【朝コラ】高齢者のアクティビティの確保が経済を活性化する | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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高齢者のアクティビティの確保が経済を活性化する
(三菱総合研究所 環境・エネルギー研究本部 主席研究員 田中秀尚)


車と車いすの間の空白地帯

 20世紀型の車社会が、21世紀に持続不可能であることが明らかになり、ガソリンから電気への車のエネルギー転換が本格的に始まった。しかし、21世紀の交通システムは、それだけでは十分とはいえない。もう一つの重要な課題である超高齢社会への対応を同時に進めなければならないからである。

 高齢者が、安全、快適に移動できるようにすることは、交通以外にもさまざまなベネフィットがある。高齢者の消費を増やす効果があるし、高齢者の消費や社会参加が活発化することで、寝たきりや要介護者の比率を下げることにもつながる。結果として、医療費や介護費が削減される。そして、より重要なのはより質の高い高齢社会が実現することである。

 高齢社会に対応した交通体系とはいえ、既存のインフラをすべて造り替えるのは現実的ではない。高齢者のアクティビティを確保するのに、どこをどう改善するのが最も効率的か。通勤と都市間輸送は、バス、鉄道、航空機などの公共交通機関を主体とする交通体系が効率的で既存のインフラでほぼ対応している。問題は、高齢者の日々の生活の大部分を占める2km圏である。この領域は、徒歩、自転車のほか、公共交通としてバス、路面電車の領域であるが、大都市圏以外は利便性が低く、マイカーが主な交通手段である。身体的機能に衰えのない人はマイカーで不都合はないかもしれない。また、要介護になれば、車いすを使わざるをえない。問題はその中間である。身体的に衰えを感じ、車の運転が不安、負担と感じる人たちのモビリティ、車と車いすの間の空白ゾーンである。電気自転車や小型電動カートなどはその空白ゾーンを埋めようとする試みであるが、車両だけでの解決では効果は限定的である。


車両単体ではなく社会システムでの解決

 まず、高齢社会のアクティビティを上げるモビリティが保有すべき機能とはどのようなものかを考えてみよう。高齢者の事故の主要要因としては視野の低下(周辺視野、動体視力など)や反応時間の遅れ(ハンドル、ブレーキなど)がある。いわゆる身体機能の低下に起因するものである。その結果、ある年齢に達すると高齢者は必然的に免許を返上せざるをえないこととなる。高齢者の社会参加を容易化するためには、まず、このような身体機能の低下をサポートする各種機能を実現する技術開発が必要である。具体的には、取り回しのしやすい車両サイズ、駆動システム、安全性や快適性を向上させる情報通信システムなどである。

 こうした機能を実現するには、車両だけではなく、インフラの機能も併せて整備することが必要だ。車両走行・移動の安全性・迅速性を確保するための情報通信システムインフラの整備、車両の電動化に伴う給電システムや、自然エネルギー利用のための送配電システム、安全性・快適性向上のための歩行者動線と融合した専用道路の整備などである。すでに、電気自動車向けには多くの実証実験が始まっており、基本的な給電システムの技術は確立しつつあることから、これを流用・応用していくことが実現の近道となる。

 さらに、新たなシステムに対応した制度も必要となる。普通免許を返上した後でも、引き続き運転が可能となる免許制度や関連する道路交通法の改定、専用の保険や金銭的負担を軽減する金融サービス、購入を支援する優遇税制などである。量産化、海外展開のためには、標準化と規格化も重要な課題である。

 かつての車社会とは、ライフスタイルや価値観が変化していることもあるが、こうした新しい交通システムを社会に普及させるにはビジネスモデルの転換が必要だ。車両というハードを売ることから、モビリティというサービスを売るのである。それは、カーシェア、レンタカーだけではなく、維持メンテナンス、情報通信による付加価値向上などの周辺ビジネスも含まれる。21世紀の自動車産業はこうした姿になるだろう。

 今、新興国市場開拓が注目されるが、21世紀型のビジネスモデルを世界に先駆けて確立することはそれに劣らず重要だ。

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