マジすか学園6 坂道譚 第13話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。






「ふわぁ〜」



麗らかな春の陽気に当てられたひかるが小さく欠伸する。昨夜遅くまで漫画を読んでいたせいで、やや寝不足気味で、瞼を擦りながら、閑静な住宅街を進む。




昨日とは違い、今日は視線を感じない。生徒会は手を引いたと推測する。監視しているのが本人にバレた以上、そのまま継続する訳にはいかない。



完全に手を引いたとは思わない。恐らく別の形でアプローチしてくる筈。回りくどい手を使わず、正面から来てくれると助かるが、そうもいかないだろう。



どちらに転ぶにせよ、生徒会とぶつかるのは時間の問題だとひかるは考えている。“テッペン宣言”をした自分を監視していたのは、生徒会にとってひかるが危険だから。



それがいつだろうと、“覚悟”はできている。“テッペン”からの景色を目指しているひかるにとって、生徒会もまた越えるべき“壁”の一つ。



昨日、山崎天という不思議な少女との出逢いはひかるの精神に大きな芽を植え付けた。それがきちんと形なるかはひかる次第。



生徒会と衝突して尚、己を貫き通す事が出来た時、初めて“覚悟”がその身に宿る。




(ま、生徒会の事はいいか。今日は教室に行ってあの子達にコレを渡さないと)



昨日、天と別れたひかるはその足で、近所のスイーツ店に寄った。そこでお菓子の詰め合わせを購入し、それを焼肉のお礼として、彼女達に渡そうと思っている。




また何か言われるかもしれないが、その時はその時だと歩いているとーー




「ひかる」



前から声が飛んできた。灰色の塀に凭れた少女がこっちを見て、手を振っている。太陽光で金髪にもみえる明るい茶髪は肩の辺りで切り揃えられている。



レンズがピンク色のサングラス。マジ女の制服の上からショッキングピンクの背に人参を葉巻のように咥えた兎が描かれたライダースを羽織っている。



健康的な太腿をさらし、今時珍しいルーズソックス。光沢を帯びたブーツ。一見すると古き良きギャルだが、守っている空気はヤンキーのそれ。



「誰?」



眉間に皺を寄せ、低い声でひかるが言う。剣呑とした空気を放つひかるに対し、少女はそりゃそうかと呟き、サングラスを外す。




「これなら思い出せるでしょ?まさか小学校の友達を忘れた、なんて言わないよね?」




怒っているのか、声に圧がある。ひかるが小首を傾げながら少女の顔をマジマジと見詰める。少女の顔は整っていた。



アーモンド状の双眸はくっきりとしており、瞳は煌々と輝き、綺麗だ。鼻筋の通った高い鼻梁、程よい厚みの唇にはピンク色のグロスが塗られ、艶めいている。



それらによって形成された容貌は美しいに尽きる。少女が恥ずかしそうに色白の頬を赤く染め、細い首から下がる星型のネックレスを見て、ひかるがあっと声を出す。




「もしかして、有美子?」



「そこで思い出すのね……」



顔ではなく、ネックレスで思い出され、何ともいえない気持ちになる少女、関有美子。思い出してくれただけマシかと気持ちを切り替える。



「改めて久しぶりだね、ひかる。元気そうで何よりだよ」



「本当に久しぶりだね。ごめんね、すぐに気付かなくて」



「全然。3年も会ってないし、しょうがないよ」




そう言って、関が柔和な笑みをたたえる。
ひかるは小学校6年間を福岡で過ごした。関とはその時に出逢い、友達になった。



「いや〜綺麗になっちゃって〜。ビックリだよ」



「お婆ちゃんみたいな言い方するね。でもそういうひかるは変わってなくて安心だよ」



笑みを浮かべたままの関に対し、ひかるがブスッと口をへの字に曲げた。



「私の背が小さいから変わってないって?言っとくけど今150cmだからね。あれから伸びてるんだから」



「そうは言ってないでしょ……」



ぎゃーぎゃーと喧しく言うひかる。関がひかるの頭に手を置いて、クシャッと撫でる。



「犬っぽい所が変わってないってこと」



「犬ぅ?」



ひかるが首を傾げるが、関はそれ以上語らず、サングラスをかけて、ひかるに背を向ける。



「ひかる。今時間ある?少し話そうよ」



「え?」



ひかるが迷う。増本達に一刻も早くお礼したい気持ちと関と話したい感情。暫く黙って、考えると、ひかるが関を見上げる。



「うん、大丈夫」



「本当に?何か用があったんじゃないの?」



「そうだけど、後回し。折角有美子に会えたから話そうよ」



「アンタが良いならいいけど」



そう言って歩いていく関を追うひかる。ただこの選択を後にひかるは後悔する事になる。






場所を今いる所から程近い距離にある“セゾン公園”に移し、2人は缶コーヒー片手に、園内に設けられたベンチに並び座っていた。



「知ってたならもう少し早く来てくれれば良かったのに……」



「そう言わないでよ。ひかるのこと知ったの、昨日なの」



「え?そうなの?」



「うん。本当は入学式に出るつもりだったんだけど、色々あってさ。それで知るのが遅くなった訳。ってかマジ女に来るなら連絡くれれば良かったのに」



「むぅ。それはそうだけどさ……有美子がマジ女に来るとは知らなかったし」



「お互い様だね」



「ね」



そう言って2人が顔を見合わせて、笑い合う。
この感じ懐かしいと思う。関は何も変わっていない。背格好こそ成長しているが、大人びた雰囲気、どこか姉のような頼もしさ、優しさ。昔から一緒にいると安心した。




「有美子はどうしてマジ女に?あっちにもヤンキー校あるでしょ?“志恵唐鹿女子商業”とか」




「……ん〜何だろうねぇ。どうせならマジ女で戦ってみたいと思ってさ。ヤンキーなら気になるでしょ?マジ女でどこまでやれるのか」



関の言葉に違和感を覚えたひかる。どこがとはいえないが、一見すると最もらしい理由だが、それが嘘だと思ってしまうひかる。



だが、完全な嘘とは言い切れない。あくまでも推測の域をでない。仮に伝えても、関は認めないだろう。




「……そうなんだ」



「……“テッペン宣言”の事、聞いたよ。アンタらしいね」




「まあね」




「見たかったな、アンタが“テッペン宣言”する所」




「そんな良いもんじゃないよ?皆からヤーヤー言われたし」




今も生徒会に狙われているしとは言わなかった。下手なこと言って、関を巻き込みたくない。
“テッペン”からの景色を見たいというのはひかる個人の“夢”でしかない。



「そういう事じゃないんだけど……まあいいか」



「ん?」



「何でもない。今度ご飯でも行こうよ」



「うん!行こう!行こう!」



テンション高く笑うひかる。微笑む関。2人は連絡先を交換し、ベンチから腰を上げる。



「じゃあ、またね」



「うん」





手を上げて歩いていくひかる。その背中を見詰める関の顔が少しずつ曇っていき、缶コーヒーを握る手に力が入る。




「……もう少し、早く会えたらなぁ〜」




呟く声は風にかき消され、長いまつ毛が暗く淀んだ瞳を覆う。飲み切った缶を一瞥し、それを投げる。



くるくると回転した缶がゴミ箱に吸い込まれると、関も歩き出したーー。






続く。



【志恵唐鹿女子商業高校】
九州最大のヤンキー高校。さくら、カツゼツがマジ女に転校する前に通っていた高校。“どんたく”という吹奏楽部が仕切っている。