3 相対性理論とビッグバン宇宙論(1)

 

① 相対性理論

 これから、科学的思考が必然的に持つ問題を詳述したい。

 

 第一の例は、相対性理論である。この理論は、以下の原理から成り立っている。

 a)-1 物体の運動は、相対的である。→ 時速120kmの車は、時速100kmの車を“時速20km”で追い抜く。

 a)-2 乗り物が等速度運動をしているとき、乗り物の乗客や荷物は静止している(=乗客は、自分が運動していることを意識しない)。

 → 車が時速100kmのスピードを維持して走るとき、乗客や荷物も時速100kmで運動している。

 → 時速100kmで走る車の中で、ピンポン玉を真上に軽く投げてみよう。ピンポン玉はフワッと上がり、すぐに真下に落ちる。ピンポン玉も、時速100kmで運動している。

 → 時速100kmから急加速や急減速をするとき、私たちは加重を体感する。自分が運動していることがわかる。

 

 b)光は、秒速約30万kmである。→光の速度は有限である。

 

 a)が基本的な物理法則である。しかし、b)光のスピードは有限だ。この単純なことを土台に、相対性理論は生まれた。アインシュタインはこう考えた。「自分が光速で等速度運動しているとき、私の顔は手鏡に映るのだろうか?」

 

 s)アインシュタインの運動スピードは、秒速約30万kmである。

 t)アインシュタインの顔が手鏡に映るには、光は秒速約60万kmで運動しないといけない← a)-1より。

 → 光は、秒速約30万kmなので、手鏡に彼の顔は映らない。

 → アインシュタインは、鏡に顔が映らないことから、自分が運動していることを知る。  

 u)しかし等速度運動しているとき、アインシュタインは自分が運動していると意識しないはずだ。← a)-2 より。

 → 手鏡に、彼の顔は映るはずだ。

 

 s)、t)、u)を全て満たす原理を、アインシュタインは考え出した。

 

 1905 特殊相対性理論

 1915 一般相対性理論

 

 彼は、時空という原理を生み出した。物体が光速に近づくと、空間も時間も歪んでしまうのだ。光速で運動する、アインシュタインの顔は彼の手鏡に映る。だが彼のいる時空は、光速のせいで歪んでしまうのだ。しかし等速度運動するアインシュタインは、自分の時空が歪んでいることを意識しない。こう考えれば、a)-1 と a)-2 に矛盾しない。

 時空とは、トランポリンにたとえるとイメージしやすい。トランポリンの面全体に網の目に線を描いてみよう。描き終えてから、トランポリンに乗ってみよう。当然、体重でトランポリンの面は沈み込む。これが時空の歪みである。

 時空だから、時間も歪む。時間が遅れるのだ。光速で運動するアインシュタインの時間は、私たちの時計よりも遅く進む。信じられない人もいるだろう。ところが、当然のことなのだ。相対性理論の発表当時は、世界の超一流物理学者でさえも理解できなくて頭を抱えたそうだ。だが21世紀の私たちは、GPSに頼って生きている。GPSは、人工衛星を利用して位置を計算するとき、相対性理論の時間の遅れを使っている。人工衛星が、地球の周りを猛スピードで跳んでいるからだ。時空が歪んでいるのだ。

 では、何が時空を歪めるのか?それは、重力である。トランポリンを沈ませた、私たちの体重だ。光速のスピードに近づけば近づくほど、物体の重力は重くなっていく。光速で運動するアインシュタインは、(自分では気付かないが)時空を歪めるほど重くなるのである。

 光速→時空→重力(+加速運動)。この道を、アインシュタインは独力で突き進んだ。“地獄のような苦しみ”の末に、彼は新しい重力方程式を完成させた。これ以来、マクロな物理学の世界で、相対性理論を上回る“新しい原理“は生まれていない。