花の記憶   草野浩一

花ひらくようにひらけり薄闇にきみのさしだす透明の傘

慕わしく散る花のこと伝えずに手紙の末尾とどまりのなく

菜の花のむこうに海があったこと焦がれた先を見たかもしれず

あっただろう 花こぼしつつゆく貨車の傷みのような幼き時は

くちびるに指おしあてる感覚をよびさますため選るシクラメン

パステルに霞む少女の夢のなかみちのしるべの薔薇撒きたし 

十二月の視野のかたすみ孤をひらくしろき水仙たがわず咲きぬ