⬆️参考記事
本編で端折った部分を細かく描いておこうと思います。
三月のこの日はいよいよ徐侯府の春日宴。
光溢れる春の日、
羅家の一行は永平侯爵家正門に到着した。
馬車から降り立った三姉妹。
徐府の壮麗な正門を前にして二姉は早速二人の妹達を圧倒しようと講釈を垂れた。
「永平公府は先帝時代の公主府で公主のご薨去後、徐家に与えられたの」
五姉は感嘆したように呟いた。
「大姉上の嫁ぎ先は皇室の別邸なのね」
二姉の講釈は続いた。
「公主は先帝に寵愛されていたわ。他の別邸とは格が違うのよ」
十一娘の後ろで冬青が小声で陰口を聞いた。
「まるで侯爵夫人みたいな口ぶり…」
冬青は常日頃から二姉に反感を抱いている。
(冬青…!)
十一娘が振り向き視線で叱った。
そこに羅大夫人が降りて来たので皆が頭を下げていると陶乳母が早速出迎えに降りて来て派手に挨拶した。
「あいよ〜大奥様!ようこそお越し下さいました!奥様がお待ち兼ねです。どうぞ、、、」
大夫人は三人の娘達を振り返り号令を掛けた。
「さ、姉上に挨拶に行くわよ」
三人は揃って頭を下げた。
「はい…」
敷居を跨ぐと目の前には広壮な前庭が広がって居る。
この奥にはどれだけの敷地が広がっているのか想像もつかない…
十一娘は思わず五姉に尋ねていた。
「五姉…こちらの候府は初めて?」
「二姉上は二度目で、私は初めてなの…」
二姉が振り返った。
「四角い石燈籠は普通の候府にはないものよ…でも永平侯爵家の格を思えば驚く程の事?」
二人は石燈籠に関心も驚きもない。
十一娘は家の格についてそこまで調べて講釈を垂れる二姉に呆れていた。
「五妹、十一妹。姉上からの贈り物は有り難く頂くのよ。断ったりがっかりしたり騒がないでよ」
見舞いに訪れた妹達の為に大姉は記念の品を用意している筈だから遠慮したり慌てるなと云いたいらしい…。
二度目だと云うだけでいちいち上から教え諭そうとする二姉に五姉が反発した。
「嫡母上が一緒なのに二姉上がご指導なの?」
前を行く大夫人に聞かれたかと二姉は慌てて弁解した。
「母上、妹達が心配なだけです…出過ぎた真似は致しません」
大夫人は娘達が浮足立たないよう釘を差した。
「二姉が正しいわ…今日は徐家の春の宴。身分の高い賓客が大勢集まる…初めて来たからと言って騒いだりせず、羅家や姉上に恥をかかせないようにね」
「はい」
「大奥様、奥様はこちらです」
南跨院の屋敷内に入って陶乳母が案内したのは寝室だった。
永平侯爵夫人・羅元娘は宴に出る体力を既に失って寝台に座って居た。
「母上、いらっしゃい」
それでも実母の到来に寝台の元娘は明るい声を出した。
「元娘!母が来たから安心なさい」
大夫人は寝台の足元に座り、部屋の隅に控えた三人を振り向いた。
妹達は一斉に腰を落とした。
「姉上にご挨拶を」
妹達は揃って生気に満ち溌剌としている…。
元娘はしみじみとした調子で言った。
「月日が経つのは早いわ。私の後ろをついて廻っていた子たちがこんなに美しく成長したのね…」
「姉上…」
二姉は呼ばれぬ先から寝台の脇に近寄り跪いた。
十一娘達もそれを見てその場で跪いた。
「姉上の為に慈安寺で平安符を頂いて来ました、これがあれば直ぐに回復します」
守り袋を姉に手渡すと二姉はわざとらしく涙ぐんだ。
元娘は後ろに控えていた妹達を気遣った。
「床は冷えるわ…お立ちなさい」
そして急に泣き出した二妹を慰めた。
涙はあざといが守り袋をくれた気持ちは嬉しい。
「全く幾つになっても泣き虫なんだから…優しい子ね」
元娘は十一娘に目を移した。
母が三年前余杭に追い出した話は聞いていた。
可哀想な事をしたがこうやって再会出来たのだから十一妹には幸せになって貰いたい気持ちが湧いた。
「十一妹ね」
「姉上お久しぶりです…」
昔から聡い子だと思っていたが今見ても落ち着いている。
二妹のように感情を露わにする事もない。
一層賢く成長してくれたようだわ。
元娘はしみじみと妹を眺めて褒めた。
「何年ぶりかしら…女の子は変わるわね…益々美しくなったわ」
それを聞いた二姉は苛ついていた。