サラ法 | 幡新大実|Omi Hatashin's Blog

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201408102058分からテレビ朝日「トリハダ特別編、地獄の底で闘った女SP」は、次のようなスクープを報道した。

母の執念が国を激震させ世論を二分!
「サラ法」生んだイギリス8歳幼女誘拐殺人事件
イギリスで施行されている「サラ法」
小児性犯罪の前歴がある人物の住所や名前などを一定の手続きを踏めば閲覧できる法律だ。
この「サラ法」が作られるまでには14年前に起きた悲劇的な事件と
イギリス国内を二分する大きな議論があった。
わずか8歳で命を奪われた少女サラ。最愛の娘を失った母。逃亡を続ける卑劣な犯人。
母の執念をトリハダスクープ!

(出演者・石原良純、加藤真輝子、高橋克典、高畑淳子、琴欧洲親方、中村アン、大野和基)

 

この番組、サラちゃん誘拐殺人事件の顛末はよく追っているし、幼い女の子の誘拐事件は日本でも後を絶ちませんから、イギリスの本物の事件を追い、報道の役割とともに、法制度改革まで取り上げる趣旨は大変良かったと思います。ただし、法制度改革の紹介として、イギリスの国会議事堂(下院の時計台ビッグベンで知られる)の映像を映して通称「サラ法」(Sarah’s Law)という「議会立法」が201144日に「制定」されたと報じたところは、やや誤解を招くかも知れません。実は、特定の議会立法が「サラちゃんの法」と呼ばれているわけではなく、それは、むしろ各地の警察が性犯罪者情報の開示検討手続を定めたいわば内部規則を指していることに注意してください。また「小児性犯罪」という表現が用いられていますが、保護対象は18歳以下のこどもで、開示対象となりうる性犯罪者の情報は、こどもに対する犯罪に限りませんし、そもそも性犯罪者の住所氏名などを手続さえ踏めば誰でも閲覧できるなどという趣旨では決してありません。あくまでも主体は警察で、個別の問い合わせに応じ、関連情報を開示するかどうか、所定の手続と規則に従って検討の上、判断するだけです。

 

確かにアメリカにはミーガンちゃんという女児誘拐殺人事件を契機として制定された「ミーガン法」(Megan's Law)と通称される連邦議会立法と州議会立法の束があります。しかし、イギリスでの展開は違いました。「私的な家庭生活を尊重される権利」(プライバシーの権利)を保証するヨーロッパ人権条約のもとで、イギリスは性犯罪歴を持つ個人の情報開示についてはアメリカのように議会立法で一律の硬直的な対応をすべきではないという判断で、個別事案に即した慎重な対応を目指しました。犯罪者情報が公開されると、元受刑者が潜伏し、当局が追跡、観察できなくなる。だから、アメリカ式の立法措置は用いるべきではない。これが出発点だったのです。

 

イギリスでは、20007月にサラちゃん誘拐殺人事件が発生するはるか前から、こどもに対する性犯罪で有罪判決を受け、刑期を終えて社会に戻る人の情報を、警察が市民の問い合わせに応じて開示することは事実としてあり、一度、北ウェールズでそういう情報開示の結果、元受刑者がリンチを受ける事件があったので、裁判所は、警察に開示権限があることは否定しませんでしたが、そういう情報開示が例外的に許される場合、個別事案ごとに慎重な吟味を要することを指摘していました(R v Chief Constable for the North Wales Police Area ex parte AB and CD; ex parte Thorpe [1997] 3 WLR 724 (HC); [1998] QB 396 CA)。

 

では、サラちゃん誘拐殺人事件で何が変わったかというと、議会立法レベルでは、強いて言えば、200858日の議会立法(Criminal Justice and Immigration Act 2008, s. 140)が、2003年刑事裁判法(Criminal Justice Act 2003)に新たに327A条と327B条を追加して各地の警察、保護観察、刑務所の当局に、一般市民からの問い合わせに対して対こども性犯罪者情報の開示を検討する義務を明確化したことが挙げられます。この開示「検討義務」は、あくまで「検討義務」で、検討の結果開示しないということも十分にあります。そういう開示検討義務も、必ずしも上記の判例で認められていなかったとはいえないと思いますが、たとえばそれが開示「権限」だったのか開示「検討義務」だったのかか、あいまいなところがあったとすれば、立法はそれを明確化したといえるでしょうし、少なくとも2008年に追加された2003年刑事裁判法327Bが新たに追加した同法附則34ASchedule 34A)に「こどもに対する性犯罪」を列挙したことは、既存の判例法(コモンロー)の明確化を図ったといえると思います。しかし、必ずしもこの2008年の法改正が「サラちゃんの法」の通称で知られているわけではありません。

 実際に「サラちゃんの法」の通称で知られているのは、各地の警察が、問い合わせに応じ、一定の規則と手続に従って、その開示検討義務を履行するための「対こども性犯罪者情報開示制度」(Child Sex Offender Disclosure Scheme)のことを指します。その法的性格は、各地の警察の内部規則というべきでしょう。

 

例、リンカンシャー警察の「サラちゃんの法」

 

その制定経緯は、まず、2007年の内務省の「性犯罪者からのこどもの防衛の検証報告」(Review of the Protection of Children from Sex Offenders)にもとづきそういう開示検討制度の試案が作成され、2008年から4つの警察区においてその試験試行がなされ、2010年の第三者機関によるその検証を経て、20101029日に内務大臣が正式に「対こども性犯罪者情報開示制度」(Child Sex Offender Disclosure Scheme)のあり方を示した「ガイダンス」を全国の警察本部長にいわば「行政指導」しました。同ガイダンスに各地の警察が任意に従ってそれぞれの警察区の実情に合わせた独自の開示検討規則を作成して実施し、201144日までに連合王国のうち北アイルランドを除く全ての警察区に広がりました。そして、同時に、そういう開示制度があることを一般市民に周知させる政策も進められています。

 

実は、その中で、南ヨークシャー警察が独自の対こども性犯罪者情報開示制度の採用を決定し、その手続きに従い今後、個人情報の開示が行われる可能性のあることを管轄下の元受刑者たちに連絡したところ、開示手続の合法性が裁判で問われ、合法性が認められています((X (South Yorkshire) v Secretary of State for the Home Department [2012] EWHC 2954 (Admin))。

 

以上をまとめますと、従来の判例法上、警察に、こどもに対する性犯罪者の個人情報の開示権限だけでなく、問い合わせに応じて開示を検討する義務が認められていなかったとは必ずしもいえないとは思いますが、2008年の議会立法(Criminal Justice and Immigration Act 2008, s. 140)「2008年刑事司法及び入国管理法第140条」はこの点をあらためて明確化し、何が「こどもに対する性犯罪」に当たるかもあらためて明確化し、個人情報の開示「検討義務」の厳密な履行細則というべきものを、各地の警察の内部規則「対こども性犯罪者情報開示制度」(Child Sex Offender Disclosure Scheme)が定め、これが201144日までに北アイルランドを除く連合王国全土で施行されました。このうち、イギリスの現地では主に後者の規則のことを「サラちゃんの法」と呼んでいます。しかし、広く見れば、「サラちゃんの法」は、前者の2008年の立法改正が従来の判例法(コモンロー)上の開示検討義務などを明確化し、各地の警察の開示規則の制定施行をもって具体的に「完成」したといえるかもしれません。

 

 

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