4月に、『うつ病と演劇』という文章をnoteに書きました。
4月末に上演する予定だった公演のご案内用の記事でした。
でも、その公演は中止になりました。
明日6/30からは新作、「バクで、あらんことを」という作品を上演します。
疲れてしまったくによし組が、疲れてしまった人へ届けたくて作った作品です。
下記はnoteに掲載した文章ですが、新作の「バクで、あらんことを」も、観に来て欲しい人たち、届けたい気持ちは変わりません。
よりたくさんの方に作品を観てもらえますよう、ブログでもご案内させてください。
【うつ病と演劇】
4月末に上演する、くによし組「眠る女とその周辺について」では、劇団員の永井一信さんは、ずっと寝ている役です。
劇中にセリフは一つもありません。
本日は、そうなった経緯と、「眠る女とその周辺について」のお話をしたいと思います。
くによし組のナイーブで弱い部分のお話ですので、
「まずは情熱!エネルギーが大事!やればなんとかなる!」
というお気持ちで生活されている方は、この先を読まないことをお勧めします。
今月末に開催される関西演劇祭in TOKYOのお話をもらったとき、私たちは若手演出家コンクール最終審査「おもんぱかるアルパカ」の準備をしていました。
台本も出来上がり、さて稽古、というときに、永井さんの不調に気づきました。
うつでした。
くによし組を作って5年になりますが、永井さんはいつも季節の変わり目に気分が落ち込みました。
いわば年間行事のようなもので、劇団の業務連絡に返事をくれなくなったり、話していても上の空だったりが主な症状です。
心療内科にも行ったそうですが、継続していくことができなかったようです。
永井さんにも、「うつは治療するもの」とわかっていますが、病院に通うための時間とお金と気持ちが続かず、私に「調子がいいから」と言って病院に通うのをやめたのが、去年の明けごろ、まだコロナが世界に蔓延する前だったと思います。
昨年11月の関西演劇祭のときもうつは続いていましたが、それはコロナによる環境の変化や、いつもの季節の変わり目によって起こるものだろうと、私も甘くとらえていました。
目の下に大きな隈をつけた永井さんに、
「大丈夫ですか」
と聞くと、
「わからないけど、でも演劇がないと、僕は何をしたらいいかわからない」
と答えてくれたからです。
私と同じように、永井さんも演劇が生きる支えなんだ、と少し嬉しくなってすらいました。
これはおかしい、と気づいたのが、初めて永井さんが稽古を無断で休んだときでした。
気づいたときには遅く、永井さんの精神状態はグラグラでボロボロでした。
「おもんぱかるアルパカ」で、永井さんはうつ病の役でした。
昨年からずっとうつ状態を引きずっていたので、好都合ではないかとすら思っていましたが、役にも引きずられ、症状は悪化していたようです。
そんなときに、関西演劇祭in TOKYOのお誘いを受けました。
受賞作品の「トランポリンさん」を上演するべきか一瞬悩みましたが、演出面の問題や、永井さんがほぼ出ずっぱりで喋りっぱなしの役を、この状態でするのは危険だと判断し、新作で参加することを決めました。
「アルパカ」の稽古後、電車の中で永井さんにお誘いを受けたことを話すと、「出る」とも「出ない」とも言わず、俯いたまま喋れなくなってしまいました。
そして10分ほど黙ったあとに、「ごめんなさい」と謝ってきました。
「出る」とも「出ない」とも決められない様子でした。
このとき私は自分の傲慢さが嫌になりました。
うつのとき、決断することがとても苦痛になることをわかっていながらも、永井さんなら出ると言ってくれるのではないかと期待していたのです。
「今は、ちょっと考えるのはやめましょう。でももし出演するとしても、永井さんに負担はかけないようになるべくしますので」
そう言っても、永井さんは俯いたまま、何も反応しませんでした。
くによし組にとって何が一番いいのか。
永井さんにとって何が一番いいのか。
私にとっては何が一番いいのか。
その3つをぐるぐると考えました。
劇団にとっていいことは、永井さんにはいいことじゃないかもしれない。
永井さんにとっていいことは、劇団にはいいことじゃないかもしれない。
私にとっていいことは、そもそも劇団のためじゃないかもしれない。
こんなに不安定な永井さんに出演してもらうのは、永井さんにとっても、作品にとってもよくないのではないか。
それが一番最初に出た結論でした。
でも、「演劇がないと、僕は何をしたらいいかわからない」という永井さんの言葉も思い出しました。
演劇に触れつつ、心が回復する方法はないのだろうか・・。
何よりも、私は永井さんの芝居が好きでした。
導き出した答えが、
「寝たままおじさんになってしまった女の子の話」
です。
思い返せば、くによし組は本当に進歩が遅く、周りを追いかけるので必死でした。
コロナ前からも、周りに追いつかなければ、売れなければと焦り、コロナになってからも、どんどん活動していく周りの人たちに追いつかないとと必死で、誰にもどこにも追いつけないまま、取り残されていく感覚だけがありました。
そんな話を作ってみたい、と思ってたときに、「寝たままのおじさんの話」を思いつきました。永井さんは、眠り続ける女の子の役です。
「永井さんは、寝てるだけで大丈夫です。セリフもないです。私はそれでも、舞台上に、永井さんがいてほしいです」
と、また、「アルパカ」の稽古帰りの電車で永井さんに言いました。
永井さんは俯いたまま泣いていました。そのときも、「出る」とも「出ない」とも言わず、ただ俯いていました。
ですが私はすでにこの作品をやりたいと思っていました。
「眠る女とその周辺について」
