地元の神社近くの坂道。
私の前を、親子が歩いている。
お母さんは自転車を押して。
息子は、少年野球のユニホーム姿。
5年生か6年生か。
その息子は、なにかお母さんに言っている。
ふらふらと自転車をわきを歩きながら、なにか言っている。
「ねえ、ねえ」
「なによお」
「一石二鳥だからさあ」
一石二鳥。
予想外の言葉が出てきたので耳ダンボ。
「一石二鳥って、なにそれ」
お母さんも、予想外だったらしく息子に聞いている。
息子。
「ええっとね、一つの石で二羽の鳥をね」
息子は、一石二鳥の意味を一生けん命に説明しようとしている。
お母さん。
「ふうううん」
こんな四文字熟語が息子の口から出てきたことが、ちょっとうれしいんだろう。
でも、ほんとは、その意味じゃなく、なんで一石二鳥なのか、ってことで。
どうやら。
息子はお母さんの自転車の後ろに乗りたいのだ。
だからね、僕がそこに乗れば、二人にとって一石二鳥に楽になる。ってことらしい。
「えええ。ダメよう」
その自転車の後ろの席には、小さな椅子がくくりつけられいる。
子供を乗せる椅子だろう。
でもその椅子、ちょっと小さい。
きっと、少年野球の息子の妹か弟のためのものだ。
でも、その椅子に、野球小僧は座りたいのだ。
野球で疲れて、こうしてだらだら歩くより、そこに乗りたいのだ。
その彼の母親の説得が一石二鳥。
お母さんも楽でしょ、自転車に乗れば。僕も楽だしさあ。
さささと帰れるよ。
そんなとこだ。
そのあたりで、二人を追い越した。
そのあと、どうなったのか知らない。
でも、親鳥がひな鳥にエサを運んで、口移しで与えるような、そんな風景だったなあと胸があったかくなった。
甘い、あったかい光景だったなあと、思った。
息子は、今でもお母さんの後ろに乗りたいのだ、きっと。
小さいころのように、お母さんの背中にへばりついて、その匂いをかいで安心する、そんなこと、きっとしたいのだ。
お母さんの匂い。
いいな。
このところ、母親のふくらはぎのシコリをマッサージしている。
高齢者にありがちな血行不良からくる、シコリ。
母親の足を触り、撫で、もむ。
野球少年も私も、きっとおんなじ。