太い太いと幼い頃からからかわれ、いつの間にやらその言葉は罵りではなく親しみ易さの証だ、と思うようになっていた。

事実、幼い頃から友達に事欠いた事はない。

明るい性格も相まってなのか、大人になってからも男女問わず人が集まって来るのだ。

同年代の仲間が体型を気にしているのを横目に、自分は「この体型こそが自分の最大の魅力」、と飲食に制限を課すことはない。

「その食べっぷりが良い」と、人生で唯一諦めていた恋人が出来たことすらある。

そんな自分の人生で、突然転機が訪れた。

勤めている会社での健康診断。

あらゆる数値が危険水域に達していたのだ。

病院に行って再検査を行った際、医者に減量することを強く求められた。

人生で初めての食事制限。

やり始めた頃こそ辛かったが、慣れて来ると何てことはない。

日に日に胃が小さくなることを感じ、日に日に体重が落ちて行く・・・。

これまでの人生で感じたことのない達成感、幸福感、そして快感。

一年後の健康診断では全ての数値が正常、と診断された。

ここで減量はストップ出来たのだが、脳がそれを許す事はなかった。

体重が落ちて行く快感に、脳が完全に焼き尽くされてしまったのだ。

食事制限だけでは体重が落ちなくなり、常に体力の限界までジョギングをするようになった。

当然のように膝はボロボロになり、医者からはジョギングを禁止された。

ならば、とジムに通い詰め、常に体力の限界まで水泳するように・・・・

全身運動が項を奏し、再び体重が落ち始めた。

その減量速度に更なる加速を求め、食べた物を全て嘔吐するようになった。

鏡に映る姿に、数年前の太っていた頃の面影はない。

あばらは浮き上がり、頬は痩け、骨と皮だけ、と云う比喩表現がピタリと当てはまる肉体。

極限まで肉を削ぎ落とした為、体重の減少が完全にストップするのは当たり前の話なのだが、それでも脳は減量への欲求を止めることはなかった。

どうすればこれ以上体重を減らすことが出来るのか・・・・?

包丁で肉を削り落とす?

否、その程度の減少では満足出来ない・・・。

判断能力や思考能力を失った頭で必死に考える。

こんなペラペラの肉じゃダメだ・・・。

何をなくせば体重が劇的に減る?

考えろ・・・

考えろ・・・っ!!

その時だった。

ぼんやりと濃霧がかかった頭に電撃が走り、思い出せる限りで一番頭が晴れ渡った。

天啓とは正にこのことだ、とふらつく足で台所へと走る。

「アレ」があった筈だ!!

「アレ」を使えば!!!

これで体重がガクンと落とせる筈だ!!!

台所の棚をひっくり返す。

あった!!!!

アダプタを手に取りコンセントに突き刺す。

嬉々としてスイッチをオンに入れる。

ミキサーからけたたましい回転音が鳴り響く。

「骨」だ!

「骨」ごと無くなれば体重は減る筈だ!!!

左手を躊躇いなくミキサーへと突っ込む。

ミキサーの甲高い回転音は、ゴトゴトと断末魔のような低い唸りに変わった。


(了)