福島第一原発20km圏内、警戒区域を出て東京への帰り道。
日曜PM8:00.連なるテールランプにため息の東北自動車道。
月曜の朝。泥のように眠る短い夜が明けると、
息つく暇もなくクルマを走らせた圏内の道端に
ひょっこり顔を出した痩せこけた猫の姿が、
まるでスライドショーのようにフラッシュバックしてくる。
クルマのエンジン音を聞きつけて、
最後の力を振り絞って、よろよろと歩み寄る小さな命。
救えない命が一体どれだけいるのか。
どうしてわたしはこんなに無力なのか。
この世に神様はいないのか。
福島第一原発メルトダウンから半年以上。
幹線道路の入り口は,今も警察によるものものしい警備が続いている。
そして、どんなちっぽけな道も,固いバリケードで完全封鎖されてしまった。
コノサキハ、ミテハイケマセン。
カッテニハイルコトハ、ハンザイデス。
Q、生きている動物を見殺しにすることは、犯罪ではないのですか?
一旦20km圏内に入れば、時間とパトカーとの勝負になる。
警察に見つかれば拘束。そこから給餌が出来なくなる。
やっと保護した犬と猫を置いていけと詰め寄られる。
クルマに積んだ200kgのフードとポリタンクの水を分けて、
いつもの場所、数十箇所に置いていく。
猫の姿があれば捕獲機を置いて次を回り、時間をおいて回収。
決まった場所を回り終える前に、捕まるわけにはいかない。
圏内を回ること8時間。
伸びたつる草や木々の枝がクルマのボディーをこすり、
落ちて割れた屋根瓦がタイヤに突き刺さる。
一見、生き物の気配の無い場所。
そんな場所にも多くの命が息づいている。
一週間後には空っぽになっている、10kg以上のフード。
ここにいるよ。
生きているよ。
11月初旬、凍えそうな雨の中だった。
雨宿りもせず、誰を待つの?
どうしても縮まらない、10cmという距離。
ささみジャーキーが食べたくて、すぐ目の前に来ているのに。
今でも、飼い主さんだけを信じている。