№70 アナトリアン・シェパード・ドッグ


data;2012.1.9 写真;○


File:Anatolian 589.jpg

フォーンでブラックマスクは最も有名なカラー。



生後7か月のアナトリアン。






・原産地;トルコ中部/アメリカ

・別名;コバン・コペギ?


・愛称;アナトリアン


・使役;護畜犬


・サイズ;体高81cm 体重65kg


・状況;トルコ・アメリカではメジャーな実用犬




~歴史~
:トルコには他に数種の護畜犬種があるが、本種はそれらの生息域が重なっている地域で成り立ったものである。


先祖は約6千年前から存在した超古代犬種で、護畜犬としてだけでなく軍用犬として徴兵、敵兵を馬から落として叩き付け殺害する役割も担った。


ただし本種はもともとその雑種犬で、アナトリアン・シェパードとしての歴史が始まったのは1967年のことである。その年アンカラに駐留していた米兵が2頭の本種を気に入って持ち帰り、ブリーディングを始めた。1970年に初めて仔犬が生まれ、そこから純血種としての繁殖が開始された。


持ち帰られたペアのうちオス犬のゾルバは長毛だったが、嫁さんが短毛だったため今日のアナトリアンは短毛種になった。


もとがカンガール味の強い犬っだっただけでなく、遺伝子プール改善のために時々それらが交配されたのでよく似た犬種として仕上がった。これ故、FCIにはカンガールとアナトリアンがほぼ同じものとして統括公認されてしまっている。


今日もトルコやアメリカではメジャーな実用犬で、ほとんどペットやショードッグとしては飼われていないらしい。アメリカではコヨーテ対策によく使われている犬種の一つで、羊に脅威が迫ればそれぐらい殺害することは容易いことだ。



~特徴~
:毛色がフォーンのものはカンガールとウリ2つだが、こちらのほうがよりたくましく頭部も幅広く、毛色もカンガールはフォーンにブラックマスクのものしかほぼいないのに対し、本種はほかにも白単色、白地に有色斑、トライカラーといったカラーバリエーションがある。


筋肉隆々の体つきで力強く、耳は垂れ耳、尾は巻き尾か垂れ尾。コートはやや厚めのショートコート。


性格は主人にのみ忠実、知的で警戒心が強く勇敢。しつけの飲み込みはよいものの、もとがモロサス種なので攻撃性は高く、自分が主人と認めたもの以外には従わないため犬の知識があり自分でしっかりと訓練ができる人にしか飼えない犬種である。




・追伸&雑記
:アナトリアン・マスティフはこれの大型種です。めちゃくちゃでっかいです。


著名なトルコ産護畜犬種は本種、アクバシュ、カルス、カンガール、アナトリアン・マスティフの5種が知られていますが、アメフトさんの調べによるとまだ他に数種の希少な実用種が存在しているとのことです。


悲しいことに、アメリカでは違法闘犬にも用いられており、愛好家の頭を悩ませています。



※ブラックマスク:

顔の特定部に入る黒いマーキングのこと。一般的にはマズル、耳、頭頂に入ります。薄い場合はマウスグレーと呼ばれたりする場合もありますが、そちらはレアです。

世界各地で発生しており、日本でもよくみられるマーキングです。





№71 アナトリアン・マスティフ


data;2012.1.9 写真;○



黒狗の犬小舎-anasas


・原産地;トルコ中部

・別名;アナトリアン・モロサス


・愛称;ラージ・アナトリアン、ビッグカンガル


・使役;護畜犬、闘犬


・サイズ;体高81cm以上 体重65~90kg


・状況;原産地ではそこそこメジャー




~歴史~
:アナトリアン・シェパードドッグ、及びカンガール・ドッグの親戚種で、それよりももっと大きく力強いタイプの犬種である。


生粋の作業犬で、本種がいれば武装した泥棒だろうと豹だろうとなんでも退治してくれる極めて強靭な犬のため、とても重宝されている。


基本的に護畜犬だが、アナトリアン・シェパードと同じく闘犬として使われてしまうこともある。


FCIにはアナトリアン・シェパードの大型変種として扱われ、公認されていない。

今も昔も作業犬としてのみ育成されており、ショードッグとしては使われていない。



~特徴~
:アナトリアン・シェパードよりもさらにたくましいモロサスで、肉体美(?)はなかなかのものである。力も極めて強く、本気で噛まれれば豹のような猛獣であってもひとたまりもない。マズルは太く短く、眼光は鋭い。耳は垂れ耳、尾は垂れ尾だが、尾は短めに断尾されることもある。


