北陸新幹線が敦賀まで延伸開業した2024年春のダイヤ改正で、地味ながらも琵琶湖線を走る通勤特急「びわこエクスプレス」にも変化がありました
まずは、列車名が「びわこエクスプレス」から「らくラクびわこ」へ変更されました
JR西日本管内では、2019年3月から運行を開始した「らくラクはりま」や同じく24年春改正時に「らくラクやまと」が登場し、同社が運行する通勤特急のブランドとして”らくラク”シリーズの定着を図る狙いが見え隠れします
また、「らくラクびわこ」は列車名だけではなく、運行時刻と使用車両にも変化がありました
【改正前】
2号:大阪2036発→草津2129着(キハ189系)
4号:大阪2136発→米原2301着(683系)
【改正後】
2号:大阪1920発→米原2048着
4号:大阪2036発→草津2129着(キハ189系)
これまで米原へ向かう「びわこエクスプレス」4号は、大阪発が21時台でしたが、これが19時台へ改められ、「らくラクびわこ」2号となりました
終業時刻は17時~18時の会社が多いと思うので、1杯飲んでから乗るならともかく、さすがに大阪発21時台では帰宅に使いづらい側面もあったと推測されるため、今回の改正でダイヤが見直されたのでしょう
なお、大阪を20時台に起つ「らくラクびわこ」4号(旧「びわこエクスプレス」2号)については、運行時刻並びに使用車両共に変化は無く、引き続き「はまかぜ」間合い運用として、キハ189系が充当されています
ダイヤ改正以降、マニアの間で密かに注目されていたのが、「らくラクびわこ」2号です
これまでは「サンダーバード」と共通運用で683系4000番台が充当されていましたが、春のダイヤ改正以降は「しらさぎ」と共通運用となり、681系が充当されるようになりました
これには、北陸新幹線が敦賀まで開業したことで、これまで「しらさぎ」用の681系がねぐらにしていた金沢総合車両所を追われたことが影響しています
このため、現在「しらさぎ」は向日町(吹田総合車両所京都支所)をベースに運用を組んでいますが、同列車の運行区間は名古屋・米原~敦賀間であることから、「らくラクびわこ」を使って「しらさぎ」の車両を送り込んでいます
北陸新幹線の延伸開業で683系に余剰が発生しており、6編成在籍している0番台が続々とリニューアルしらさぎ塗装に生まれ変わっています
681系の車齢は「サンダーバード」として製造された車両で29年、「はくたか」用として製造された車両で27年で、長年の高速走行で老朽化が進んでいると思われ、近々683系に取って代わることは誰の目にも明らかでした
しかし、通勤客を相手にしている列車である以上、平日にしか運行されておらず、私のように大阪から遠いところに住んでいる人間からすれば、本数が少ないこともあって、なかなかに乗車難易度の高い列車であることも事実です
幸か不幸か11月下旬の平日に大阪へ行く機会がありましたので、終点の米原まで「らくラクびわこ」のグリーン車に乗ってみました
列車名が「びわこエクスプレス」だった時代に683系4000番台に1回とキハ189系に2回乗ったことがありますが、改称後は初めての利用となります
2021年のダイヤ改正で米原発着だった「はるか」2往復の運行区間が野洲までに短縮されたことから、琵琶湖線を走破する特急列車は「らくラクびわこ」と大阪ひだの2往復のみとなりました
「らくラクびわこ」については、「サンダーバード」の発車する11番のりばではなく、10番のりばからの発車で、これは「びわこエクスプレス」時代から変わりません
昔々、大阪駅が改装される前は、11番のりばの壁面に681系をモチーフにした壁画がありましたね
北陸線特急といえば、ツンと尖がったシャープな形状の流線形の先頭車が連結されているイメージが強いですが、683系4000番台は両方の先頭車が貫通型になっているため、大阪・新大阪駅では289系の流線形を見かける機会の方が多いですね
この日の1072Mにはクロ681‐7を先頭にしたW11編成が充当されていました
北越急行の開業並びに「はくたか」の新設にあたって、1997年に製造されたグループとなります
登場当初の681系は「サンダーバード」用、「はくたか」用のいずれも3号車の4号車の間に乗降ドアが無く、編成内のドア位置を調整するために、車両を組み替えています
さらに、元北越急行の2000番台を編入したことで、一見変化の少なそうな形式に思えて、車両の変遷はなかなか複雑です
トップナンバーであるクロ681-1を含む編成がW13編成で、クロ681‐7を含む編成が最若番のW11編成を名乗っているのは何だかスッキリしませんが、ここは素人がとやかく言うことではありませんね
一部の681系には、ラクびわこ幕が搭載されておらず、黒地の特急幕で運行されていますが、このW11編成には正規の方向幕が搭載されていました
デザインは他の”らくラク”シリーズと共通のもので、「びわこエクスプレス」時代に描かれていた琵琶湖のイラストは姿を消しました
ところで、24年春改正時より「しらさぎ」「らくラクびわこ」の運用は6組あります
リニューアルしらさぎ塗装に生まれ変わった683系0番台も6編成しか在籍しておらず、これから先「しらさぎ」が大きく減便されない限り、同車だけで運用を賄うことはできません
このW11編成に「らくラクびわこ」幕が搭載されているということは、つまり、しばらくは683系0番台に混じって681系が「しらさぎ」や「らくラクびわこ」で活躍することを意味しているのではないでしょうか?
