私の今の家は、引っ越した時に全面的に壁を塗り変え、一部には壁紙を貼った。その時内装を手がけてくれたスウェーデン人の左官屋さん(といってももう定年退職していて、趣味と実益を兼ねて急がない仕事だけ受けているそう)。
この方がフィーカの時に話してくれたことには、彼の母方はロシア出身で、祖父はサーカス団を率いてヨーロッパ中を巡回公演していたのだそうだ。
 
ちょっと待て! フィーカとは何か? スウェーデンに住んでいる人やスウェーデン通の人なら知っているだろうけれど・・・ 簡単に言ってしまえば、仕事の休憩とかのお茶の時間のことです。
私も子供の時よく木下大サーカスを見に行った記憶があるし、スウェーデンに来てからも、地元にはサーカスと移動チボリが年に一度くらいやって来る。しかし今、日本では昔みたいなサーカスはほとんどなくなっていて、海外からシルクドソレイユのような団体がやってくるぐらいだ、と聞いた。
 
しかし、パソコンもテレビも、ラジオさえない時代、サーカスは人々の娯楽として親しまれていた。よって、サーカス団も色々な国にたくさんあったらしい。左官さんの祖父のやっていたサーカス団も、ロシアに当時たくさんあったサーカス団の一つなので、今では名前もわからないのだそうだった。
 
昨年読んで面白かった本がこれ。
幕末から明治維新の頃、海外へ飛び出した日本人というと政府から派遣された役人とか、留学生とかだけなのかと思っていたら、実は軽業師などの芸人が誰よりも先に海外に渡り、彼の地で大活躍していたのである。
この本は、幕末から明治にかけて、その中でも特にロシアに渡った日本人芸人たちの活躍ぶりや、その末裔がたどった数奇な運命を辿って紹介している。
 
著者大島幹雄さんは、崩壊寸前のソ連で、革命前のソ連で活躍したと思われる日本人サーカス芸人の写真を入手する。名前しかわからない三人の男性芸人。その足跡を追いかけているうち、日露戦争、第一次大戦、ロシア革命 ・・・ そしてスターリンの大粛清も生き延びた、歴史の中に埋もれた日本人がいたことを突き止める。
私はこんなノンフィクションを読むのが好き。
 
そういえばスウェーデンの元首相ラインフェルト氏も、曽祖父がアフリカ人のサーカス芸人だったのだそうだ。彼、8分の1アフリカ人に見えるかな? ↓
彼の曽祖父がサーカスで活躍していたのも、左官屋さんの祖父がロシアのサーカス団を率いていたのも、ちょうど明治から大正時代、日露戦争や第一次世界大戦の頃だったのだろう。彼らはこの本に出てくるイシヤマやタカシマの芸を見たことがあったかもしれない。
 
(ちょっと長くなったので、この本についての話はまた後日に続く)