コートはショートコートで、毛色はフォーン、クリーム、ブリンドルなど。たいていブラックマスクが入る。


性格は主人にのみ忠実、警戒心が強くとても勇敢。独立心も強く攻撃的なので、しっかりと訓練できる人でなければ飼育できない。




・追伸&雑記
:サイズスタンダードに上限はありません。なので、体重100kgを超える個体も存在します。


原産地では女性は引っ張れないとまで言われていますが、これだけ体重があるので間違いではありません。

自分と同じ体重のものぐらいは余裕で引っ張れ、一番小さいアナトリアン・マスティフ(体重65kg)でも私(8日現在体重47kg)はとても引いて散歩するかとができません。逆に引っ張られてしまいます。





№72 アクバシュ


data;2012.1.12 写真;○


File:Akbash Dog in CA.jpg


・原産地;トルコ西部

・別名;ターキッシュ・アクバシュ、アックシュ、アクバス


・愛称;アクバシュ


・使役;護畜犬、警備犬


・サイズ;体高71~80cm 体重40~64kg


・状況;希少




~歴史~
:トルコ西部の護畜犬種で、白い巨犬グループの一種である。

かなり古い犬種だが、生い立ちはよくわかっていない。他の白い巨犬と同様、夜間に見やすいように白い毛色のものが選ばれてブリードされてきた。


「アクバシュ」はトルコ語で「白頭」を意味している。


1996年、一度トルコで同国原産の護畜犬種として他種とまとめて公認されるが、違いは毛色や毛質だけでないとして各愛好家は統括公認を却下、以後、それぞれの種が独自に公認されることを目指して活動している。


もともと西トルコでしか使われていない生粋の作業犬だったが、アメリカへコヨーテ対策用の護畜犬として持ち込まれ、評価されたことがきっかけで初めて原産国外でも犬種クラブが結成されることになった。このアメリカにできた犬種クラブは今日、アクバシュブリードクラブの本部になっている(アクバシュ・ドッグ国際協会)。


今日もほとんどが実用犬だが、一部はペットになっている。尚、アクバシュには短毛種も存在するが、たいていただの毛違いとして扱われている(のちのち解説)。



~特徴~
真っ白いもこもこのロングコートを持つ護畜犬種である。他の白い巨犬との大きな違いは脚が少し長めなところである。頭はそれほど大きくなく、マズルもちょっぴり長め。頭部の形はラブラドール・レトリーバーなどのようにやや幅広。耳は垂れ耳、尾はふさふさの垂れ尾。


コートはもつれ気味で厚く、防寒性が高い。ちなみにこの毛は夏に刈り取って紡ぎ、セーターなどの材料に使われる。毛色はピュアホワイトからクリームといった白系のもので、時折それに有色斑が入ることもある。


↑羊とアクバシュ


性格は落ち着きがあり自信に満ち、極めて愛情深い。

主人や主人家族、護衛を務める羊たちとの間に深い絆を持ち、そこから離すことは簡単にはできないといわれている(この性格はペットにもうってつけである)。


ただしもとが護畜犬種のため、力も防衛本能も強く、ペットとして飼うには主人が自分でしっかり訓練することが必要不可欠だ。守るべきものに危機が迫れば、主人が制止するか自らが死ぬまで戦い続ける。


・追伸&雑記
:私がウィキに出入りし始めたころにあった↓の11歳の老アクバシュの画像は、本人の死去によって削除されたとのことです。ご冥福をお祈りします。

黒狗の犬小舎


※白い巨犬

:グレート・ピレニーズに代表される、白くもこもことした、大きな護畜犬種の属するグループ。

これらにはいずれもどこかしらで同グループの犬種とのつながりがあり、アクバシュかマレンマ・シープドッグ=マレンマーノが源流といわれています。

イタリアオオカミもこのグループとはなんれか関係があるとみる専門家もいます。


狼やクマといった猛獣に対応し、厳しい寒さから身を守るための毛を発達させたもので、みんなよく姿が似ています。

白い毛色になったのは夜間でも識別しやすく、誤射殺を防止するためのものです。


愛情深く、愛らしい姿ですがもとは勇敢な護畜犬なのでしっかりとコントロールできるようにしつけましょう。日本ではあまり聞きませんが、世界では正しく管理できていないことで毎年咬傷事故が発生しています。


