こんにちは!

それでは講義を始めます。

今日は,前回の物権変動にからんで,「対抗要件」についてお話しますね。



例えば,Aさんが持っているデジカメを,Bさんが買いました。

ところが,なんということでしょう!
Aさんは,そのデジカメを第三者のCさんにも売る契約を結んでしまいました。

このような例を,二重売買とか,二重譲渡と呼びますので憶えておいてくださいね。

ちなみに,譲渡[じょうと]と言われると,なんか無料であげたようなイメージがありますが,

それも譲渡の1つなんですが,どちらかというと売買が譲渡の代表例なので,

譲渡と言われると,売買をイメージしておくと良いですよ。

【図表1】
二重譲渡



そしてこのとき,BさんとCさんは,

「このデジカメは私の物だ!」

「いいや,このデジカメは私の物だ!」

と主張し合いますよね。

このように,権利の関係を第三者に主張することを「対抗する」と言います。

ですので,例えば「BはCに対抗できる」と言われたら,「BはCに『これは私の物だ!』と主張できる」という意味になります。

そして,この主張し合う関係を「対抗関係」といいます。

この二重譲渡の例でしたら,BとCが対抗関係になっていますね。


ここで,「第三者」という語が出てきましたので,これを説明しておきますね。

この「第三者」という語についても,後々判例を見ながら深く学ぶことになるのですが,ここでは大まかに理解をしておきましょう。

まず,Bさんは,Aさんと売買契約を結びましたので,Bさんから見てAさんは契約当事者であって,第三者ではありません。

しかし,Bさんから見てCさんは契約当事者ではありませんね。

だから,Bさんから見てCさんは,「第三者」になります


また,Cさんは,Aさんと売買契約を結びましたので,Cさんから見てAさんは契約の当事者で,Bさんは契約当事者ではありませんね。

だから,Cさんから見てBさんは,「第三者」になります

【図表2】
第三者とは



さて,話をBさんとCさんの対抗関係に戻しまして,

この場合,BとCのどちらにも「これは私のデジカメだ!」と主張することを認めてしまうと,

いつまで経っても結論が出ませんよね。話が堂々巡りになってしまいますから。

ですので民法では,「これは私のデジカメだ!」と主張するためには,「ある要件」を備えなければならないとしたのです。

この「ある要件」のことを,主張する(つまり対抗する)ために必要な要件ということで,「対抗要件」と言うのです。


そして,この対抗要件は,動産と不動産とでは異なりますので,まずは動産からお話しましょう。

次の条文を見てください。

【第178条】
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない


なんとなく分かりました?

キーワードは「引渡し」ですね。

動産では,この「引渡しが対抗要件とされているんです。

では「引渡し」とは何か?ですが,実は4つあるんです。

でも今は細かいので触れずにおきまして,

とりあえずのイメージとしては,「デジカメ(動産)を受け取ること」と理解しておけば良いでしょう。


ですので,さっきの例でしたら,BさんとCさんのうち,先にAさんからデジカメを受け取った方が,

「これは私のデジカメだ!」と主張できて,

受け取っていない方は,もはや「これは私のデジカメだ!」と主張できないんです。


だから,例えばもしBさんが先にデジカメを受け取れば,Bさんは「これは私の物だ!」と主張できて,Cさんはもはや「それは私の物だ!」と言えなくなります。

その結果,そのデジカメはBさんの物になります。


もちろん,反対にCさんが先にデジカメを受け取れば,Cさんは「これは私の物だ!」と主張できて,Bさんはもはや「それは私の物だ!」と言えなくなります。

結果,そのデジカメはCさんの物になるということです。

【図表3】
動産の対抗要件


このようにして,民法では動産の対抗問題を解決しているんです。


「いやいや,この二重譲渡っていうヤツ,つっこみどころ満載やねんけど?」


はいはい,やはりそうきましたね(笑)

そうなんですよ。実は,この二重譲渡って,理解しにくいポイントをいろいろ抱えているんですよ。

そのすべてを,この入門講座でお話することは,入門講座の趣旨に合いませんので,ここでは2点だけお話しておきますね。



まず1つ目は,Aさんは,Bさんと売買契約を結んでおきながら,Cさんとも売買契約を結んでいますよね。

この2つの売買契約は,どちらも有効として扱われるんです。

「なぬ?!Bに売ったら,Cには売れないじゃないか!だからCとは売買契約を結べないんじゃないの?」

たしかにそう思いますよね。

なんか気持ち悪い,変な感じが心に残りますが,矛盾するような内容の2つの債権でも,同時に成立するんですよ。

債権にはこのような特徴があるんです。


この点,物権は違うんです。両立し得ない2つの物権が成立しないんです。これを一物一権主義と言います。

例えば,デジカメがBさんの物(つまり所有権がBにある)ならCさんの物ではないし,Cさんの物ならBさんのものではないんですね。

こっちの方が分かりやすいですね。


とにかく,債権は両立し得ないような内容のものでも,有効に成立するんだということを憶えておいてください。



そして2つ目は,例えばAがBとCにデジカメを売る契約を結んで,Bが引渡しを受けたとすると,

デジカメを買う契約を結んだのにデジカメが手に入らなかったCさんはどうするのか,という問題です。

これについては,Aさんが契約違反を侵したということで(これを債務不履行といいます),

契約を無かったことにしたりとか(これを契約解除といいます),損害賠償を請求したりとかすることで処理します。



以上で動産の対抗要件について説明を終わりますが,どうでしたか?

この二重譲渡の問題は,色々な角度から考えなければなりません。

ですので,民法の複雑さや難しさとともに,面白さや興味深さを味わうことができるとも言えます。


民法を学び始めてまだ間が無い方にとっては,理解するのに苦労するかも知れませんが,

根気よく繰り返し図を見ながら説明を読んで,理解を深めていただきたいと思います。


それでは今日はここまで。お疲れさまでした。


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