青空

~穏やかに 楽しく 暮らしていくこと~

私が大切にしていること...です


テーマ:

~ フランス旅行 14 ~

 

 

++ カフェの魅力 ++

 

 

 

 

わたしと彼とは旅に出かけると、数え切れないほど何度もカフェに入る。
それは、ただお茶が飲みたいからというわけでは勿論なくて
カフェでしか味わえない何かがあるからだと思う。

わたしは、やっともう一度パリに戻ってくることができた。
「きっともう一度来よう」という思いを胸にパリを発ってから、一年が経っていた。
思いがけずフランスに留学した友人に、彼と二人で会いに来たのだった。

友人はいろんなところを案内してくれ、また、パリの楽しみ方も教えてくれた。
最初に連れて行ってもらったのは、セーヌ川を見渡すことのできるカフェだった。
私たちはテラスの一角のテーブルにつき、久しぶりの再会を祝ってワインで乾杯した。
パリの街でこうして会えたことが何だか信じられなくて、三人とも興奮していた。
次から次へと話がはずみ、話題が尽きることはなかった。
わたしたち二人が婚約したこと、友人のフランスでの生活のこと……
「テラスで飲むワインってほんとうにおいしい」とわたしが言うと友人は
「一番パリらしさが味わえるのは、カフェのテラスだと思うよ」と話してくれた。
わたしも、その通りだと思った。
素敵な夕暮れだった。空は、遠くの方にほんのりとオレンジ色がにじんでいた。
気持ちの良い風がセーヌ川を渡ってわたしのところまで吹いてくる。
ガラス越しでは味わえない心地良さだった。

すっかりテラスの雰囲気に味をしめてしまったわたしたちは、ことあるごとにカフェに入った。
そして勿論、テラスの席についた。
どうやら、テラスでお茶を飲むのが好きなのは、わたしたちのような観光客ばかりではないようだった。
洒落た内装の店も少なくないし、屋内の席のほうが値段も安い。
それでも、ほとんどの店では屋内の席よりもテラスの席の方が混んでいた。

店によっては、決して広いとは言えない歩道にテーブルを出していたりするため
テラスでお茶を飲んでいるそのすぐ目の前をひっきりなしにひとが通り過ぎていく。
そして、そのすぐ向こうは車道である。
でもカフェテラスにいる人びとはそんなことにはお構いなくそれぞれに思い思いのことをして過ごしている。
おしゃべりを楽しんでいるひと、本を読んでいるひと、手紙を書いているひと、
いつまでもいつまでも、みんなそうしてときを過ごしている。
慌ただしくお茶を飲んで立ち去るひとなどいなかった。
そういうひとは、一番安い立ち飲みで済ませるようだ。
パリのカフェは目的別に席が分かれていて、それに応じて料金も違うという何とも合理的な仕組みになっていた。

わたしには彼と友人、三人でのおしゃべりも、他のテーブルから流れてくるフランス語も、
道行く人びとの洗練された装いを眺めるのも、すべてが楽しかった。
彼と友人は舌と胃への刺激の強さを好んでか、濃いフレンチコーヒーを飲んでいた。
わたしも嫌いではなかったが、胃への負担を考えて、テ・オ・レを飲むことが多かった。
この時に添えられている、ミルクへの配慮がうれしかった。
ティーカップ一杯分くらいはありそうなミルクが、ほどよく温められて銀のポットに入れられて来る。
フランスのミルクは日本のものよりこくがあって、これをたっぷりと入れて飲む紅茶はとてもおいしい。

わたしたちがパリで立ち寄った数多くのカフェの中で一番気に入ったのは
マドレーヌ寺院の前にあるカフェだった。
カフェだけに限らず、パリの街の中で一番思い出に残っている場所だと言ってもいいかもしれない。
ガイドブック片手に名所を見て回るのも貴重な経験だとは思う。
でも、間近で見たその後で、同じものを少し離れて見てみるのも、また、いいものだと思う。
長い長い歴史をただ見てまわるだけでは、それはただ、一時的な刺激でしかないような気がする。
立ち止まって噛み締めてみて、初めてこころにまで届くように思う。
「寄り道をするって意外といいものなのかもしれない」
そんなことを考えながらわたしは、そのカフェテラスでゆっくりとお茶を飲み
こころゆくまでマドレーヌ寺院を眺めていた。

一年後、わたしと彼は結婚した。
あまり贅沢なことはできないが、それでも何とか日常の中で立ち止まってみるゆとりの時間を作っている。
一日の終わりには、二人でコーヒーを飲みながら話をする。
とりたててどうということもないような話だが、そういう時間がとても楽しい。

残念なのは、テラスでお茶を飲む機会が少ないことだ。
都心でも数少ないのに、わたしたちの住む郊外のこの街には、テラスのある店などないし、
借りているこの部屋には小さなベランダが付いているだけだ。
それでも、あの時の雰囲気を少しでも味わいたくて、一番大きな窓のすぐそばにソファーを置いた。
休みの日に二人で過ごすときには、窓を開け放ち、そこで寛ぐ。
夕暮れ時にはベランダに出てみる。小さなベランダからの眺めは決していいとは言えないけれど
夕焼けだけは、パリで見たのと同じだ。
早春の頃には湿った土の匂いとでも言うのだろうか
春独特の、あのなんとも言えない、いい匂いが、季節の移り変わりを教えてくれる。

いつか、自分たちの家を持つことができたらテラスを造ろうと決めている。
今度は広いテラスを……そこで彼と二人ゆっくりとコーヒーを飲もう。
あのときと同じ風を感じることができるかもしれない。

 

 

~1991年 秋~

 

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