尚、英語ではホワイト・マウンテン・ドッグズ、ホワイト・ラージ・マウンテン・ドッグスなどと呼ぶようです(ここだけの話、白い巨犬というのは私が勝手に和訳しました)が、決まったグループ名はないようです。


白い巨犬はそれぞれがかなり似ているものの、個々のキャラはわりとはっきりしているほうです。セントのみのセントハウンド種やフォックス・テリアタイプ犬種のほうが私は見分けが難しいと思います。


※訓練

:この資料上では服従訓練のこと。飼い主が犬より順位が高いことをしっかり覚えさせ、コントロールできるようにすること。大型種やモロサス種では必要不可欠なしつけの一つですが、もちろんどの種にも必要なのはお察しのとおりです。


「訓練」ができていないと大型種の場合順位逆転による暴走事故(例えば咬傷、独占マウンティングなどの問題行動)が起こりやすいため、注意しましょう。

↑今後雑記欄とは別の関連するはみ出しメモがある場合、青字で見出しをつけることにしました。







№73カンガール・ドッグ


data;2012.1.12 写真;○



・原産地;トルコ中部 シバス県カンガール地区

・別名;カンガール、カラバシュ、カラバッシュ


・愛称;カンガール


・使役;護畜犬 ※もともとは軍用犬にもなっていた


・サイズ;体高81cm 体重65kg


・状況;原産国ではメジャーな作業犬。トルコの国犬




~歴史~
アナトリアンと混同されがち(FCI№も同じ)だが、本当は別の犬である。

原産地が孤立した高原であったため、何千年も純血が守られてきた。

アナトリアンにカンガールの血が強く流れているのは近代の異種交配によるものだが、原産地から他の地域に持ち出されたカンガールが他のトルコ産護畜犬種に異種交配され血統のリフレッシュにつかわれることは古くからあったようである。


古代モロサス系の流れを汲む犬で、アナトリアンと同じく軍用犬としても使われていた時期があった。やはり来襲した敵兵を馬から叩き落として殺害していた。


尚、これまた昔の話だが、カンガールが狼や敵兵を殺すと、その栄誉をたたえるために特別な鉄製の首輪が付けられた。


現在カンガールはトルコの国犬に指定されており、名犬種として原産地を飛び出し広い地域で長く愛され続けている。

原産国ではアナトリアンとは別の伝統的な犬種であると認知され、慎重なブリーディングが行われている。多くの犬は今日も実用犬として飼育されている。


↑とはいえ、最近はペットとして飼われるものも増えてきました。



~特徴~
:アナトリアンとは違い、毛色はフォーン系でブラックマスクが入ったもののみ。カラバシュ(土語:黒頭)と呼ばれるゆえんである。又、こちらのほうが脚が長く、マズルも若干長めで先がとがっている。


筋肉隆々で骨太のたくましい犬で、胸板が厚い。耳は垂れ耳、尾はサーベルに近いが、若干巻いている。コートは厚めのショートコートで、雨や狼の牙から身を守る。


性格はとても忠実で献身的、護畜犬種らしく警戒心が強く勇敢で防衛本能が旺盛。

体力は他の護畜犬種と同じく旺盛で、牧羊地移動の長旅も平気である。



・追伸&雑記
:アナトリアンが完全に品種化されたのは先に書いたように19世紀のことですが、護畜犬種が複数混在するトルコ中部にそのもととなる雑タイプのものが古くから存在していたようです。


アナトリアンとカンガールの他の違いはカンガールが中部カンガール地区原産で長く純粋を保ってきた犬種であるのに対し、アナトリアンはカンガールだけでなく中部の広域にある護畜犬種混在地域の出身で、アメリカ兵に持ち帰られて品種化されるまでただの雑種として扱われていたことなどもあります。