それでは、終点の米原まで681系グリーン車の旅を堪能しようと思います
途中の停車駅は、新大阪,京都,山科,大津,石山,南草津,草津,守山,野洲,近江八幡,彦根となっており、特に琵琶湖線内でこまめに停車していることが分かります
なお、新快速と比べても、高槻と能登川を通過するだけであり、所要時間も1時間28分まったく変わらないことから、新快速に対して速達性でのアドバンテージは皆無です
しかし、大阪駅で真横のホームからぎゅうぎゅう詰めで発車していく新快速を尻目に、特急料金さえ払えば優雅な空間と気分を手に入れることができます
ただし、「らくラクびわこ」は全車指定席で運行されている上に、A特急料金が適用されるため、仮に大阪から草津まで乗ると特急料金だけで1,590円もかかります
e5489から会員割引を効かせても、eチケットレス特急券で1,090円であり、昼食代約2日分…個人差があります(笑)…なんて考えると、そう頻繁には乗れなさそうです
ちなみに、今回のように大阪→米原をグリーン車で移動すると、特急料金2,190円+グリーン料金2,800円で〆て4,990円と、目ん玉が飛び出るような金額になります
有難いことに、特急料金はe5489の割引で1,750円に、さらにグリーン料金分はWESTERポイントアップグレードでなんと”タダ”になものの、その代償として1,000ポイントが一気に吹っ飛びます
e5489から予約した時は私を含めて2人分の座席しか埋まっていなかったのですが、大阪駅から乗り込むと、なんとインバウンド観光客が3人も座っていました
最初は誤乗か何かかと思いましたが、無札ではなかったようで、彼/彼女らは京都駅で下車していきました
新快速に乗れば僅か30分で移動できてしまう大阪~京都間を特急の、しかもグリーン車で移動とは何ともリッチな人たちです
京都でインバウンダー達が降りると、グリーン車は2人だけになりました
もう1人の御仁はというと、大阪発車前から車内外をくまなくカメラに収めており、すぐに”同好の士”であることが知れました
であれば、気兼ねなくこちらも681系の車内を記録できるわけで、恒例の座席紹介といきましょう
グリーン車客室内は、暖色系の間接照明ではんなりとした空間に仕上がっており、そこにシックなダークブラウンのシートモケットに包まれた重厚感たっぷりの座席が3アブレスト配置で並んでいます
柔らかく落ち着いた雰囲気の間接照明は、落ち着きのある空間を演出するのに一役買っています
JR西日本が分割民営化後に初めて製造したオリジナルの特急車両が681系であり、その意味ではJR西日本の特急車両の歴史はここから始まったといえます
まず、最初に感想を言ってしまうと、「この座席が原点にして至高である」と思います
座席の形状こそ、後発の683系や287と大差ないように見えますが、座席のサイズは明らかにこちらの方が恵まれています
メジャーを持ち込んで正確に計測したわけではありませんが、体感的に座面の奥行きが5cmほど大きく取られており、よりリラックスした姿勢で旅を楽しむことができます
シートピッチはグリーン車として標準的な1160㎜です
腰から頭部にかけて、きちんと背面を支えられている感触は、バックレストの形状が一枚板のように簡素化されている289系(元683系2000番台)のグリーン席では得難い快適性を提供してくれます
683系4000番台のグリーン車ではバッサリと切り捨てられてしまいましたが、網棚下の窓柱に飾り照明が設けられ、アッパークラスらしい高級感を醸し出しています
付帯設備としては、シートバックに小物入れとフックが備わり、フットレストは角度調整のできないタイプで、テーブルはインアーム式のみ用意されます
昨年の11月「しらさぎ」で乗車してから変化していたのが、こちらのシートカバーです
空間全体を彩るアクセントにもなっている赤いシートカバーですが、布製から合成皮革に変更されていました
