23-12-09

去る11月16日夕方のNHK広島ローカル番組で「呉のものづくり」が放映され、グレーチング、ヤスリ、LPガスボンベが紹介されていました。いづれも旧海軍工廠の優れた技術を継承して、今日の発展を導いてきたものですが、ここで特にLPガスボンベに焦点を当ててみます。

呉市広交叉点の近くにある「中国工業(株)」は、戦前広海軍工廠のあった場所に設けられた会社です。現在LPガスボンベの生産で知られていて、一日に4,000本ほど生産、国内の3本に1本は中国工業製となっているそうです。

LPガスボンベは圧力容器ですから、強度の強い鋼板で造ります。胴体は丸く曲げて溶接でとめますが、難しいのは両端を塞ぐ「鏡板」と呼ばれる「お椀型」の部品(下)です。

「鏡板」は鋼板をプレス加工して造りますが、内側の丸みはミリ単位で調整されています。少しでもずれるとヒズミやキズができて品質が落ちてしまいます。

 

中国工業は昭和25年(1950年)に創業しました。当初は主に鉄鋼製品を手掛けていましたが、経営的に苦しい時代が続きました。

 

そこで、国内外の情報を調べた結果これからはLPガスの時代が来ると見通して、昭和30年(1955年)当時国内ではほとんど見られなかったLPガス容器の生産に取り組むことにしました。

中国工業には戦時中海軍工廠で鍛えられた「弾頭」(下)のプレス加工技術があり、その技術が「鏡板」の製作に当てはまり、品質の高い容器が出来ました。ベテランの技術者になると、型枠を手で触っただけでコンマ0.1ミリのヒズミが分かるそうです。

中国工業の圧力容器は次第に全国に広まっていき、国内一のメーカーへと発展、今では圧力容器だけで年間90億円の売り上げを誇るようになりました。

 

近年取り組んでいるのは、新しい燃料として期待されている「水素ガス」です。圧縮した水素を入れるには、LPガスの数十倍の圧力に耐える必要があります。そこで中国工業では、鋼板に代わって、より高い強度を持つFRP(繊維強化プラスチック)を使うこととし、現在日々研究に励んでいます。

長らく親しんできたLガス容器も、最近はFRP製の需要が高まっています。50キロ型の鋼板製ボンベだと中身が入っていなくても36キロの重量があり、家庭や事業所に配送する作業員の疲労度は相当なものがありますが、FRPだと鋼板製の60%の重さしかないので楽に運べます(上)。

 

更にFRPは錆びない、火災時でも爆発しない(ボンベが溶けるため)、ボンベ内部の残量が外から見える(鋼板製は重量を計って残量を調べる)などの特徴があります。

中国工業(上)は海軍工廠で培われた技術を基に、移り変わる時代に合せて形を変えながら、人々の生活を支え続けて行きます。

 

  次回は12月12日「さようなら円形校舎」です。