あれから数日も過ぎたころ、

二娘の顔色は嘘のようにすっかり明るくなっていた。

金蓮の手に入れた丸薬の効き目もさることながら、二娘本人が気力を奮い立たせた結果だった。

このまま敗者として皆に馬鹿にされたまま死にたくない。

その一念が二娘を支えていた。

「やっと全快されましたね」

髪を整えて居た金蓮が鏡に映った二娘に語り掛けた。

「お前が看病してくれたお蔭よ…」

確かに金蓮の献身的な看護がなければここまで回復するのは覚束なかっただろう。

美しく化粧をした自分の顔を満足げに見ていた二娘は金蓮をねぎらった。


金蓮は十一娘様に呼び出しを受けて徐家に出向いた時の事を思い浮かべていた。

十一娘は薬を準備して、その飲ませ方まで微に入り細を穿つ如く金蓮に指南したのだ。

だがその全ては口止めされた。

「これほどよくして下さるのに何故隠す必要があるのですか?」

「私がお前を助けていると知ったら二姉はどう思う?…大丈夫。私の言う通りにすれば必ず回復するわ」

十一娘は自分の名を一切出すなと言う。

それに従っていたら本当に奥様は回復されたのだ。

十一娘様に感謝の気持ちでいっぱいだけれど、時が経つまでは胸の奥に封印しておこう。

「奥様は病の身で私を案じて下さいました。当然の務めです」


二娘は顔を引き締めた。

「身体が回復したからには何もかも取り戻すわ…王劉氏は私が死ぬのを待ち焦がれているのよね…」

金蓮はその言葉を待っていた。

二娘は持ち前の勝ち気さを取り戻して金蓮に命じた。

「金蓮、王劉氏に伝えなさい。看病のかいがあって回復の兆しが見えたとね。治るかも知れないと」

「はい!」

「天下に知らしめるわ…」

二娘はいよいよ以前の彼女の本領を発揮した。

「私こそ王家の女主人だとね!」


その王劉氏の専横は極みにあった。

世子の母である事を盾に女主人のように振る舞い諌める者は居なかった。

金蓮は屋敷の外へと呼び出された。

出てみると世子や姥らが居並んでいる。

「何のご用ですか?看病で忙しいんです」

「金蓮、お前もそろそろ嫁ぐ年頃よ。もう若奥様の世話はしなくていいわ」

「どういう事ですか?」

「お前はこのお方に嫁ぎなさい」

王劉氏の横に立つ痩せた老人がにやにやしながら金蓮を値踏みするように伺っていた。

金蓮はゾッとした。

王劉氏は金で私をこの老人に売ったのだ。

「お前の将来を考えて上げたのよ」

「私にお世話をさせず追い出して若奥様を殺す気?」

金蓮がここまで反抗するとはと王劉氏は鼻白んだ。

「たかが侍女の分際で主人に無礼な口を聞くとは

!」

怒った王劉氏は姥に命じた。

「罰を与えて!」

金蓮はいきなり横面を叩かれた。

だが金蓮も負けては居ない。

「何様のつもり!?」

王劉氏は強引に事を終わらせるつもりだった。

老人を振り向いた。

「黃殿、この子はもうあなたの女です。どうぞお連れ下さい」

老人はいやらしい笑みを浮かべながら嬉しそうに何度もペコペコと頭を下げた。

「ありがとうございます!奥様」

そう言うと金蓮の腕を取った。

「さあ、一緒に帰ろう」

「やめて!!」

「大切にするから…」

老人はしつこかった。

金蓮は振り解こうと暴れた。


その時屋敷の方から鋭い声がした。

「おやめ!!」

皆が一斉に声がした方を見る。

屋敷内から数名の男の使用人達を従えた二娘が現れた。

二娘の歩みは堂々としておりつい先日まで床について居たとは思えない。