昔はよかった [★★★]

[初出誌] 『昔はよかった?……』、「小学六年生」19817月号、17頁、126コマ

[単行本]  『昔はよかった』、「てんとう虫コミックス ドラえもん第30巻」1984425日 初版第1刷発行、20頁、143コマ

[大全集] 『昔はよかった』、「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 92010830日 初版第1刷発行、20頁、143コマ

 

[梗概] 目の前のドブ川も、「パパが子どものころは、手づかみでとるほど魚が一杯いたんだよ」と言われてものび太にはにわかに信じられなかった。さらに、「きれいな小川でね。両岸がず~っと桜なみ木だった。あのマンションあたりが、春には一面のレンゲ畑」と言われるとますます信じられなくなった。

 

 目の前の往来も、「昔は車もめったに通らなくて、安心して道路で遊べたもんだ」と言われても、現在の「目がチカチカしてきた。光化学スモッグらしい」という状況から、全く信じられなかった。そして、最後にのび太はパパから「むかしはのんびりしてよかった。受験戦争なんてものもなくて…」と言われていた。

 

 帰宅して、のび太は「そのまた昔は、学校なんてなかったんだからね。昔はよかった…」とドラえもんに訴えると、「そうともいいきれないんじゃないかね」と軽く交わされたので、左拳を振り上げて、「い~や、ぜったいに昔がいい!!」と力説した。

 

 すると、隣の部屋のママから、「のび太!! 宿題はすませたの!?」と怒鳴られてしまった。

 

 のび太は「そうだ! しばらくむかしの世界でくらしてみよう。…、気に入ったら帰ってこないかもね。アハハハ」と言いながら、「とにかく学校だけはないような、う~んと大昔へ」と「タイムマシン」に乗って、ひとりだけで喜び勇んで出かけた。

 

 「タイムマシン」で昔に戻ると、のび太は「やっぱり昔はいいや。空気の味までがちがってるみたい。まだ学校はたっていない。あの山の下あたりにたつんだよね」とあたりを眺望した。

 

 川には沢山の魚がいるので、捕まえようとしたが、すぐに、「魚がいるということと、つかまえられることとは、別問題だね」と分かった。のび太はグッタリして、「いやになった。帰ろ。あきらめのいい所がぼくの長所なんだ」と考え、「タイムマシン」の入口に到着した。

 

 冷静になると、ドラえもんの顔が浮かび、「そらみろ。きみに昔の世界は向かないといっただろ。アハハハ」と言われている気になった。のび太は「帰るもんか! 意地でもすみついてみせる」と再度村に戻って、家探しを始めた。

 

 大きな藁葺きの家は「シ~ン」とし、畳もなく、空っぽの状態であったので、のび太はしばらく待たせてもらおうと思ったが、疲れがドッと出て、「フンガ~」と眠ってしまった。

 

 眼覚めるとおやじさんと娘さんから、「どこからきなさった? かえれないんですって。かわいそ。よかったら、とまっていきな」と促され、のび太は「昔の人は親切だ」と感心した。

 

 晩ご飯をご馳走になったが、あまりのまずさに、これはなんですかと尋ねると、「アワのおかゆだよ」と言われたので、のび太は思わず、「アワ!? お米をたけばいいのに」と口走ってしまった。

 

 すると、おやじさんから、「ぜいたくいうもんでねえ。お祭りでもねえのに」と叱られてしまった。しかし、のび太は「ナッパのおつゆにつけもの…。カレーライスか、ハンバーグたべたいな」と心の中でつぶやいた。

 

 おやじさんから「さあ、めしくらったらねるぞ」と言われたが、のび太は「もう? せめて九時ごろまで遊ぼうよ」と娘さんに誘い掛けると、「遊ぶ? なにして?」と逆に問われ、「テレビ…はないか。マンガ…も、ないよね。あったとしてもこの暗さじゃよめないや」という結論になった。

 

 ゴザとムシロの布団で寝ていると、のび太は「もっと金もちの家をさがせばよかった」という考えが頭を掠めた。蚊に刺され、蚤と格闘していると、おやじさんから、「そんなもん、気にしないでねろ! あすの朝もはやいぞ」と言われてしまった。

 

  朝目が覚めると、のび太はいつものクセで、「ねすぎた!! 学校におくれ…」と大騒ぎしたが、よく考えると今日から学校へ「行かなくてもいいんだった」と分かりホッとした。おやじさんたちはすでに畑へ出かけていたので、粗末な朝食を食べてから、のび太も畑仕事をさせてもらった。

 

  はじめ、「フラフラ ヨタヨタ」しながらクワで畑を耕したが、とても辛く、手のひらがマメだらけになってしまった。のび太はおやじさんに「なにかもっとぼくにむいている仕事を」お願いすると、水くみを手伝うように言われた。

 

のび太は娘さんに「毎日水くみするの? 何回も何回も? 井戸をほればいいのに」と尋ねると、この辺は掘っても水の出ない地域とのことであった。

 

川まで行って、二つの水桶を一杯にして、天秤棒で担ぐと、のび太は「わ! おもい!! かたがくじけそう。歩けない!!」とよろけて、水桶を「バシャ」とひっくり返してしまった。一方、娘さんは天秤棒で水桶を巧みに担いで、軽々と水を運んでいった。

 

