大腸菌O25も体内から消失し、俺は元の生活に戻った
もちろん油脂接骨院での修行も再開だ
俺は、やる。やってやるぞ。
熱い気持ちが身体から噴き出し、地面には魔人のような影ができるほどだった
気がつけば油脂接骨院での修行も3ヶ月になった。
山あり谷ありだったが、とりあえず1年の4分の1を過ごすことができた。
「渡良瀬君。6月いっぱいまでは研修という事で、お客様扱いしていたが、
7月からは実戦投入だ。もう、お客様扱いなんかしないからな。
注意される前に修正したり、指示される前に動くんだぞ。」
「はい、宜しくお願いします」
ふっ上等ではないか、燃えてるこの俺には心地良い痛みとでもいうべきことよ。
「とりあえず今夜、診療終了後に渡良瀬君に僕の身体をマッサージしてもらうよ。
商品価値があるかどうか試させてもらう。
価値が無いようなら、価値が出るように指導する。今までみたいな指導じゃないから
覚悟してしっかり出来るように頼みますよ。」
「ウッス」
院長の身体から、何か殺気の様なものを感じた。
イワノフ先輩が生唾を飲むのが聞こえた。
俺「先輩、院長の本気指導ってヤバいんですか?」
イワノフ「・・・あまり事前に知らない方が良いと思うけど・・・少しだけ教えておくよ
僕は、あまりのことに何度か胃に穴が開いたよ・・・」
俺「・・・!?」
イワノフ「言い訳というか自分なりの説明をしようとしても、
院長が先回りして、こういう説明したいんだろうが、
こんな説明して逃げようと思うなよって言うんだよ。・・・」
俺「ゴクリ・・・」
イワノフ「ほら院長って心が読めるというか、エスパーというか・・・・魔物?なところがあるじゃん。」
イワノフ「電話だって鳴る前に電話だって言うし、階段登る音を聞いて誰だか当てるし・・・」
イワノフ「地震が来る前に体調悪くなったり・・・人間を超えた何かを感じるんだよね・・・」
そうだったのか、やはりエスパー?魔物?それとも院長の正体とは、あの・・・。
院長「渡良瀬君ブツブツ言ってないで初診を診てくれ」
俺「!?」
院長「何やってるんだよ初診の患者さんを診てくれって言ってるんだよ」
俺「ありがとうございます。頑張ります。」
初診を任された。
妻よ見てるか?お前の大吉が初診デビューだぞ。
問診を始める。
前に言われた通り、まずは自由に話してもらう。
なるほど、ポイントは骨盤だな。
一通り説明する。
院長が遠くから刺すような目つきで見ている。
やがて、うなずいてくれた。
治療の方針そして治療方法は合っているようだ。
・・・なんとか無事に治療終了。
次も来てくれるといいな。
なんとか一日が終わり、いよいよ院長の身体で、マッサージテストだ。
俺「お願いします」
院長「まずは、うつ伏せの状態で首から腰までの範囲をマッサージしてみてくれ」
俺「ウッス」
院長の腰を触って見て恐怖した
ただのデブと思っていたが、腰に尋常じゃない量の筋肉が付いている。
背中や首もそう、もちろん脂はのっている。
しかし、この筋肉は・・・
「ゆ、指が・・・」
筋肉の密度がすごくて、指が経穴(ツボ)に入れない。
「て、手が・・・」
筋肉が大きくてつかめない。
だが俺は負けなかった
全身全霊を、指に、手にこめた。
やがて院長が口を開く
「効かぬ・・・」
部屋に緊張が走る
「効かぬわ!大吉!」
「筋肉の密度がとか、大きさがとか言って逃げたいのだろうが、そうはいかん!」
「そういう患者は診ないつもりか?患者に国境は無いんじゃないのか?」
先回りされた、やはり院長は、あの・・・
「ボケっとしてねえで、しっかりマッサージしてみろ」
「くっ、ますます指が・・・」
院長「大吉、手を見せてみろ」
俺「は、はい」
院長「この手じゃ駄目だ、使い物にならねえ・・・」
俺「・・・?」
○uck you!
Son of a ○itch!
Suck my ○ick!
俺の手が使い物にならねえだと!!
身体的な理由での差別か?
俺が関西だからか?
関西差別なのか?
「治療家の手は、掌を開いたときに親指と小指が一直線にならないと駄目なんだよ
つまり親指の先端・親指の根元を結んだ線、小指の先端・小指の根元を結んだ線、
親指の根元と小指の根元を結んだ線、この3本が一直線になるようにならなくちゃ駄目なんだよ」
確かに俺の手は、そうならない。
だ、駄目なのか?
治療家をあきらめろと言うのか?
俺の野望は?
世界の半分を妻にやるという約束は?
「はい、掌を出してください」院長が言う
「掌を改造するぞ」
そう言うと俺の掌にザクザクと鍼を刺し始める。
「あっ、い、痛い」
掌の鍼が痛いのは知っていたが、俺は人一倍痛みに弱いので
かなり痛かったのだ
両手の施術が終わり手を見てみる
「な、なにい!」
指が、さっきの線が一直線になるように開いている。
俺「院長これは!」
院長「まあ魔法だな、魔法」
院長「さて、もう一度マッサージしてみよう」
指が経穴(ツボ)に入る
筋肉が掴める
これほど違うのか
院長「まだ力は足りないがセンスは良いね。精進するように。」
俺「頑張ります。ありがとうございます。」
魔法、院長は確かに魔法と言った
やはり院長は・・・
家に帰り妻に一通り話して指を、掌を見せた
手をしげしげと見る妻
よくわからないなあと言う
掌越しに見る笑顔が、かわゆいぜ。
「マッサージしてほしいなあ」
「わかったよ任せてくれ」
Is there a doctor or nurce on the plane?
院長め、なかなかやりおるわ
この大吉、次こそ魔法とやらを見極めてやるぞ
だから、これからも魔法を見せろください。
俺は渡良瀬大吉、中河原の覇王と呼ばれたりする男よ。
この手に新たな力を得た今、支配からの卒業を果たしてやるわ。
やがて世界が俺にひれ伏す・・・クックックッ
大吉は、つぶやきながら
マッサージのために部屋の明かりを消すのであった
つづく