(12月4日) 3
~放課後・共通校舎・図書室~
高等部、中等部、小等部は内部の渡り廊下でもつながっていました。
普段は事務室のクルミ先生が学生の通行を確認していますが、高等部と中等部は期末テストで通行自由となっています。
そして、渡り廊下は直接高等部と中等部と小等部をつないでいるわけではなく、必ず共通校舎を通る構造になっていました。
一応、直接行くことも可能になっていますが、普段はクルミ先生が管理しています。
更に言えば、高いフェンスがお互いの校舎を分断しており、普通に共通校舎を迂回した方が早く移動できるのでした。
共通校舎の位置取りは単純。三つの校舎に囲まれるような形で一つの校舎が設けられ、そこは小等部と中等部と高等部の学生が接触できる場となっています。
もちろん、ここにも数人の先生が交代で管理しているため、創立以来の問題は特にありません。
同時に、小等部から高等部までが利用できる図書館でもありました。
そうといっても、高い本棚はありません。胸元の高さ程度の本棚が広く配置され、見渡しは良好です。
そして、奈留が呼び出した場所も、この図書館となっていました。
周囲には中等部の学生の姿も多く、教員の姿もあります。
しばらく周囲を見渡していると、本を読むためのテーブルスペースに奈留の姿を確認。
僕は彼女が居る席の正面に座り、話しかけました。
「やぁ……大切な話があるって言っていたね」
すると、彼女は僕の胸元を見下ろし、返事をします。
「この数日間。あなたの行動を見せてもらったわ。生活態度にこれと言った変化もなく……普段と同じことを繰り返しているだけの日常。そして、その背中にあるもの―――」
説明が回りくどく、要領を得ません。しばらく黙って聞いていると、彼女は結論を口にしました。
「もったいないわ。あなたは生徒会長になるには……役不足よ」
そう言われ、僕は自分の耳を疑います。彼女の言葉が間違っていなければ、吉報とも言えるものでした。
しかし、念のために確認をとる事にします。
「役不足? 荷が重いじゃないのか?」
すると、奈留は席から立ち上がり、僕に手を伸ばして微笑みました。
「私、草薙奈留は立候補を辞退するわ。その代わり、生徒会長にならないと許さないわよ。草薙家こそが全てのトップ。それを思い知らせなさい。いいわね?」
そう言われ、僕は彼女に手を伸ばして握手します。
「はは……まぁ、健闘するよ。少なくとも、会計で終わるわけにはいかないからね」
僕が彼女の手をつかんだ瞬間、奈留は虚を突かれたかのように手を引っ込め、自分の胸元に引き寄せました。
「そ、それなら結構です。ちなみに、原稿は考えているのかしら? 明日は立候補名簿に載って、来週の月曜日には演説よ。すでに一週間もないわ。分かっていて?」
そう言われ、僕は苦笑します。
「何とかなるって。いや、何とかするよ。約束をしているからね。生徒会長になるって―――なった後のことは別の機会に考える。まずは目指さない限り、何もしないのと一緒だからな」
そこで話を区切り、その場から離れることにしました。奈留はただ立ち尽くし、僕が去る様子を見ていくだけです。しかし、これだけで終われば人生は楽と言うものでした。
〔つづく〕
登場人物
草薙 香 主人公
真田 刃(剣) 香の親友(ある事情で、兄を演じる香の彼女)
宮司 破魔 眼鏡の学級委員長
西藤あゆみ ボクッ子の迷惑少女、香の同級生
草薙 奈留 初登場、クラスメート。香と血縁はない。お嬢様
クルミ先生 香のクラスの担任の女教師
*ご意見・ご感想、お聞かせ下さい。コメントお待ちしています。
草薙香の小説・アーカイブ(あゆみと香toベイン・ドリーム)
ランキングに参加しています、少しでも面白かったら ☟ ポチッとお願いします。
長編に少し飽きた、物足りなさを感じる方へお勧め おぐらひろしさん作の