(11月29日) 20
すると、みかに替わって真央が僕に抱きつき、一緒に歩くことにします。
正門から離れ、今度は中等部の正門が目的地。歩いている途中、真央が僕を見上げました。
「ねぇねぇ。秘密って何なの?」
訊ねられ、僕は再び苦笑します。
「ははは……えっと、あの子はああ見えて……実はさびしがりやだって言うことさ。恥ずかしいから、秘密にしてくれって……な」
僕の回答に対し、真央は「ふ~ん」と軽く相槌を打ちました。何とか誤魔化せたようです。
そして、今度は僕が真央に訊ねました。
「あのさ。真央にとって、あの子はどんな子なの?」
すると、真央は正面を向き、口を尖らせながら答えます。
「二歳年上で、意地悪なの。僕のことをダイコンって言うの。オオネなのに……まぁ、大根は大好きだから、別に気にしていないの。あと、体育の時間に、胸が大きいでしょってしつこく自慢してくるの。詩織お姉ちゃんと同じくらい、何もない胸なのに。あと、僕の頭にお尻を乗せてくるの」
「(詩織が聞いたら、僕が八つ当たりされるよ……) そうなのか。最後の意地悪はうらやましい限りだな……」
思わず本音を漏らし、校舎の外周の角を曲がります。小等部の正門から中等部の正門までの、唯一の曲がり角でした。更に奥を曲がれば、高等部の正門にたどり着きます。そして、真央は言葉を付け足しました。
「でも、話は合うの。お兄ちゃんのツッコミが面白いとか、お兄ちゃんが妹に弱いとか、お兄ちゃんがエロいとか、お兄ちゃんが―――」
「(僕のことだけかよ!?) そ、そうか。エロいのはともかく、話が合ってよかったな」
軽く返事をして、ようやく鼻の頭が冷えてきます。鼻血が決壊する寸前、踏みとどまったようでした。しかし次の瞬間、真央がこう言います。
「あっ、忘れていたの……あと、お兄ちゃんと詩織お姉ちゃんがチュ~していたことも知っているの」
「ごふ……」
冷えかけていた鼻が急に熱くなり、それは鼻の奥に入って口から出ました。まるで吐血したかのようなリアクションに、真央は驚きます。
「お、お兄ちゃん!?」
「ど、どうしてそれを?」
訊ねると、彼は首をかしげて答えました。
「だって、お姉ちゃんがコタツに入ったまま、ずっとつぶやいていたの。兄さんとチュ~。兄さんとチュ~って……魔法みたいで面白かったの」
「(うわああぁぁぁぁ! 忘れ去りてええぇぇぇぇ!) そ、それは内緒だよ。いいね?」
彼に強く念を押し、心の卑しい記憶を封印しておくことにします。
そして、中等部の正門につく頃には、詩織と結に合流するのでした。
こうして、僕にとってのテスト初日が過ぎるのです。
同じ調子で、残りのテストもすごすのでした。
〔つづく〕
登場人物
草薙 香 主人公
草薙 詩織 香の妹 双子の姉厳格で気丈 中等部 二年
草薙 結 香の妹 双子の妹 のん気で明るい中等部二年
大根 真央 香の従兄弟、両親は他界 小等部三年
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