県内初の”校内居場所カフェ”をつくる

    の挑戦

 

 

◆校内居場所カフェとは

 

 生活困窮、虐待、ネグレクトなどの家庭の問題や、いじめ、友人関係など学校の問題で、家庭や学校で「自分の居場所がない」と感じている児童・生徒が少なからずいるという。また、なかなか学校に行けないとか、将来の進路に不安を感じている、日本語が母語ではないため授業についていけないなどの悩みを持つ児童・生徒も数多くいる。

 そこで地域で支援活動をしているボランティア団体などが、そうした児童・生徒たちに、サードプレイス(3番目の場所)として、子ども食堂など、いつでも立ち寄ることができ、くつろげる場所を提供する活動が各地で始まっている。
 ところが、高校生くらいになると、校外(地域)にこのような居場所を作っても、わざわざ訪ねていくことに抵抗を持つ生徒も少なくない。そこで、高校の校舎内に、誰でも気軽に立ち寄ることができる「校内居場所カフェ」をつくる試みが、10年余り前に大阪の高校で始まった。

 校内居場所カフェで生徒たちは、食事をしたり、飲み物を飲んだり、ゲームをしたりして過ごす。もちろん何もせずに、ただ居るだけということもできる。就職や進路相談ができる場所も設けられ、(先生や学校カウンセラー以外の)地域の大人たちが相談相手になってくれる。いま全国で約60ヶ所の「校内居場所カフェ」があるという。(最近では、新型コロナの影響で食事が出せないところも多くなっているが、カップ麺などのインスタント食品や米、菓子などを「食支援」という形で配布して持ち帰ってもらうという工夫も行われている)

 開催場所は校舎内ではあるものの、運営するのは高校ではなく、地域の支援団体のボランティアや大学生たちであるというのが大切。地域の大人たちは、無理をせず、生徒たちが自然に悩みごとを語り始めるのを待つ。助けてあげるという上から目線ではなく、あくまでも同じ目線の高さで話を聞くことが重要である。


◆市川工業高校に「りりいふカフェ」が誕生

 

 市川工業高校は、全日制と定時制をもつ県立高校である。

 教員OBや現役の教員らでつくる「NPO法人ハイティーンズサポートちば」では、市川工業と千葉市の生浜高校の2つの県立高校に、千葉県内では初めて”校内居場所カフェ”を作ることを2021年度の目標に掲げた。

 江戸川大学・隈本ゼミの学生たちは、校内居場所カフェづくりの支援をしながら、その意味や問題点について実践的に学ぶことにした。

 まずカフェの名前をどうするか。ゼミ生が提案したいくつかの案の中から市川工業の定時制の生徒たちの投票で「りりいふカフェ」という名前が選ばれた。英語の「Relief=安心」の意味で、安心できる場所をという気持ちで名づけられたものだ。

 カフェの運営には、これまで地域でさまざまな支援活動を続けてきた「NPO法人ダイバーシティ工房」や「いちかわ・うらやす若者サポートプロジェクト678」のみなさんが参加する。

 隈本ゼミの学生は、りりいふカフェの実行と、広報webサイト作成、毎回のポスター制作を担当することになった。


 

◆「りりいふカフェ」のプレオープンと第1回

 

 2021年7月14日に行われたプレオープンは、季節にあわせて「七夕まつり」がコンセプト。隈本ゼミの学生は、浴衣を借りて参加した。この日は全日制の生徒が17人、定時制の生徒が14人の計31人が参加。

 今回ゼミ生が企画して担当した「縁日ゾーン」では、輪投げや駄菓子釣り、福笑いを中心に盛り上がった。この日は千葉日報社による取材や、保護者の方の見学もあった。


 

 9月のカフェは、緊急事態宣言の延長により中止となったが、それに代わり9月28日と29日の2日間、食支援が行われた。ゼミ生たちは1日目の28日の食支援に参加、米600gや食品セットを生徒たちに次々と渡していった。2日間で220人あまりが食支援を受けた。


 

 正式開催の第1回のカフェは、10月25日に行われた。この日のコンセプトは「ハロウィン」。ゼミ生もハロウィンの仮装をして参加した。定時制の9人、全日制の69人の生徒が参加してくれた。

 人気の「縁日ゾーン」には、新たに射的が登場した。生徒たちは景品のお菓子を目指して盛り上がりを見せた。

 

 

◆校内居場所カフェについてのシンポジウム開催

 

 「NPO法人ハイテイーンズサポートちば」では、11月27日、千葉市でシンポジウム「高校居場所カフェ、実現しました!」を開催した。隈本ゼミのゼミ生も、市川工業でのりりいふカフェの実践について報告。その後の「居場所カフェ~その可能性と課題~」の討論にも参加した。

 教育界では一般に、外部の人が入ってくること対して拒否反応が強く、それは校内居場所カフェにも言えるという意見が出た。生浜高校でも教職員の理解が得られて実現するまでには3年の月日が必要であったという。

 しかし悩みを抱えている生徒たちと、地域の大人たちが自然につながっていくしくみは、なかなか他の方法では実現しないため、2つの県立高校での校内居場所カフェを地道に成功させて、その成果によって徐々に教職員の理解を得ていくことが大切だということが確認された。

 

 

 

◆12月のカフェも食支援に変更

 

 12月にもクリスマスをコンセプトにした「りりいふカフェ」を準備、ゼミ生たちがお知らせのポスターやwebサイトも作ったが、新型コロナの影響で残念ながら中止、食支援のみに切り替えられた。メインの対象である定時制の生徒に向けて開始時刻を遅らせ、午後5時以降の開催とした。25人の生徒が参加してくれた。

 この日は食支援が基本だが、その場に居残ることもあり得るということで実施したため、生徒の一部が残り、カードゲームなどを楽しんだ。ゲーム内では自分の名前を名乗る必要があり、生徒とゼミ生徒が名前で呼び合う場面もあった。

 

 

 1月に予定していた、「節分」をコンセプトにしたりりいふカフェも、新型コロナの影響で中止と決まった。ゼミ生が作った幻のウエブサイトがこちら。

 

 一連の「りりいふカフェ」の活動に参加したゼミ生は「プレオープンや食支援の時に来てくれて、私たちの顔を覚えてくれていた生徒もいた」「1人の生徒がこれからの進路で迷っているという話をしてくれたので、自分が大学への進学をきめた経緯を話してあげて、まだ迷っていていいんだよという気持ちを伝えた」と話していた。成果は少しずつ上がってきている。

 

これからも、市川工業「りりいふカフェ」の挑戦について報告していきます。