マジすか学園6 坂道譚 第1話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。






「ーー皆さんにはこの学校で多くを学び、成長していってほしいと思っています」




眠い。ただひたすらに眠かった。
馬路須加女学園の入学式が行われている体育館では、校長の野島百合子が挨拶していた。



しかし誰1人としてその言葉に耳を傾ける事なく、友達と喋ったり、スマホを弄ったり、音楽を聴いたり、思い思いに過ごしている。



それを咎める教師もおらず、館内は混沌とした空気に包まれていた。そんな中で、通路側の席に座り、リュックサックを抱いた森田ひかるは今にも眠りそうな勢いで、頭を揺らす。



野島の落ち着いた話し声と長々とした内容は、しっかり睡眠をとったひかるを夢の中へ引き摺り込まんとする魔性の声、早く終わらないかなと無理矢理瞼を持ち上げる。




「ーー以上で入学式を終わりたいと思います。各自クラスを確認してから帰宅するように」




壇上で野島が腰を折り、舞台袖へと消えていく。終わったと誰もが立ち上がり、館内から出ていこうとした時、1人の女生徒が壇上にのぼる。





「今のマジ女に“テッペン”はいねぇ!ラッパッパ?軽音楽部?生徒会?そんなの関係ねぇ。私が“テッペン”をとるっ!!!ついてこいよ、お前達」




「オイオイ。マジかよ……」



「“テッペン宣言”とか死にてぇのか、アイツ」




誰もが女生徒の言葉を鼻で笑い、館内を出ていく。女生徒が声をあげても、反応するのは数名だけ。


殆どの生徒達は無反応かつ我関せずとしている。それが今のマジ女のあり方を表しているようだった。



ただ1人を除いて。




「……じゃない」




「あ?何か言ったか?」




「“テッペン”とるのはアンタじゃない。私だよ」




「ハハハっ!!!冗談も程々にしとけよ、チビっ!!!」




ひかるがリュックを床に置いて、席を立つ。
館内を出ていこうとする生徒達にぶつかりながら床を蹴って、走り出す。




「誰がーー」




風と思わせる速度で駆け抜け、階段を一段飛ばしで駆け上がり、ウルフカットの黒髪を靡かせ、大きな瞳にこれでもかと強い光を纏い、床を蹴り上げて飛翔する。




「コロポックルじゃーーっ!!!」




「そんな事いっーーゴフっ!!!」




十分に勢いを乗せたドロップキックを女生徒の胸部に叩きつけると、呻きながら後方に弾け飛び、床に転がる。




「フン……ん?」




憤慨した様子で鼻息荒げのひかるは自分に視線が集中している事に気付く。急に恥ずかしくなり、頬をぽりぽりと掻き、思い切り息を吸う。




「私の名前は森田ひかる。この学校の“テッペン”をとりにきたっ!!!その先の“景色”を見るためにっ!!!」




声が風に乗って、館内中に広める。生徒達が次々に足を止め、振り返る。女生徒の声とは違い、ひかるの声には不思議な吸引力があった。




「ふざけた事言ってんじゃねぇぞっ!!!」



「降りてこいコラァっ!!!」



「テメェみてぇなチビに“テッペン”なんてとれる訳ねぇだろっ!!!」




女生徒の時は嘲笑い、相手にしなかったのにひかるに対しては過剰に反応する新入生達。これもまた吸引力だというのか。




ひかるが頬にかかるほつれ毛を直し、壇上から飛び降りる。着地し、顔を正面に向ける。燦然と輝く瞳が持つ圧力に新入生達が気圧される。




「文句があるならかかってきなよ。あんた達、ヤンキーでしょ?」




笑うひかる。馬鹿にされたと思った新入生達が向かっていこうとすると、ひかるが真横に走り出す。



「待てコラァっ!!!」




「喧嘩売っといて逃げてんじゃねぇっ!!!」




「逃げる?私が?」




走るひかるを10人の新入生が追いかける。風を切りながらひかるが空いているパイプ椅子を掴み、出口付近の壁際で足を止め、振り向きながら椅子を投げる。




弧を描いたパイプ椅子が追いかけてくる新入生達にぶつかりそうになるが、慌てて足を止めた事で事なきを得る。




「てめぇ……危ねぇなっ!!!」




「ぶっ潰してやるっ!!!」




2人の生徒が走ってくる。右方から間合いを詰め、繰り出された右足上段蹴りを屈んで躱し、左膝を横から拳で叩き、生徒が膝をつくと、制服を掴んで、顔面を壁に叩き付ける。




「ぎゃっ……」




潰れたカエルのような声を出しながら頽れる生徒。ひかるは既に次の生徒と相対していて、放たれた前蹴りを横に飛んで回避し、生徒の軸足を刈り取ると、開脚姿勢で床に落下する。