タイトルも決まり、周りに追いつこうと焦って生きているキャラクターと、その中央で寝ている永井さんの絵も浮かんでいました。
私は「アルパカ」の稽古終わりに、毎日永井さんに、「眠る女とその周辺について」がどれほど楽しい作品になりそうかを説明しました。
永井さんが出演を決めてくれたのは、「アルパカ」の本番が始まる、数日前でした。
そして今、「眠る女とその周辺について」の稽古をしています。
私の決断が正しいのかどうかわかりません。
休むべきだ、という人や、そんな状態の人を舞台にあげるな、という人もいるのかもしれません。
でもこの世界には、演劇に触れてないとどう生きたらいいかわからない人がいます。
とりあえずここに二人います。
ここに既に二人いるってことは、世界を見渡せばもっといるはずです。
私は、この先どうやって生きたらいいかわからなかったときに、唯一楽しかったのが演劇で、今も、生きてる中で一番幸せを感るのが、演劇作品を作っているときです。
永井さんが演劇に幸せを感じているかはわかりませんが、演劇をやってないと、どう生きたらいいかわからない、とだけは言ってくれました。
世の中にはそんな人がいていいと思うし、そんな人が演劇を作ってもいいじゃないかと思っています。
私が劇団を作った理由は、自分のように明日や未来が怖い人が、「明日も少しだけ生きてみよう」と思えるものを作りたい。
外が怖くて家から出られない人が、家に出る理由になりたい、という気持ちからです。
どこまでもポジティブな人の言葉より、同じくらいネガティブな人の言葉のほうが生きる支えになる瞬間もある。
そう信じて、くによし組は「優しい人を集めて作る演劇チーム」にしています。
優しいの中には、弱いという部分もあると思います。
でもその分、繊細で、可愛くて、悲しい作品が作れるのではとも思っています。
私は、優しくて弱い人が、寄り添える作品を作りたいです。
くによし組「眠る女とその周辺について」は、悲しいお話ですが、コメディですので、稽古場では毎回、お腹が痛くなるくらい笑っています。
寝てなきゃいけない役の永井さんがそれにつられて笑っていると、私は泣きそうなくらい嬉しくなります。
生きるのに疲れちゃった人が、少しでも元気が出る作品になりますように。
そう願いながら、日々稽古をしています。
劇場で、お会いできますように。
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これが、4月に書いたnoteです。
この作品が上演できなくなり、私は空っぽになってしまいました。
やりたいことのためにいくら一生懸命やっても、叶わないこともあるし、全部がなくなってしまうこともある。
お客さんに観てもらえることもなく消えてしまった作品や稽古の日々。
それらは、私から演劇へのエネルギーを搾り取っていきました。
私がやってきたものは、時間は、意味があったんだろうか。
なんだか、疲れてしまった。
そんな心で思い付いたのが、「バクで、あらんことを」です。
夢のために「バク」に整形し、でも夢に疲れてしまった、という女の子のお話です。
くによし組は、この作品が終わったら活動を少し休みます。
観てほしいです。
疲れてしまった人へ。
劇場に来るのは大変ですが、劇場で観て欲しいです。
でも難しければ配信もあります。
とにかく、観て欲しいのです。
どうか、どうか。
お待ちしております。
くによし組
「バクで、あらんことを」
●作・演出 國吉咲貴
●あらすじ
容姿も中身も自己評価30点のモリコが暮らす田舎町に、大ニュースが舞い込んだ。
有名な映画監督ソソノマソソルが、町に住む女性限定の主役オーディションをするというのだ。役柄は「バク」
軽い気持ちでオーディションに応募したモリコはなんと最終審査進出。
するとすかさずモリコに、生まれて初めて欲が出た。
「このチャンスを、逃したくない!」
きたる最終審査。会場に現れたモリコに、場内は騒然。
モリコは顔を「バク」に整形してきたのだ。
同じく最終審査に残ったメデューサの子孫のメデュ子や、貞操観念アッパラパーなイーナ、豊胸貯金を貯め続けるムムは、モリコの行動に心を揺さぶられ、やがて価値観が崩れ出す。
バクになりたい。
バクであって欲しい。
バクだったらよかったのに。
これは、夢を叶えようともがく人々と、夢から覚めた人々を描くお話。
●出演者
【Aチーム】
井田ゆいか
⾦⽥侑⽣(劇団HYP39Div.)
木幡雄太(アナログスイッチ)
國吉咲貴(くによし組)
佐藤有里子
鈴木あかり(第27班)
手塚けだま
中野智恵梨
⼋島さらら(LAL)
【Bチーム】
菊池美里
葛生大雅(マチルダアパルトマン)
⿊澤⾵太(guizillen)
芝原啓成(オイスターズ)
田久保柚香
常住奈緒(はねるつみき)
永井一信(くによし組)
中野亜美
堀靖明
●6月30日(水)〜7月4日(日)
6/30(水)A 16:00/A 19:30
7/1(木)B 16:00/B 19:30
7/2(金)B 12:00/A 16:00/A 19:30
7/3(土)A 12:00/B 16:00/B 19:30
7/4(日)B 11:30配/A 15:30配
※受付開始・開場は30分前。
上演時間は70分〜80分を予定しています。
配・・7/4(日)の2公演は生配信あります。アーカイブは8/3まで。
※全席自由席です。
●チケット
前売り一般(事前振込) 3500円
1000円(数量限定)※身分証明書要提示。
※当日券は前売・18歳以下共に、上記価格に+500円
配信チケット 2000円(Web予約のみ)
<購入・視聴方法>
●花まる学習会王子小劇場
(王子駅より徒歩5分)