今日まで発売の『週刊女性』にて
新刊『ワンダフル・ワールド』(新潮社)を上梓された
小説家・村山由佳さんのインタビュー記事を書かせていただきました。

2012年に『ダンス・ウィズ・ドラゴン』を刊行された際にも
インタビューをさせていただいており
今回が2度目となります。

子どものころから物語の本が好きだった私にとって
小説家さんというのは、別世界の存在です。
ごくごく普通に、いち読者として
村山由佳さんの小説を読んでいたもので
インタビューのお話をいただいた時には、
信じられないような気持ちになりました。
取材時に初めて村山さんにお目にかかった時には
「村山由佳さんって、本当にいるんだ」と思ってしまいました。
うまく言えないのですが
幻の存在といわれている蝶やお花を
目の当たりにしたような気持ちでした。
そして、自分が緊張していることにすら気づかないほど
緊張していました。
村山さんは、雰囲気もお言葉もとてもやさしく
取材を進めるうちに、少しずつ緊張がほぐれていきました。
今回は二度目の取材にもかかわらず
前回と似たような精神状態に陥っていたのですが
村山さんとお話をすることで落ち着くことができました。
私はフィギュアスケートにはまったく詳しくないのですが
それでも、トリノ五輪の荒川静香さんの演技をテレビで見たとき
その美しさに感動して涙が出ました。
村山さんの取材時にも同じような心境になります。
村山さんの語る言葉は、とても美しくて
お話を聞いているだけで、じんわりと感動してしまうのです。
感動のあまり、ちょっと目がウルウルしてしまい
それ以上、涙がこみ上げてこないように、
取材中はできるだけ、目にグッと力を入れていました。
村山由佳様、お忙しい中、インタビューをさせていただき、
どうもありがとうございました。
新潮社のF様、W様、取材等の調整をいただきまして
どうもありがとうございました。
新作の『ワンダフル・ワールド』は
長いつき合いの妻子持ちの恋人がありながらも
別の男性との官能の世界に惹きこまれる女性の姿を描いた
『アンビバレンス』、
かつての恋人との間に芽生えた感情を慈しむ
バツイチ女性が主人公の『オー・ヴェルト』など
5つのお話が収められた、大人のための恋愛短編集です。
すべてのお話に共通しているのは「香り」です。
冒頭の『アンビバレンス』はアロマや石けん、香水といった
香りに満ちた物語になっており
当時の編集担当さんに
「香りをキーワードに短編集を編んでみませんか?」と
提案されたことをきっかけに、この本が出来上がったのだそうです。
「香り」と聞くといい匂いをイメージするかと思うのですが
この短編集の中には、アロマや石けんといったいい香りもあれば
温水プールや猫のおしっこのニオイのような、
日常生活の中の香りも描かれています。
どの作品もおもしろいのですが
私が一番、興味をひかれたのは
4番目に収められている『サンサーラ』です。
母との確執に悩みつづけていた女性が
子犬との出会いをきっかけに精神的な自立をするお話でもあり、
不思議な骨董店の店主との不変的な愛を描いた作品でもあります。
最近、「毒親」という言葉が使われるようになったりなど
母と娘の関係性を語る小説やノンフィクションが増えているように感じます。
村山さんは、2011年にご自身のお母様との関係を描いた
自伝的な小説『放蕩記』を発表しています。
私も自分と母との関係で思うところがあるもので
他人事とは思えないような気持ちで『放蕩記』を拝読しました。
『サンサーラ』の中にも、村山さんの母娘問題が
色濃くあらわれているように感じました。
絶望と救いが輪廻転生のテーマの中で綴られており、
村山さんの作品の中では珍しい幻想的な物語となっています。
私が一番、共感したのは、ラストの『TSUNAMI』です。
舞台は東日本大震災の翌日の関東地方で
自分を捨てた恋人と
彼が残した老猫との最後の日々が描かれています。
物語には息も絶え絶えの17歳の老猫が登場するのですが
実は、村山さんももみじさんという15歳の猫と一緒に暮らしているのだそうです。
インタビューの中で、村山さんは次のように話しています。
「私にとっていちばんの恐怖は、
そう遠くない将来にもみじがいなくなってしまうこと」
「『TSUNAMI』はもみじを亡くす心の準備をするようなつもりで
書いた作品でもあるんです」
私は今、2匹の猫と暮らしています。
1匹は13歳の老猫です。
もう1匹は10歳ですが、2年ほど前に乳がんを患っています。
『TSUNAMI』の中の出来事は、他人事には思えませんでした。
本をテーマにインタビューをさせていただく時は
該当の本を最低、3回は読むようにしているのですが
3回とも泣きました。
いつか訪れる猫とのお別れのときのためにも
この本をずっとそばに置いておきたいと思っています。
インタビュー記事にも書かせていただいたのですが
『ワンダフル・ワールド』に収められている5つのお話を書いている間に
村山さんは、ふたつの大きな別れを経験しています。
「香りをテーマに短編集を編んでみませんか?」と提案された編集担当さんと
別媒体で連載の機会を作ってくださった方が
突然、亡くなってしまったのだそうです。
「生と死の境界線は思っているほど太くはないのだという、
当たり前の事実に打ちのめされました。
同時に、私は私の生を生きるしかない、生き切らなけれなならないとも思います」
そう話されていた姿が印象的でした。
『ワンダフル・ワールド』は
どなたが読んでもおもしろく感じられると思います。
冒頭の『アンビバレンス』ではセキセイインコ、
『サンサーラ』では犬、『TSUNAMI』では猫が
重要なキャストとなっているので
人間以外の家族と暮らしている方は、
特に興味深く読めるのではないかと思います。
また、どの作品も読みやすいので、普段、読書とあまり縁がない方でも
スラスラと読めてしまうのではないかとも思います。
ひとりでも多くの方が
村山由佳さんの描く世界に浸ってくださったらいいなあと思っています。