
旦那様は近頃毎晩遅く、場合によっては朝方お帰りになる。
いつ休んでらっしゃるのか尋ねたら軍営で仮眠を取っていると仰った。
この日も明け方にお戻りだ。
十一娘は湯殿の冷めた湯を温かい湯に入れ替えて貰いながら十一娘は旦那様の軍服を脱がせた。
「旦那様、、毎日これでは…何か特別な出来事でもお有りでしたか?」
「特別な事などない。これが我々の本来の仕事だ、、とは言っても気になるのだな?」
「気になると言うより…旦那様のお身体が心配なだけです」
令宣はにやりとした。
「嘘をつけ。浮気でもしていないか心配してるんだろう?」
そう云って両掌で十一娘の頬を包みこんだ。
十一娘は本気で吹いた。
仕事の虫の旦那様に限ってそれはないわ…。
妻は即座に手を振って否定した。
「まさか!頭に浮かんだ事もありません」
令宣は少し残念そうだった。
「じゃあ、アレだな」
「アレとは?」
その時遠慮がちな侍女の声が扉の向こうから聞こえて来た。
「奥様、湯が入りました」
「下がっていいわよ」
召使い達が西跨院の部屋から一斉に去ってゆく気配がした。
「旦那様、アレって何ですか?」
「決まっている…さ、お前も脱げ」
「えっっ!!」
あれよと言う間に十一娘も寝間着を取り去られてしまい柔らかな裸身は令宣の逞しい腕に抱えられて湯船の中にとぷんと落ちた。
自然と二人の唇は合わさり湯殿には吐息が満ちる。
溶け合うというのはこのひととき。
思う存分口づけを楽しんだ後令宣はやっと唇を離した
「こうしたかったんだろう?」
既に令宣の掌は妻のぷるんとした丘を包んで揺らしている。
「旦那様…」
そんなつもりじゃ…
理性的で清純な妻を演じようとしても身体は裏切り
花びらから蜜が溢れるように甘く濡れて夫の期待に応えている。
「恥ずかしがるな…夫婦なんだから当然だろう」
「あ…あ…はい…こうしたかったのです」
夫の笑みにほだされてつい正直に答えてしまった。
令宣こそ遠慮も何もあったものではない。
攻撃は最大の防御とばかり彼女を責め立てる。
「あ…あ…」
どうも令宣は若い妻を何が何でも満足させてやらねばならないと頑なに信じ込んでいるフシがある。
令宣のせいで十一娘は朝から気怠くなっているのに当の令宣はさっぱりとした顔をしてさっさと普段着に着換えている。
「さあ、朝餉だ」
十一娘は呆れた。
「旦那様、少し横になられたらいかがですか?まだ世が明けたばかりですから」
「昨夜歩いて腹が減ったんだ。休むのは食べてからだ」
まあ…お腹が空いていらしたのに先程のような事をなさったのですか?
十一娘は思ったが口に出さなかった。
「どうした?まだ届かないのか」
十一娘は笑って隣の部屋に控えていた侍女に声を掛けた。
「旦那様が朝餉をお急ぎなの。伝えて来て」
侍女が慌てて走り去る。
十一娘は令宣に芳ばしい茶を淹れた。
「旦那様、まだお聞きしていません。今捜査中なのはどんな案件ですか?他言しませんので教えて下さいな」
令宣は小さく頷くと湯呑みを置いた。
「お前の故郷から来た農家の娘を覚えているか?」
「忘れるものですか!」
あんな強烈な個性の女子は初めてだった。
「陳玉翠…」
「そうだ。その手の家出娘の事だが…最近家出娘が夜の巷に多く出没し春を売っているのだ…」
「まあ…」
安易に家出したものの銀子が無くなり夜の街に立って客を取る…そんな末路が容易に想像出来た。
「その娘達が相次いで殺されのだ。遺体は著しく損傷し一目で憎悪に満ちた者の犯行だと分かる」
「なんてこと…」言葉が無かった。
玉翠は徐家を頼って来たので助かった…そして両親が連れ戻しに来たから一人彷徨わずに済んだ…
それは単に幸運だっただけだ。
「旦那様…恐ろしいです…」
十一娘は身震いした。
「心配するな。必ず犯行を暴いて犯罪者は捕らえてみせる」