勇敢なカンガールに贈られる首輪(通称勇者の首輪)は職人が一つ一つ特注で作る(時代的にハンドメイドは当たり前のことですが、その中でも特に心身籠めて作られていたそうです)もので、とても高価なものでした。

普通の革製の首輪に比べて非常に硬く、狼の牙もひとたまりもないため、こうした特別な犬にしかつけてあげられませんでした。

↑鉄製の首輪。勇者の首輪は確かもっと厚くてスパイクも細長くとがっています。

尚、この首輪はご想像通りかなり重いので、現在は使われていません。伝統的にこの勇者の首輪を優秀な犬につける風習が残っている場所もありますが、昔に比べて首輪が軽くなっているとか。いずれにせよ、肩が凝りそうですね。

Kangal dog with spikey collar, Turkey.jpg

勇者の首輪を模した首輪。

スパイクは鉄製、首輪本体は牛皮製です。このタイプが現在メジャーだそうです。


名前が紛らわしいですが、オーストラリアのカンガール・ドッグは全くの別種です。あちらはサイトハウンド種で、絶滅寸前の希少種です。



※サーベルテール(サーベル)

:西洋の剣、サーベルの刃のような形をした尾形のこと。

サイトハウンド種に多く、たいていの場合多かれ少なかれ飾り毛があります。

飾り毛が全くなく、とても細いとラットテールになります。


サーベルと言われると剣歯虎を想像するかと思いますが、それと由来は同じです(その虎種名はサーベルのような牙の虎、の意味です)。

↑サーベル


↑サーベルテールの代表例(サルーキ)






№74カルス・ドッグ


data;2012.1.12 写真;○



・原産地;トルコ東部 カルス町

・別名;カルス・シェパード、ワンレイク・ドッグ、ターキッシュ・シェパード・ドッグ


・愛称;カルス


・使役;護畜犬種


・サイズ;?


・状況;基本的に地域限定。希少。




~歴史~
:コーカシアン・シェパード・ドッグの親戚種である。

その高い忠誠心と勇敢さからカルス町で古くから親しまれ重宝されているが、辺鄙な地域のため長らく他の地域には出されることがなかった。


ワンレイク・ドッグの別名はワン湖近くに原産地があるため呼ばれていたものである。


1996年に初めてトルコの有識者間で本種のことが話題となり、原産地外の犬好きの間にも知られるようになった。ブリードクラブも正式に設立されているが、頭数が少ないので絶滅が危惧されている。今日もほぼすべての犬が実用犬として飼育されている。



~特徴~
:コーカシアンの長毛種のような立派で厚いコートを持ち、防寒性と防身性は他の著名なトルコ原産護畜犬種より勝る。コリーっぽい雰囲気も若干持つ古いモロサスタイプの犬で、筋肉隆々でたくましく、力が強い。

マズルは短く太い。耳は垂れ耳だが、断耳して全切除することもある。尾はふさふさの垂れ尾。

コートはロングコートで、タテガミは特に厚い。毛色はブロンズやグレー、ウルフなどの雑色で、マズルや胸にはホワイトのパッチが入ることもある。


性格は主人にのみ忠実で従順。主人と主人家族に対しては愛情深いが、それ以外の人に対しては心を開かず警戒心が強い。勇敢で防衛本能が高く、主人の正しく厳しい訓練が無ければ扱うことができない。



・追伸&雑記
:トルコではカンガール、アクバシュ、アナトリアンと並んで著名な護畜犬種ですが、その中でも最も無名の存在です。ですが数頭アメリカに輸出されており、コヨーテ対策につかわれています。



※シェパード

:英語で「牧羊犬」の意味。シープドッグと同義で、牧羊犬種や護畜犬種に多くこの名がついています。


日本ではGSD(ジャーマン・シェパード・ドッグ。この資料では常時この表記を用います)が有名でそれが単にシェパードと呼ばれますが、あまりにもこの名前がつく犬種が多い(私もはっきり把握していませんが、少なくとも200種くらいはありそうです)ので注意が必要です。


尚、牧畜犬タイプの犬のことをハーダーと呼ぶこともあります。