またひとり友達が結婚することになった。
大学時代に知り合い同じ会社に入社することになった友人。
イケメンだが俺よりはるかにヲタクでニコ生で活動したり某アイドルゲーに詳しかったりと友達でありながらその生き方には憧れのようなものも覚えていた。
就職してからは仕事のせいでヲタク趣味は大幅に縮小していたが、俺よりもずっと優秀で俺よりもずっとはやく昇進し、俺がリタイアした後も新興地域で荒波にもまれながら立派に働いている。
今でも俺は趣味よりも仕事に生きるような男らしい生き方に憧れたままでいる。そんな気がする。
そんなやつもとうとう結婚。
めでたいことだ。本当にめでたいことなのだ。
だけど喜びよりも明らかに落胆というか焦りというか、少なくとも心から嬉しいとは思っていない。
現に俺はあいつに連絡を取ろうとすらしていない。
すぐに祝福の言葉を送り、結婚式の予定でも聞き、軽く思い出話でもするのが友達というものだろう。
しかし俺はもう縁を切ったような気持ちでいる。いや、切れたというのが正しいか。あいつと俺とは住む世界が違うのだ。俺なんかが気安く話しかけない方がいい。
ただでさえ嫌いな自分が余計に嫌いになる。
今までも何度も経験してきた。
めでたいことなのにこの面白くない気持ち。
まるで戦友が戦死してしまったような感じ。
まるで絶対に会うことができない違う世界に行ってしまったような。
まるで「俺はお前みたいにいつまでも子供じゃないんだ」「もうお前なんかと遊んでる暇はないんだよ」「いつまで学生気分でいるんだ」と言われているような気持ち。
もちろん完全に被害妄想。
あいつらは「別に成り行きだよ」とか「結婚すりゃ偉いわけじゃないだろ」と言ってくれるんだろう。
しかしとにかく、間違いなくもう会うこともなくなるだろう。
しかしどう努力しても結婚などという圧倒的社会的ステータスを手に入れることができない俺にlとっては仲間を奪っていく疫病神のような事象でしかない。
俺はいつまでも経ってもガキのままだ。
あいつが先を見据えて人生を戦っているとき、俺はあいつが学生時代に住んでいたアパートの前を横切り、昔はよかったなあと懐古趣味に浸る。
あいつが悪いんじゃない、結婚が嫌いなわけでもない。
ちっぽけな自分の無価値さを否応なしに思い知らされるのが嫌なだけなんだろうな