仕事で唄わねばならぬ歌があると、まずキー出しが必要になる。
元歌のキーとは、たいてい違うので、それを確かめる。
その作業は、カラオケボックスでする。

昨日、夕方、いつものカラオケ店に行く。
コロナの頃は、まったく閑散としていて、そりゃあもう気の毒になるほどの有り様だったが、昨日あたりは、受付にも歌声がワンワン響いていて、活気を取り戻している。
そう、これが本来のカラオケボックスだ。

このチェーン店では、ちょっとシステムが変わったらしく、60才以上のお客には、ドリンク飲み放題というのがつくらしい。
とはいえ、どうせ30分から一時間しかいないので、こちらには意味がないのだけど、こうして、中高年優遇をするのはここだけではないので、どこでも、外出控えをしている年齢層を呼び込もうと躍起になっているのだろう。


キー出しには、いつもスタッフ同伴で、彼が言うには。
「でもさ、証明書もなにも出さなかったよ」
向うにはすぐにわかっちゃうんだね、若く見えると思っててもさ。


そして、自分たちがやはり、立派な中高年であることが、キー出しの作業中にも、よくわかる。
ほんとに、手間取る。
さっさとできない。
字もよく見えないし、若い人ならきっとものの二、三秒でチェンジできることをぐだぐだやる。
あれ、おかしいなあ、あれどうなってんだ。とかいいながら、ぐだぐだやる。

こういうことが、増えた。
すべてに増えた。
もう立派な中高年。いや、高齢者だ。

この前まで、若者だったんだけどなあ、私たち。
ほんと、この前まで。
おかしいなあ、いつ歳とっちゃったんだろう。


私など、固有名詞が出ない。
あれあれそれそれ、ばっかりだ。
尊敬する大先輩たちは、みなすらすら人の名前や地名など口にする。
その様を、あんぐりしながら見る。
すごいなあ。

湯川さんに「だめよそんなじゃ、あきらめちゃだめ、思い出すまでがんばりなさい」とハッパをかけられたが、思い出すのを待っていたら、一日が終わってしまう。
いや、いくら待っても思い出せそうにない。

ほんとに、まあ、なんてえこった。

この間まで、若者だったのになあ。
ほんとに、この前までそうだったのになあ。
へんだなあ。おかしいなあ。