…”と思ったが、彼女の意図がわからなかった。

 

それが彼女と会った最後になった。ほどなくして1年間の工場実習が終了し、未練を残して東京を後にしたのであった。

 

「涙はどこへいったの」

そのころ流行っていた歌。失恋ソングであるが明るい基調である。

1989年3月15日

1989年2月22日

 

ナンノ推しになった理由…出会い編

『南野陽子 メリー・クリスマス』ナンノ推しになった理由 1年間の工場実習で東京に来た1988年秋。下半期の教育スケジュールが渡され、10月から英会話を始めることになった。レベルは当然ながら初…リンクameblo.jp

 

君の胸の悲しみ それは 僕の悲しみ

やさしく響く声を 今も覚えてる

出逢ったあの頃より ぎこちないのね

さよなら ささやく時は

 

回した手が痛いくらい

離さないでねって

抱きしめた あの頃の

 

涙はどこへいったの

ねぇ 見つめあう二人の

頬にこぼれた

涙はどこへいったの

もう帰れない二人は

恋人にも 友達にも

 

君をね ひとりきりに

しないと僕は誓う

この愛には終わりが

けして来ないのさ

何度も ねぇ何度も

キスをしたのは

あなたが 大切だから

 

髪に春の陽射しあびて

あなたは言うのよ

愛してる人がいる

 

涙はどこへいったの

ねぇ 切なくて二人が

瞳にためた

涙はどこへいったの

ねぇ 遠い日に知らずに

置き忘れた やさしさ達

 

君の胸の悲しみはね

僕の悲しみって

ささやいた あの頃の

 

涙はどこへいったの

ねぇ 愛しあう二人の

頬にこぼれた

涙はどこへいったの

もう目隠しを外して

愛よはやく ここまで来て