激痛で顔を歪める生徒を殴り倒し、目を前に向けると、叫びながら生徒か突っ込んでくる。拳。右手を添えるように手首に当て、軌道をずらしながら前に踏み出て、左肘を腹部に叩きつける。




「うぐっ……」



呻きながら体を折る生徒の襟を掴むと引き寄せ、右方から回り込む生徒に向かって投げる。止まらない2人が叫びながら衝突し、共倒れる。



これで4人が倒れ、残るは6人となり、ひかるが壁に沿って左方に歩いていく。ジワジワと距離を詰めてくる生徒達。とはいえ全員一気に動く事はできない。




「うらっ!!!」



張り詰めた空気を声で打破し、肉薄する。
勢いが乗った拳を受け流しながら、生徒の背中に回り込み、右足で膝窩を蹴り付けて膝を崩すと、そのまま右足を持ち上げて、後頭部を蹴りつける。生徒が顔面から壁にぶつかる。




「がっ……」




顔と後頭部に走る痛みに喘ぎ、その場に崩れ落ちる生徒。壁には彼女が流した血の痕が糸状に下へと続いている。



「ーーっ!!!」




踵が床を叩く音を広い、ひかるが視線を投げれば拳が眼前に迫っていた。辛うじて両腕で防いだが、体が後退する。生徒が笑う。



真横から生徒が拳を突き出した。捉えた、そう思っていたが、拳は空を切っていて、腹部に肘が突き刺さっていた。



「ゴフッ……」




ストライプ柄のスニーカーが床を擦り、生徒の背後に回り込んだひかるは左足で蹴り飛ばす。進路状に殴ってきた生徒がいる。




彼女は舌を鳴らし、横に移動して、駆ける。床に倒れた生徒など気にしない。仲間でも何でもないから。ひかるを潰すという目的で一時的に共闘してるに過ぎない。



「オラっ!!!」




生徒が踏み込んで、拳を放つ。ひかるは手で流し、続けざまに飛んでくるフックを頭を下げて躱す。


頭を上げたタイミングで、拳。腕を上げて防ぎ、浅く握った左拳を胸部に叩き込む。生徒が僅かに退くと、間髪に入れず右拳を腹部に打ち込み、更に後退させる。



生徒が行動するより早く、ひかるが両手で生徒を押す。体が大きく後退し、ひかるは右腕を引いて、硬く握り込む。彼女の体から櫻色の士気が溢れ出す。




体勢を立て直し、床を蹴ろうとした生徒とひかるの瞳が交差する。その瞬間ゾワッと生徒の背筋に悪寒が走り、体が硬くなり、動かなくなる。




「くそっ!!!何だよ……コレ……」




生徒は顔を歪め、動け、動けと念じるも、動く気配はなく、ひかるが床を蹴った。溢れ出た櫻色の士気は軈て稲妻となって、右手を覆う。




「待っーー」




待たない。櫻色の軌跡を描く右拳が腹部を貫くと、凄まじい衝撃が体内で爆ぜ、背中から突き抜ける。体をくの字に折って、吹っ飛んだ生徒が幾つものパイプ椅子にぶつかり、仰向けで倒れた。




「まだやる?」




ひかるが残る生徒に目を向けて問うも、3人が首を横に振るのを見ると、そうと体育館を出ていこうとするが、直前でリュックの存在を思い出し、慌てて取りに戻る。





「森田ひかるちゃんね。可愛いなぁ」





体育館の2階からひかるを見ている女性が1人、紅色のスカジャンに、サングラスをかけている。サングラスをずらし、あれだけの存在感を放っていたのに、今は顔を赤らめ、体を縮こませて、館内から出ていく姿を焼き付ける。



「さっきのはたまたまかな?にしても“テッペン”か……忙しくなりそうだね、今年は」




言葉とは裏腹に嬉しそうな表情。サングラスをかけ直し、スカジャンの裾を靡かせて、歩いていく彼女は齋藤冬優花。



現在“テッペン”に最も近いと呼ばれる組織の1つ、吹奏楽部通称“ラッパッパ”の四天王であるーー。





続く。



次回の更新は水曜日です。