この合成皮革がしっとりとした滑らかな触感で、布製よりもむしろ好印象です
ヘッドレストピローのサイズは287系に近いですが、ともすればスカスカとした安っぽい柔らかさの同車と比べると、こちらの方は張りと弾力があってもっちりとしています
かつて、681系のグリーン車ではアームレストにオーディオパネルと液晶テレビが仕込まれていましたが、時代の流れなのか、いまでは両方とも影も形もありません
「サンダーバード」用としてグリーン車の座席が交換された683系0・4000番台では、アームレスト先端にコンセントが設置されていますが、681系では未設置です
681系のグリーン車では、読書灯に加えてスポット空調も設置されています
読書灯でさえバッサリと切り捨てられてしまった287系や273系のことを考えると、すごく贅沢なつくりになっています
グリーン車の客室天井には、何やらパーティションが設置されていますが、これは車内を禁煙/喫煙に分けていた頃の名残です
いまでこそ、列車内は禁煙が当たり前になって久しいですが、681系が登場した平成初期の頃は、まだまだタバコが吸えて当然でして、グリーン車を禁煙/喫煙に分けるのに難儀した列車が多かったです
JR東日本の651系やE351系でも、グリーン車の中央部にパーティションを設けて禁煙室/喫煙室を分けていましたし、681系の翌年に登場した283系では客室を分かつ壁とドアが設けられました
当系列では、天井の簡易なパーティションと空気清浄機だけで、禁煙/喫煙ゾーンを分けていましたが、きちんと効果があったかどうは分かりません
681系の普通車車内にお邪魔してみましょう
普通車としては、ごくごくオーソドックスな2+2配置の回転式リクライニングシートがシートピッチ970㎜で展開されています
派手過ぎず、かといって地味過ぎることもなく、カーテンや照明、それに座席が一体となって落ち着いた雰囲気を演出しています
網棚の下には京織物を思わせるような淡い飾り布が張られ、そこをやんわりと白熱色の光を落とすような空間演出は見事というよりほかありません
デビュー当初は、
偶数号車がサーモンピンクのシートモケットで、コンセプトが「楽しい会話の弾む空間」
奇数号車がブルーグレー系のシートモケットで、コンセプトが「読書のひと時が似合う空間」
となっていました
ただし、編成内で車両の組み換えを行った結果、ご覧のように床は偶数号車仕様の赤系なのに、シートモケットは奇数号車仕様になっている車両も中には存在します
普通車・グリーン車共に、681系の落ち着いた色合いと洗練された内装は、登場から30年近く経過しても色褪せることがありません
草津で遅れていた野洲行きのT電を先行させた影響で、米原には約5分遅れて到着しました
複々線から複線となる草津以東で、なぜ特急の出発を待たせて、遅れているT電を先発させたのか疑問は残りますが、「しらさぎ」16号に乗り換える人はひやひやしたことでしょう
「らくラクびわこ」2号から「しらさぎ」16号へ乗り換えたお客さんがゼロではなかったあたり、大阪・京都から新幹線の停まらない大垣・岐阜あたりへの移動手段としてニッチな需要をカバーしていることが窺えます
「らくラクびわこ」は通勤特急という列車の性質上、土休日は運休となりますが、「しらさぎ」への送り込みを兼ねている関係で、土休日も同時刻で回送列車(回1072M?)が設定されています
奇しくも、私が乗車した5日後の12月1日の回1072Mより、リニューアルしらさぎ色に塗装変更された683系0番台が運用入りし、翌日の「しらさぎ」51号から営業運転を開始しました
先述したように、現状の運用数では683系だけで「しらさぎ」の運用を賄うことはできないので、しばらくは後輩に混じって681系も活躍が見られそうです
「しらさぎ」も「らくラクびわこ」も和歌山県民からすれば、あまり縁のある列車ではないので、積極的に機会を見つけて681系に乗りに行きたいですね