先だって。
自分の爪でひっかいた、きったないわが身のことを書いたら。

山に別荘を持つ友人から電話がかかってきた。

そんなのなんでもないわよ。あたしなんか、重装備で草取りしてるけど、首に巻いたタオルをとったら、血がびっしょり。なんだこれ、って思ったらヒル、ヒルだよ!すごいよヒル!夫なんか血だらけ。


草取りで、この家はまさに「惨劇」の有り様になった。
夫婦で血だらけ。それもハンパない血らしい。


山が好きで、昔買った家。
冬は雪かき、夏は草取り。
「もうさ、年とったら田舎暮らしなんていうけど、とんでもない。若いうちだよ、これは」

そんならなんで山行くのさ。
「やっぱり気持ちいいんだよ」

それもわかる。
ごみごみした狭い都会にいると、大きく深呼吸したくなる。
良い空気を吸いたくなる。よい風景を見たくなる。

でも。やはり、歳をとると、なんでもうまくいかないらしい。
もともとそこで育っているなら、対処の仕方も違うのかもしれないが、片身を都会、片身を田舎暮らし、というのは、そんなに甘いもんじゃないんだろう。


大好きな武田百合子さんの名作「富士日記」を読んでも、山での暮らしは、相当に覚悟がいることがわかる。
ヒルどころか、こうもりやネズミやそのほかの生き物たちとのかかわりは、ヤワな私たち世代では、手が出せない。

生き物を殺す。
ゴキブリや蛾一つに、きゃあきゃあいってるようじゃ、しょうがない。
きちんと殺さねばならない生き物と向き合う生活に、これは私には無理だなあと、思った。


今、ネズミ捕りなんてみないもんなあ。
子供の頃にいた静岡の農村では、用水路の流れにネズミの入ったカゴがつかってて、見ないように通った。
こわかった。

でも、そうして、大人たちは生活を守ったのだ。


ああ、なんとヤワな私たち。

しかし。
ヒルって。
どんなもんなんだ。

その後、友人の首は腫れ、大変なことになっているらしいが、野生の生き物って、すごいな、やっぱり。

私なんか、通りを横断しようとしてるミミズを持って、ちょこっと端に置くくらい。
それと、いつもこの時期、外廊下でくたばってる黄金虫を、これまたちょっと端っこに移動させ、天寿の全うのお手伝いするくらい。

スケール違うなあ。