マジ女の近くに飲食店はない。
何故か、飲食店なんてあろうモノならマジ女の生徒が入り浸り、普通のお客が来なくなるからだ。
だからマジ女の傍に飲食店はない……筈だった。その店は違った。マジ女から徒歩5分の所にあり、マジ女の生徒のみならず、普通のお客も訪れる。
その店を経営しているのが、マジ女のOGであり、元ラッパッパという経歴、マジ女の生徒なと赤子の手を捻るようなモノ、故に店は繁盛していた。
その店に2人の少女がいた。
2人が座る席だけ、異様に重い空気が漂っており、注文を取りにきた女性店員が怯えている。この女性店員はヤンキー相手にも臆しない。彼女は夜間高校に通っている、極々普通の女子高生なのだが、肝っ玉が据わっており、店長が太鼓判を押す人材である。
黒髪のセミロングで、制服の上からベージュのカーディガンを羽織る少女、軽音楽部部長の生田絵梨花が苦笑しながら言うと、向かいに座る茶髪を背中に流し、絶対零度の双眸を生田に向け、制服の上から純白のファーコートを羽織る軽音楽部副部長白石麻衣が少しだけ、気を緩めるも、何も変わらず、生田がラーメンを2つ注文する。
「それで、話って何?」
「飛鳥が学校に来ていない。ラッパッパに新しい奴が入った。完成の一歩手前だ。お前は何を考えている?」
軽音楽部は現在ピリピリとしている。
それは四天王である齋藤飛鳥が学校に来ておらず、ラッパッパが隆盛するのを静観している故の重い空気。それが部員達にも伝播してしまい、軽音楽部内でも不満の声がチラホラと上がるようになっていた。
生田がラッパッパを潰さない、その真意を麻衣は知りたいのだ。このままでは本当に軽音楽部が空中分解してしまう。
生田は分かっている。勿論分かっており、お冷を一口飲み、考える。話すか否か。色々と考えが浮かんでくるものの、麻衣は副部長だから知っておくべきかと口を開いた。
「ラッパッパはこれからのマジ女にとって、必要な存在なんだよ」
この場合のこれからというのは生田達が卒業した後の話だ。軽音楽部はこの2人を含め、主要な部員の殆どが3年生。つまり卒業したタイミングで、軽音楽部は消滅する。そしてその後を継ぐのは現在においてラッパッパ以外ありえない。生田はそう言っているのだ。
「それが静観と、どう関係ある?」
「今ラッパッパがなくなれば、マジ女は終わる」
「大袈裟だな、高々1年だぞ?」
麻衣がやや呆れたようにそう言った。
ラッパッパのメンバーは全員1年だ。一年の中では強いかもしれないが、もう少し広い目で見れば、ラッパッパが潰された所でマジ女には何の支障もない。
マジ女の“テッペン”は軽音楽部であり、ラッパッパではない。麻衣はそう考えている。
「そんな事ない。矢場久根。激尾古、我血須加(ガチすか)、隣町のヤギ女にGGHS、他には栄や新潟、マジ女の敵はごまんといる。
今は私達がいるから大丈夫だけど、ラッパッパを潰して、そのまま私達が卒業したらどうなると思う?目の前に餌があったら誰でも飛び付くよね?つまり、そういう事。
今も大切だけど、“未来”の事も考えないといけない。私は軽音楽部の部長で、“テッペン”だ、その責任がある」
生田が双眸を黄金色に染めて、力強い声で言うと、麻衣は黙り込む。生田は何も話さない。だから何年一緒にいても何を考えているのか分からない。
けれどその目は自分よりも遥か遠くの“未来”まで見詰めている。
「流石、さくらに認められただけあるな」
店の奥からラーメンの入った丼を2つ持って現れた女性がそう言うと、生田が困ったような顔で、そんな事ないですよと小さな声で言った。
「つまり、ラッパッパは潰さないって事か?」
「いや、潰すよ。でも今じゃない。もうすぐだよ。ラッパッパが完成したら潰す。そこに“意味”がある」
生田がそう言った。しかし麻衣はよく分からないようで、困った顔をする。けれど生田は何も言わない。これ以上は然るべき時に話す、これでも喋りすぎたと本音を頑丈に施錠する。
「生田の方が“先を見る目”があるな」
「どう言う意味ですか?」
「人に聞いてねえで、自分で考えろ。お前は副部長だろ?」
どかっと丼を2つ置いて、女性がそう言うと、店の奥に戻ってしまう。麻衣は考えてみるが、何も分からず、生田はニコニコと微笑みながらラーメンを頬張っていたーー。
続く。
次回から新章突入と言いたい所ですが、ここで区切らせてもらいます。
本当にすみません。
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