『本の旅人』9月号(KADOKAWA)にて
堀川アサコさんの最新作
『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』(KADOKAWA)
の書評を書かせていただきました。
ちなみに、書評は下記でも読むことができます。
https://kadobun.jp/reviews/115
私は以前から、『本の旅人』をはじめ
『波』(新潮社)とか、『青春と読書』(集英社)とか
版元さんが出している読書情報誌を読むのが好きでした。
作家さんのインタビューとか、小説やエッセイの連載とか
新刊の書評とかが満載だからです。
ものすごーく読みごたえがあるというのに
1冊の値段は100円前後で
年間購読をすると1年分が約1000円くらいという
コスパが良すぎる価格も魅力的です。
薄くて軽くて持ち歩きがしやすいので、
カバンの中にはいつも
どこかの版元さんの読書情報誌が入っています。
ちょっとした書評のお仕事をいただくようになってから
「いつかは、こういう媒体でも書評を書けるようになりたいなぁ」と
思いながら、読書情報誌を読むようになりました。
でも、どの読書情報誌を見ても
書評を書かれているのは、
作家さんとか、タレントさんとか、その分野の有識者の方とか、
著名な書評家さんとか、高名な方ばかりです。
もともとネガティブで小心者のわたしには
売り込みとか、営業とかをする勇気はとてもなく。
「いつか、書かせてもらえたらいいなぁ」と
ぼんやりと思うことくらいしかできませんでした。
なので、今回、かつてのご縁をきっかけに
『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』の
書評の依頼をいただいたときは、
本当に本当にうれしかったです。
読書量も知識も、まだまだ足りなすぎるので
高名な方々のような立派な書評を書くのは難しいのですが
自分なりにこの物語から感じたことを
精一杯、正直に、できるだけわかりやすく
書かせていただこうと思いました。
『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』の
内容や、わたしが感じたことなどは
書評に書いたとおりなのですが
文字数の関係で組み込めなかったことを
ちょっとだけ補足させてください。
まず、おいしそうな食べもののことです。
物語は料理の場面からはじまります。
レバーペースト、フランスパン、白菜のおひたし、
胡瓜の酒粕あえ、茄子の糠漬け、ジャガイモの冷たいポタージュ、
甘く焦げた玉子焼き、もずくの酢の物、大根の味噌汁。
冒頭の20ページまでで、すでにこれだけの料理が登場します。
その後もイワシのトマト煮込み、握り飯、
カレイの煮つけ、ポテトサラダ、納豆ごはんなど
おいしそうな家庭料理の場面がいくつもあります。
思わず甘い玉子焼きやポテトサラダを作り
納豆ごはんを食べてしまったほど
物語の世界に影響を受けた自分がいました。
それから、猫のことです。
この物語には、アーニャという名の猫が登場します。
物語の後半では、アーニャが名脇役的な活躍をし
エピローグでは、猫がいるほのぼのとした場面の描写があります。
猫がごく自然に描かれていて、かつ
登場人物のみなさまに大切にされていることは
猫好きのわたしにとっては、とてつもなく大きな癒しとなりました。
最後に、作者の堀川アサコさんのことです。
堀川さんは青森生まれで
2006年に『闇鏡』にて
第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞して
小説家としてデビューされました。
なんでも、日本ファンタジーノベル大賞には
第1回目のときから応募をされていたらしいです。
小説家を目指して、18年以上も作品を書きつづけることは
わたしの想像をはるかに超えすぎていて
すごい、本当にすごいです、としか言えません。
堀川さんは、2011年に上梓した『幻想郵便局』がベストセラーとなった
「幻想」シリーズで人気を博しつつ
ほかにも多くの作品を書かれています。
主人公の名前がアズサということもあり
「幻想」シリーズには一方的に親近感を持っていたりします。
堀川さんの作品をいろいろと拝読する中で
個人的に、一番印象的だったのは『幻想郵便局』のあとがきです。
あとがきの中で、堀川さんは
かつて心霊スポットで働いていた経験を述べています。
その職場では、
いるはずのない人を目撃したり、
いるはずのない子どもの声を聞いたりと
いわゆる怪現象というものを体験していたそうです。
堀川さんは、怖がったり、おもしろがったりすることもなく
生きている人と同様、いるはずのない人たちのことも
ひとりの人間としてとらえていて
気遣ったり、慮ったりしています。
『幻想郵便局』は生と死のはざまにある郵便局のお話で
物語はこの世とあの世を行き来しつつ進んでいき、
『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』の中にも
亡くなったはずの人物が現世に登場する場面があります。
いろいろな物語の中で、
亡くなったはずの人がイキイキと生きて(?)いるのは
堀川さんご自身がそのような感覚を持たれているからなのだと
『幻想郵便局』のあとがきを読んで納得しました。
がんばっているのに、なかなか成果が見えなかったり
疲れているのに、やらなければいけないことが山積みだったり
苦手な人ともうまくつきあわないといけなかったり、などなど
生きていくのは、なかなかどうして、大変です。
さらに、いきなりミサイルの恐怖が襲いかかってきたりして
世の中もなにかと大変です。
『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』の中には
夢とか希望とか、人情とか人の温かさとか
かつての日本に当たり前のようにあったはずの空気が満ちていて
読んでいるうちに、心がゆるゆるとゆるんでいきます。
ひとりでも多くの方に
『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』の
温かくてやさしい世界を味わってもらえたらいいなぁと思っています。