   おやじさんから「もういい、しばらく休んでな」と言われたので、あたりを少し散歩した。すると、「このへんはぼくらの時代の…、いつも遊んでるあき地」へ来たので、草の上に寝っ転がって、「のんきに野球なんかして…。あのころはよかったなあ…」と物思いにふけった。

 

 お腹が空いて、「グー」と鳴り出したので、おやじさんに「昼ごはんは?」と尋ねると、「ばかいえ! メシは一日二度だけだ」と叱られたが、「二度だけ!? じゃ、せめてオヤツ…」と念を押すと、「なんだねそりゃ」と言われる始末であった。

 

 のび太は空腹に我慢できなくなって、「タイムマシン」で帰って、冷蔵庫からラーメンを出し、「ズルズル ガツガツ パクパク」と食べていると、ニッコリ笑ったドラえもんが傍らに立っていた。のび太はドラえもんに「帰ってきたんじゃないぞ。おやつを食べにきただけだい」と強弁した。

 

 「タイムマシン」で戻ってみると、仕事から帰ってきた娘さんに会ったので、「遊ぼう」と声をかけると、「これからうちの仕事よ」と言いながら、薪割りを始めた。

 

 「手つだおうか」と申し出たが、「あんたにはむりでしょ」とキッパリ断られてしまった。のび太は「電気やガスがないってことは、ずいぶん不便なんだね」と実感した。娘さんの仕事は途切れることなく夜まで続いた。

 

 おやじさんが帰ると、炉端で「今年のイネ、だめかもしれんぞ」と娘さんに話しかけたので、のび太は「川から田んぼへ水をひけばいいのに」と提案した。おやじさんは「あれはとなり村の川だ。となり村も水不足なんだ。こっちへひいたりしたら、血をみるようなあらそいになる」との返事。

 

 さらに、おやじさんは「とても年貢がおさめられそうもない…。でも、おさめないとろう屋に入れられる」と嘆いていた。のび太も「ああ、とのさまにおさめる税金か。たいへんだなあ…」と心をとても痛めることになた。

 

 その晩、おやじさんがひどい熱を出して、「ウ~ン ウ~ン」うなりだしたので、のび太が三里も離れたお医者さんを呼びに行くことになった。提灯を片手に、真っ暗な夜道を走っていると、木につまずいて倒れ、提灯も燃えてしまった。しゃくであったけれども、のび太は再度「タイムマシン」に乗って、ドラえもんの助けを求めに帰った。

 

 家に着くと、ドラえもんは「ニヤ ニヤ」笑っていたが、のび太は「わらいたければわらえ! そのかわりおじさんをたすけて!! ぼくにはどうにもしてあげられないんだよ~。ウ、ウ…」と泣くばかりであった。事態を察知したドラえもんは「わかった、わかったから泣くな」と慰め、のび太と「タイムマシン」に乗って助けに向かった。

 

 「ウ~ン ウ~ン」と苦しむ傍らで、娘さんは「父さんがんばって!! あけ方ごろにはお医者さんがきてくださると思うわ」と励ましていた。のび太が大声で「つれてきたよ~!!」と告げると、娘さんは「えつ、もう!?」と驚きの表情を見せた。

 

 暗かったので、ドラえもんは人工太陽を出して明るくすると、娘さんは「キャッ、まぶしい!!」と叫んだあと、ドラえもんを見て「あら、いやだ。お医者さんかと思ったらタヌキじゃない」と言い出した。

 

 猛烈に腹を立てたドラえもんはのび太から、「気にしないではやく病人を」と急き立てられた。ドラえもんは『お医者さんカバン』で、「結かくだね。昔はたすからない病気だったけど、いまはいい薬があるから」と診断結果を告げながら、「しばらく体力をつければ、すっかりなおります」と娘さんを元気づけた。

 

 さらに、「栄養をとらなくちゃ」と言いながら、「スープや肉や魚のかんづめ」を差し出すと、おやじさんは「こ、こ、こんなうまいもの、たべたことがない!!」と感激。

 

 もうひとつの問題は、日照り続きで作物が枯れるのではないかという心配だった。しかし、ひみつ道具の『お天気ボックス』に雨カードを差し込んで、大量の雨を降らせることができた。

 

 さらに、『どこでもじゃ口』で水くみの苦労を解消し、『もぐら手ぶくろ』で田畑を耕し、『おこのみボックス』は洗濯機にも、クーラーにもヒーターにも…なった。このように、次から次へとドラえもんが調子にのってひみつ道具を繰り出した。

 

 おやじさんは涙を流し、手を合わせて、「あなたがたはいなり大明神のおつかいでしょう」と言い出すと、娘さんは「でも、父さん、おいなりさんのおつかいなら、キツネでしょ?」と反論、おやじさんも「なにかのつごうでタヌキさんをつかわせれたのだ」も言い繕うのであった。

 

 「ありがたや、ありがたや」の声を耳にしながら、何か言いたそうなドラえもんの背中を押しながら、「さようなら。おだいじに~っ」と別れを告げるのび太であった。

 

 ドラえもんが「これでも昔のほうがよかったといえる? どんな時代でも、みんなそれぞれせい一杯生きてきたんだよ」と力説すると、のび太も「そうか、ぼくらはぼくらの時代を少しでもよくするようにがんばらなくちゃいけないんだね!!」という結論に落ち着いた。

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