中野サンプラザには歩いていける。


テレビ収録会場がいつもここだったらいいのに、と思う。


そんなことあるわけないし、ここも再開発で壊される。




それに、ここには若き日の苦い思い出がある。


ヤマハのポプコン関東甲信越大会が、ここであった。


24歳の時のことだ。


優勝候補だったのに、ボーカルの私が歌詞を忘れた。


物語のような歌だったので、どうしようもなかった。


とりつくろえなかった。


あ、やっちゃった、と思った。


あんまり「夢」のような出来事なので、信じられなかった。


おかしくなった。


こんなことってあるんだなあ、と思った。



スポットライトに立ちつくす、なんてカッコよさそうだけど、サイテーだった。




これが「歌詞忘れ」のトラウマになった。



その舞台なんだよなあ、その客席なんだよなあ。


あれから36年たっても、まだ引きずってる。


あの時、一緒だった友だちは、もうみんなバラバラだ。



そのうちの一人と結婚したけど、これもバラバラになった。



「青春」の共有かあ。

「過ぎ去りし青春」の日々かあ。


なんだかなあ、しんみりしちゃうなあ。





雪村いづみさんが、プロジェクターに映る江利チエミさんと美空ひばりさんと唄った。


「トュー ヤング」

若すぎる。あまりに若い。

過ぎた日々ををふりかえる歌だ。



チエミさんの声とひばりさんの声に、いづみさんが、声を重ねていく。


ときどき、いづみさんが笑う。


慈しむような、いとおしいような、いたずらを見つかった子供のような。


そんな声で笑う。


それは、先に逝ってしまった二人を悼む涙のようだった。


笑ってるけど泣いてる、そんな感じだ。




若い日々を共有し、それぞれの人生を歩き、今、コチラにいるいづみさんがアチラの二人と唄っている。



80歳になろうとするいづみさんの声が、高く響いた。

天に響いた。





これから出番の私たちの前を、舞台から降りてきたいづみさんが通る。

共演者に手を取られて、通る。




その姿に。

深くお辞儀をした。