運動エネルギ-とATPの産生系
運動に使われる筋収縮エネルギ-は、筋細胞中に蓄えられているATPとCP(クレアチンリン酸)の分解によって産生されます。
体内で産生される全エネルギ-の3/4位は体温維持、1/4位が運動エネルギ-として消費されますが、ATP量には限界があるので運動を継続するには絶えず再合成する必要があります。
ATPの産生系には
①ATP-CP系(非乳酸性、持続時間はおよそ8~9秒)
②乳酸系(無酸素運動。解糖系により産生。持続時間は33秒で緊急用エネルギ-)
③酸素系(有酸素運動。TCAサイクル系により産生。)
があります。
運動強度と脂肪燃焼
運動強度(例えばランニングスピード)を徐々に増加していくような運動では、運動強度が低い時(すなわち遅いランニングスピード時)には主に有酸素的エネルギー供給機構が働いています。
一方、運動強度が高く(ランニングスピードが速く)なると、有酸素的エネルギー供給機構によるエネルギー量(すなわち有酸素的エネルギー供給機構で生成されるATP)だけでは不十分となり、無酸素的エネルギー供給機構が働くようになってきます。
この無酸素的エネルギー供給機構が働き始める時点を、ワッサーマンらはAT(Anaerobic Threshold)すなわち「無酸素性作業閾値」と名付けました。
トレーニングを積んだスポーツ選手などではATの運動強度が高く、心肺機能を強化し酸素摂取能力を高めると高い運動強度でも酸素不足がおきにくくなります。
運動時の糖質と脂肪の燃焼割合は運動強度により異なりますが、AT以下の運動強度では、糖質と脂肪の燃焼割合はほぼ50%ずつです。
それよりも強度が高くなると酸素不足のため脂肪を燃やせなくなり、脂肪よりも糖質を多く燃焼させるようになります。
すなわち、効率よく脂肪を燃やすためには、ATレベルぎりぎりでの有酸素運動を行うのが理想的です。
ATレベルは一般人で最大酸素摂取量のだいたい60~70%で、ATの90%レベルはおよそ最大心拍数の70%に相当します。
ATを心拍数で表すとおよそ(220-年齢)x0.65~0.85の範囲内となりますが、 138-(年齢/2)でも求められることができます。
有酸素運動のエネルギー産生
有酸素運動は、脂肪を燃焼する運動として知られていますが、いきなり脂肪を使っていくわけではありません。
はじめは筋肉内に貯蔵されているグリコーゲンや血中の糖質がおもに使われ、次第に血中の脂肪を利用する割合が多くなっていきます。
筋肉内と血液中には、すぐに運動のエネルギーに使えるように糖質がスタンバイしています。
有酸素運動を開始して最初の10分程度は、糖質が主なエネルギー源となります。最初は酸素の供給が間に合わないからです。
徐々に酸素の供給ができてくると、同じ糖質を利用するのでも、酸素と結びついてエネルギーを生み出すようになります。
有酸素運動を開始して10分ぐらいから、徐々に血中脂肪も使われ始めます。時間がたつほどに糖質よりも脂肪が多く利用されるようになります。
脂肪はその中に含まれている酸素の量が糖質より少ないため、その燃焼のためにはより多くの酸素を必要とします。そのため酸素供給量の少ない最初の時間帯は、脂肪を燃やすほどの酸素がないために、より少ない酸素でも燃焼できて利用しやすい糖質がエネルギー源の中心になるのです。
しかし糖質には限りがあり、血糖値が下がってくる頃には、酸素の供給も増えてくるので、脂肪が燃えやすくなります。
血中のエネルギー源が不足してくる20分あたりから、脂肪分解酵素リパーゼが内臓脂肪や皮下脂肪を分解しはじめ、エネルギーの不足分として血液中に送り出し、それが酸素と結びついてエネルギーを生み出します。
脂肪は血液中にも流れていますが、大部分は体脂肪という形で蓄えられています。体脂肪は皮下脂肪と内臓脂肪に分けられます。
体脂肪のうち、内臓脂肪の代謝の方が活発なため、まずは内臓脂肪が使われていきます。
次に、皮下脂肪が使われます。
なお、有酸素運動中のエネルギー源が、完全に糖質から脂肪へとスイッチすることはなく、糖質は「種火」として、わずかながら燃え続けます。糖質が尽きると、脂肪の燃焼も止まってしまうのです。
ですから、有酸素運動をし続けるには糖質も不可欠といえます。
低血糖状態で運動し続けると、筋肉を分解して、タンパク質をエネルギー源にしようとするので、注意が必要です。