日本政府の出す統計が怪しいとなれば、看過できない国際問題である。

政府の発表する統計の正確性が疑わしい。こんな問題が国会で連日議論されている。この問題は、デフレから脱却すると謡った『アベノミクス』の成否と絡んでいるので、野党としてもまた、国民としても強い関心を抱かざるを得ない。

 

日本はアメリカ、中国に次ぐ経済大国なので、景気についての統計には世界的に注目されている。そのため、日本政府の出す統計が怪しいとなれば、看過できない国際問題である。統計というのも、非常に微妙な専門的な難しさがある。それで、戦後まもなく統計法を制定して官庁統計の真実性を確保することにした。

 

統計が正しかったら、日本は戦争に突進して敗戦することはなかった。

これには、日本の統計がいい加減で、そのために日本は間違った戦争に突入してしまった、という反省もあった。戦後、占領軍総司令官のマッカーサーがきて、日本の吉田首相に『日本の統計は間違いが多くて困る』と言ったら『そうです。統計が正しかったら、戦争に突進して敗戦することはなかった』と、答えたという逸話がある(麻生財務省談/東京新聞)そうだ。

 

統計を取るには、統計体系の整備、統計制度、統計調査の重複除去などさまざまな方法を確立する必要がある。今度の問題の発端は、自治体に依頼する調査が従業員500人以上の会社の場合、全数訪問調査することになっている。

 

国会で議論になっているような実質賃金が現実より上昇するという複雑な問題。

それなのに、東京都が負担を軽減するため都内の事業所約1400カ所について、500カ所程度を抽出して調べていた。約三分の一だけサンプル調査としてしまったのだ。それを厚労省が認めていたのだ。

 

統計法では、『全数調査する』と、定めらるのに対象が多すぎるとして便宜的にサンプル調査にしたのだが、そのために、国会で議論になっているような実質賃金が現実より上昇するという複雑な問題が発生することになった。全数調査が全体的に正確だからである。

 

●首相秘書官が『それでは不味いではないか』と、問題提起した。

全数調査なら時代が変わっても『全数調べた結果』として文句がない。だが、サンプルとなれば、その対象は、倒産したり、縮小したり、あるいは発展したりとさまざまにデーターが変わる。そのため、対象の一部を入れ換えることになるのだが、そうすると創業間もない会社とか倒産しそうな給与水準の低い会社が統計に反映することになる。

 

それを『アベノミクス』を推進している安倍内閣はデーターが悪化すると危惧したのだ。それで、首相秘書官が『それでは不味いではないか』と、問題提起したわけだ。この時、厚労省の統計局は、法定にしたがって『全数調査』にすればよかったのである。

 

●賃上げでアベノミクスの成功を示したい安倍政権とって都合がよいことになる。

統計法では、調査対象などに変更がある場合、総務省に申請しなければならないが、厚労省はそれも怠っていた。違反すると、50万円以下の罰金または6カ月以下の懲役が科せられる可能性がある案件だ。

 

標本(サンブル)だけの調査では、そのサンプリングのやり方でデーターが変化する。また、東京都の場合、多くが全国平均より賃金が高くなるので、それが毎勤統計に影響することになり、賃上げでアベノミクスの成功を示したい安倍政権にとって都合がよいことになるわけだ。

 

●全数調査に『原則として』と挿入することで合法的なものと法をねじ曲げてしまった。

結局、厚労省は『全数調査』と定められているのに『原則として全数調査』と、注釈を入れて安倍政権に都合のよいデーターになるように統計結果が上振れするよう調査としていたのだ。安倍首相は『そんなことは全く関知していない』と、答弁したが、これは当然のことである。

 

統計法に『全数調査』とあるのは、そうしなければ調査結果が変動して何が正確なのか不明になるからであって、それを便宜的に標本調査としてしまったり、全数調査に『原則として』と勝手に挿入することで、いかにも合法的なものと法をねじ曲げてしまったのだ。

 

●どんな理由あっても『全数調査』はやらなければならなかった。

しかし、『原則として』と前置詞をつければその規則に反しても良いかと言えば、そんなことはない。よほどの守れない理由がなければ守らなければならない法律である。どんな理由あっても『全数調査』はやらなければならなかったのだ。

 

こんな姑息な修正で悪質な不正を堂々とやってきた官僚を厳密に処罰しなければならない。この事件に官僚の責任感が薄れて堕落していることが見て取れる。それにしても、安倍政権は短期間に『官僚の人事権』を振り回して役所を腐敗させてしまったものだと思う。