笑うと私には口の両端にえくぼが浮かぶ。それが幼い頃から嫌いだった。えくぼを見た人からはいつも可愛いと言われたが、私にはそうは思えなかった。恥ずかしくて、笑いたくなくなった。大抵は口の端が下がってへの字口になってしまう。本気にはなかなか笑えない。私の頬は運動不足でアンパンマンみたいに丸く膨れ上がっている。いつも自分の顔を見るのが嫌だ。たまに鏡を覗くと思いもしない表情の自分の顔が映っていて、正直ゲンナリする。表情を浮かべない方がいいのではないかと真剣に悩む。私は私の顔が嫌いだ。どんな顔だったらいいとか、そういうものもなく、ただただ自分を憎む。嫌いになる。

もうおばさんになって、3人も子どもを生んで、主婦として生きてきて、少しだけ妻もやって、もう捨てるものもなく、逃げる場所もなくなってしまったら、顔だの表情だのはどうでも良いものになってしまった。皮肉なことを言う時に、口が少しだけ歪んだり、口先が尖ったりするのも、自然の流れだ。怒ってばかりで眉間に皺が寄るのも、考えてばかりでおでこに無数の皺が寄るのも、仕方なしだ。やっと自分だけが使える時間を持つことができて、美肌を意識したスキンケアをできるのも今からであり、そういった営業に乗って買った化粧品を試すことも楽しみになっている。えくぼがあると魅力的だとか言うけれど、私にはちっともそういう感慨はなく、ただただ嫌なだけだ。どうせあるなら、頬の真ん中あたりにあるのがよかった。そっちの方がチャーミングだ。口の両端にあるえくぼはいやらしい。あまり好まない。あまり好まないけど、だからと言って無くなるものでもない。仕方がないから流される他ない。私の死が訪れる時に私のえくぼも死ぬ。それだけだ。