新年の 挨拶を 兼ねて 取引先まわり
その中でも 特に 重要な お得意先に到着
応接室に 通されるなり 早速
担当の 丸山部長が 現れた
この方の 気分次第で うちの会社の
業績が 変わる
丸山部長は マスクをしない
だから 俺は 二重に 付ける
仕事の 話しは いつも 5分で 終わる
でも 1時間 ここに いなければならない
なぜなら
丸山部長の 手品を 見るため
現れた時から 黒のステッキを持っている
やる気マンマンで 怖い
ただ 残念なことに もうすでに
先っぽから 花が 出ちゃっている
もちろん 俺は 何も言わないよ
そして 花が開いた瞬間 俺は
最高の リアクションを取る
丸山部長は嬉しそうに 今度はコップの水を
折り畳んだ 新聞紙の中に 注ぎ出した
ポトポト こぼれている いや…
なかなか こぼれている
でも俺は 歯を食いしばって 拍手をする
会社中に 響きわたるほど
丸山部長は 喜びと 興奮で 少し…
ヨダレを 垂らしている
これが 仕事だ
俺は この手品を 見ることで
家族を 養っている
ネタが 終わった 丸山部長は
上機嫌で 席を立った
帰り際 受付の方から
『 いつも 本当に すみません… 』
申し訳なさそうに 深々と 頭を下げられた
みんな わかってくれているんだ
さっきまで 曇っていた 俺の気分は
この 受付の人の 気遣いで 晴れ渡った
曇り 時々 晴れ 気持ちよく帰れる
車に 乗り込もうとしたら
丸山部長が 走ってきた
ど、どうしたんですか?
『 今度は 君の手品が 見たいねぇ 』
のち どしゃ降り (ToT)