マジすか学園 episode of 欅坂 第165話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。





おはようございます!
前回の話読んだけど、忘れちゃったよ〜という方は下記にリンクを貼っておくので、ぜひ読み返してから読んでください。











渡辺梨加が暮らしているマンションがあるのは、マジ女から10分程歩いた場所だった。それなりの高さがあり、それなりのセキュリティー、それなりの家賃、高校生が住むにしては中々高級だと思うが、今のねるには関係の無い事だった。





来たは良いが、これ以上踏み込むかどうかで迷っていた。梨加の事は心配だし、あの日の事もある。けれど梨加は体調不良なので、会えるかどうかも怪しい所だ。




会えた所でねるが知りたがっている事が分かる保証もない。だけど会いたい。ねるにとって梨加は初めて助けたいと思った人、
“歪”な自分に、“助けたい”、“守りたい”、その感情を梨加は教えてくれた。



だからねるにとって、梨加は特別な存在なのだ。そんな梨加の身に何か起きている。それを黙って見ている事なんて彼女には出来ない。



最愛の友が困っているなら助けたいし、自分に出来る事があればそれをやりたい。
だからねるは小さく息を吐いて、一歩踏み出す。この行動が間違っていても良い。会えなくても良い。でも、伝えよう。




学校で待っているとーー。





ねるは平手達と関わって気付いた。
“想い”とは口にしなければ相手には伝わらないんだと。でも、口にすれば届くのだ。
人には耳がある。心がある。



だから“想い”を言葉にしよう。
会えないのは辛いし、何も分からないのは不安を増長させるが、ねるにとって1番辛いのは梨加が学校に来ない事だ。




一歩一歩力強い足取りで入口に向かっていくねるの横顔を般若丸は静かに見守っていた。彼女はどうしてねるがここに居るのか分からない。梨加が休んでいる事は聞いているが、詳しい内容まで聞いていない。




でも、わざわざねるが訪ねるという事は、それなりの理由があるのだろう。気になるが、今はその気持ちは置いておこう。自分はねるを守る為にここにいるのだから。






梨加のマンションはオートロックである。
ねるは以前梨加から聞いていた部屋番号を入力し、呼出ボタンを押す。





『……』




暫くして梨加ではない女性の声がスピーカーから聞こえてくる。ねるの心臓がドクンと跳ね上がり、梨加のお母さんかなと思う。





「私、ぺー……梨加ちゃんのお友達の長濱ねるって言います。ぺー……梨加ちゃんは居ますか?」




ねるがそう尋ねると、スピーカーから音が消える。1秒、2秒と時間が進むにつれて、不安がこみ上げ、掌は汗ばみ、唇は乾き、瞳は微細に揺れる。




『……梨加ちゃんは居ますが、会わせる事は出来ません』



「え?」



『梨加ちゃんは今、体調を崩して寝込んでいるんです』



「……大丈夫なんですか?」




『……はい、大丈夫です。そういう訳ですので、今日の所はお引き取りください』




「……分かりました。じゃあもし、ぺー……梨加が目を覚ましたら伝えてください。“学校で待ってるよ”って。お願いします」




『……分かりました。伝えます』





そこで女性との会話が終わると、ねるは小さく息を吐いた。心臓の鼓動は激しく、妙な緊張感があり、ねるはもう一度息を吐く。



気になる事が幾つかあるが、一先ずここを出ようとねるが踵を返して歩いていくが、すぐに足を止め、振り返る。視線先にはドアがある。たった一枚の、されどねるにはどうしようも出来ない“壁”だった。




「ねるさン……」




般若丸の声がして、ねるは我にかえると唇を噛み、湧き上がってくる暗い感情を無視してマンションを出ていった。






その様子を梨加の部屋に取り付けられたモニターで見ていた声の主ーー“小嶋陽菜”はそっと細い指先で画面を撫で、瞳を伏せると呟いた。




「……ごめんね」



ーーと。









梨加のマンションを後にした2人はあてもなく歩いていた。ねるの2、3歩後ろを歩く般若丸は周囲に警戒心を張り巡らせていた。



ラッパッパの敵は軽音楽部や2年・3年だけではない。この街にいる全てのヤンキーがラッパッパにとって敵である。
既にラッパッパの復活は知れ渡り、軽音楽部に敗れた事も周知されている。



更にラッパッパは現在四天王である理佐と菅井が休部しており、更に梨加も休んでおり、体制が崩れかけている。そこを敵が突いてくる可能性は十二分にある。



ただ軽音楽部という憂いがある以上敵も安易にラッパッパをマトにかける事は出来ない。だけど襲撃の可能性がゼロではないので、般若丸は辺りを警戒しながら歩いているとーー。




