工房のミシンのご紹介② | 国立毛皮工房ブログ

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当店の基本コンセプトは「貴重な毛皮を1点ずつ大切に加工すること」です。
工房を兼ねた店舗で、お客様とご一緒に、ご納得いただける1点ものを製作させていただきます。

工房にある一番古いミシンは、手動式のシンガーです。

このミシンは、シリアルナンバーから、

1930年スコットランドのクライドバンク工場で製造されたものであることがわかっています。

 

 

私は、国内外、多くの毛皮工場にお伺いしたことがありますが、

このミシンよりも古いミシンを見たことがありません。

勿論、合理化を追求しなければならない今の時代に、

最前線で手動式など考えられないかもしれませんが、

片隅に置いてあることさえ、見たことがありません。

 

 

横に付いている回転軸を手前に回しますと、

2つのカップが回り、針が前後します。

 

 

同時にL型の1本のバーが右手前から糸を掬い、

左奥に向かい、次に右に方向を変え、針の下に向かい、

更に逆回転で、針の周りを回るように上に向かいながら、

手前に戻ります。

このやや複雑な動作を繰り返すことで、巻き縫いができます。

 

しかも、左側のメモリが付いている装置により、

縫い目のピッチを調整することが出来ます。

 

 

上部についている2つの円形の金具の間に糸を通すのですが、

糸を挟む力の強弱により、糸のテンションを調節することもできます。

 

 

驚くべきことに、カップには巻き縫いの深さを調整するストッパーも付いています。

 

縫目は、どの部分をカッターで切っても解けることはありません。

その一方、一直線の縫目を上に向け、左端の縫目を一つ解くだけで、

簡単に全ての縫目が解けます。

この必要に応じ簡単に解いて縫い直しができ、

しかも、途中で切ったり、特定の方法以外で解こうとしても解けないということが、

実は、純粋に凄いことだと思うのです。

 

 

この2つのカップと、1本のL型のバーの動き。

縫目の幅の調整。糸のテンションの調整。

更には巻き縫いの深さを調整するストッパー。

これら全てが、後続のミシンに継承されています。

基本的な形は完成されているといっても過言ではありません。

時代を考慮すると、驚くべき完成度です。

 

特にカップが2つという点、縫目の幅や糸のテンションの調整は、

私の知る限り、後続の全機種に共通します。

縫いの深さを調整するストッパーは、付いてないものもあり、オプションの機種もあります。

 

L型の1本のバーの動きについても殆ど全ての機種に継承されますが、

唯一、アルビンポーカートだけが2本のバーを組み合わせた独自の方法を採用しています。

 

いずれにしても、

この手動ミシンは、後続機よりも大きく重く、

実物は、小さな機関車の様なイメージの、

武骨でそれでいて精密な鉄の塊です。

 

89年を経た現在でも滑らかに前後する針先を見ていると、

このミシンを設計し、作りあげた当時の技術者、

そして、購入して以来、このミシンを大切に使用しメンテナンスし続けてきた先輩に、

深い敬意の念を抱かずにはいられません。

 

こうした毛皮加工の歴史の資料ともいえるアイテムを、

皆さんにご紹介しつつ、

より良い状態で、次の世代に引き継いでいくことが、、

先輩の意思を託された我々の責務だと考えます。

 

何かの形で、皆さんに実物をご覧いただける機会をもうけたいと思います。