「おーい!!!」




こちらを手を振って、走ってくる女性がいた。茶髪のポニーテールに、割烹着姿だ。般若丸がねるの前に立ち、女性と向き合う。




「何ですカ?」



「ハア……ハア……あんたらマジ女だろ?腹減ってないか?」




「ハ?」



「え?」



般若丸とねるが間抜けた声を出すと、女性が乱れた呼吸を整え、ニッと白い歯を剥き出して笑う。



「うちの店で食べていきな」



女性がそう言うと、ねるが戸惑いを見せた。それを背後で感じ取った般若丸がお面の窪みから覗く瞳を鋭くさせ、女性を見る。




「貴女怪しいですネ、何者ですカ?」




「いや、あんたの方が怪しいぞ」




女性がそう言った瞬間、空気が凍りつき、風が音を立てて吹き抜けていく。割烹着姿の女性と般若のお面を被った女子高生の般若丸、怪しいのは間違えなく後者だろう。




ゴホンと般若丸が咳払いで淀んだ場の空気をかき消す。




「私はマジ女1年の般若丸でス。決して怪しい者ではありませン」




「名前が偽名な時点で怪しいし、何より怪しい奴は皆そう言うぞ?」




女性がそう言うと、再び空気が凍り付いた。女性がこれ以上は埒が明かず、不毛だと判断したのか、ねると般若丸の腕を掴み、




「良いから良いから、取り敢えずウチ来なって」




女性が怪しい言葉を並べながらそう言うと、般若丸が腕を振り払おうとした。しかしねるが肩に手を置いた。




「……良いよ、般若丸ちゃん。もうお昼だし、お腹空いてるでしょ?行こう」




ねるがそう言って微笑む。どこか引っかかりを覚える言葉だが、ねるがそう言う以上従う他なく、女性に手を引かれながら2人は店へと向かった。






「おーい、客が来たぞ!」



女性がガランとした店内に入るなりそう言うと、店の奥から1人の少女が出てくる。
サラサラとした茶髪を後頭部で団子状に束ね、その上から髪の毛が外に出ないようにタオルを巻き、白のブラウスに“亜粗美菜”と書かれた紺色のエプロンに、黒のタックスカートを穿いた、容姿は整っているが、目が死んでいる少女だ。




「客って、また拉致してきたんですか?」




「またって何だ?私がいつそんな酷い事をしたんだよ?」




「昨日、一昨日、その前、私が知る限り10は超えてますね」



「超えてますね、じゃねぇよ。してねぇわ!お前本っ当に捻くれ者だなぁ」



「余計なお世話です」



「目が死んでるぞ」



「生まれつきです」




定番コントのように繰り広げられる2人の会話。ねると般若丸は完全に蚊帳の外状態で2人の会話を聞いていると、それに気付いた女性が慌てて2人をカウンター席へと案内する。




「ごめんな、アイツ捻くれ者なんだ。まあ、気にしないでくれ」




「は、はあ……」




「人を拉致する人に性格云々言われたくないんですけど?」




「うるせぇ、まだやんのかよ」




女性が呆れたようにそう言うと、少女も呆れたように息を吐き、水を注いだコップを2つねると般若丸の前に置く。その際目が合い、ねるが会釈するも、少女は無視して行ってしまう。




「オイ、態度悪ぃぞ」



「店長も言葉遣い悪いですよ」



「はあ〜、もういい。ごめんな、悪い奴じゃねえんだ」




「大丈夫です」




女性が頭を下げると、ねるが慌ててそう言った。




「良し、何食べる?ウチは生姜焼き定食が美味いんだ。ラッパッパの連中もそれ目当てに来るぐらいだしな」



「え?」



「ラッパッパがですカ?」




「ああ。美味い美味いってな。で、どうする?生姜焼き定食2つで良いか?」




「あ、いえ1つで」



「エ?」



「般若丸ちゃん食べなよ。私は良いからさ」




ねるがそう言った次の瞬間、ねるの腹部から鳴った音が店内に響き渡る。幸い店内に2人以外客はいなかったが、ねるの頰が羞恥で林檎のように赤くなる。




「2つな」



女性がねるに顔を近付けてそう言うと、ねるが頰を真っ赤にしたままコクンと頷く。女性が振り返り、生姜焼き定食2つと言う。テーブルを拭いていた少女が厨房に入っていく。




「ダイエットか?我慢は体に良くねえぞ」





「……違うんです。最近心配事でご飯が喉を通らなくて……」



俯き加減でねるがそう言うと、般若丸が成る程と理解した。だから先程ああいう言い回しをしたのかと納得する。
カウンターを拭いていた女性が手を止め、ねるを見る。




「……まあ、アンタぐらいの時なら色々あるよな。心配事とか、悩み事とかさ。私もそうだったし。けど、まず食べないとな」




「……」




「腹減ってちゃ、いざって時体が動いてくれないぞ。アンタぐらいの時はさ一杯食べて、一杯寝て、一杯悩んで、あそびなあそびな。



“今この瞬間”ってのは“今”にしかねぇ。
明日に“今”は来ないんだよ。



高校生ってのは人生で1番楽しい時だ。
だから……」




女性が置かれたお盆を両手で持ち、それをねるの前に置いて、ニッと笑う。




「まずは食べな。悩むのはその後だ」




優しい声で女性がそう言うと、ねるが頷き、生姜焼き定食を頬張る。あれだけ喉を通らなかったのに、今は不思議と白米が喉を通っていく。




「美味しいです」




ねるが瞳を僅かに輝かせて言うと、女性が微笑み、空になったコップに水を注いでいく。ねると般若丸が美味しいねと食べている光景を見て、懐かしい記憶が蘇ってきた。









「ご馳走さまでした。幾らですか?」




「あ〜良いよ。私の奢りで」




「え?ダメです。ちゃんと払いますから」



「アンタ、ラッパッパだろ?」



「え?何でそれ……」




ねるが目を見張って呟くように言うと、女性は拭いていたコップをテーブルに置き、鈍く光る瞳をねるに向け、ねるが羽織る暗緑色のスカジャンを指差した。




「その“スカジャン”だよ。ソイツはラッパッパ四天王の“証”。この世にたった4着しか存在しないモノなんだ。レプリカなんてないし、ソイツを着れるのは四天王だけだ」




「……詳しいですね」




「……まあな。私もマジ女だったんだ」




「え?」



ねると般若丸が目を見合わせる。女性がお盆を厨房に返しながら、何か思い返すような目で2人を見た。



「私は大した人間じゃなかったけどな」




そう言って笑うも、その笑顔は先程までとは違い、悲しみや楽しみ、苦楽の孕んだモノだった。




「まあ今はしがない定食屋のおばちゃんだけどな」




「……また来ます。今度はお友達も連れて」




「おう、また来な」




女性がさっぱりとした笑顔を見せて言うと、ねると般若丸が頷き、一礼すると、店を出ていった。



それをありがとうございましたと見送り、テーブルを拭いていると、




「何見てんだ?」




と後ろを振り返らずに言うと、気配を消して厨房からこっそり顔を覗かせていた少女が慌てて顔を引っ込め、呟く。




「……何だよ。只者じゃないじゃん」








ねると般若丸が住宅街を歩いていた。
平日のお昼という事もあって、出歩いている人は少なく、声も全く聞こえない。
緩やかに流れていく風の音だけが2人の鼓膜を揺らしていた。




並行して歩いているが、2人は特に会話する事なく足を進めていた。すると不意にねるが足を止める。




「……またぺーちゃんの家に行くって言ったら般若丸ちゃんも来てくれる?」




「勿論でス」




ねるの言葉に般若丸が即答すると、ねるは一瞬驚くが、すぐに口角を吊り上げ、




「……ありがとう」




そう言って、歩いていく。
その足取りは今朝家を出た時よりも、少しだけ軽かったーー。








続く。



ご愛読ありがとうございます。



前回に引き続きねるちゃん視点のお話です。本家のドラマ4で登場した亜粗美菜が登場しましたね。勿論店長はたかみなです。


たかみなは1、2、4、5と登場しているのですが、皆さんはどのたかみなが好きですか?自分は1のたかみなが1番好きです。
それに並んで好きなのが4のたかみなです。この定食屋のおばちゃんでありながら悩める若人を導く感じが凄い好きで、本作にも登場させました。



ドラマでは明らかにならなかった部分を本作では明らかにしたいと思っています。
因みに5は無視しています。やろうと思えば出来るんですけどね。まあこの作品は4の続編という事なので5は無視します。



因みに2の高橋警部補も好きです。
取り調べのシーンで、チンピラを蹴って、折れてねぇなという所が好きです。
5の川守親分とのシーンも好きです。
「絵を描いたのは義宗ですか?」って所のたかみなが迫力ありすぎて、鳥肌がたったのを覚えています。



皆さんはどのたかみなが好きですか?
シーンとかあれば教えてください。



次回はてちぴっぴに視点が戻ります。
お楽しみに。