行き過ぎたブームの産物“AKB握手会襲撃事件”
2014年5月25日、アイドル界を震撼させる事件が起こった。
「AKB48握手会襲撃事件」だ。
AKB48のメンバーがイベント中に刃物で襲撃され重傷を負ったというのは、アイドル好きだけでなく世間一般にも衝撃を与えた。
犯人はその後自らを「AKBのファンではなかった」と供述しているが、事件当時、多くのアイドルファンは犯人を“AKBを恨んだヲタ(※オタクのこと)”の犯行だと思った。「男問題などで裏切られ、握手会商法で搾取されまくったAKBヲタが逆上」して起こした事件に見えたのだろう。AKBの“握手会商法”はずっと批判にさらされていて、いつか何かしらの事件が起きるだろうとヲタの間では言われていた。TVのワイドショーでも“握手会商法”は批判の対象にされた。
アイドル襲撃事件は以前にも起きていた!
だが、われわれ地下アイドル関係者には「AKBなのにこんなに警備がゆるい」ことのほうが驚きだった。アイドルが襲撃、暴行されるといった事件は大半のグループで起きている結構ポピュラーな出来事で、AKBほどのグループが対策を講じてなかったのが信じられなかった。
AKB襲撃からさかのぼること1年前、声優界では今回の“予兆”ともいえる事件が起きていた。田中理恵という声優が出演しているアニメの試写会で、檀上にあがったところにバールを持った男が乱入して暴れたのだ。
すぐに出演者は逃げて被害はなかったが、誰も止めることなくステージ上に無関係の人間が上がれたということが衝撃を持って受け入れられた。
声優イベントは基本予算がない。だから警備が制作会社やメーカーのスタッフが行うのが当たり前である。セキュリティを厳しくできない状況があった。
そしてファンのマナーがいいことを前提に「おそらく大丈夫だろう」という認識のもとで、ゆるい警備のままイベントが行われてきたのである。
ファンの善意に甘えているアイドルイベントの現状
声優界隈しか知らない声優ヲタのなかには「AKBみたいな人気アイドルは声優と違ってセキュリティがしっかりしてるだろう」と思っていた人もたくさんいたという。ところが実際はAKBもあまり変わらなかったのだ。
ハロー!プロジェクトのような“昔の芸能界”を引きずったところをのぞくと、基本的にメジャーも地下もアイドルの握手会やイベントについては驚くほどセキュリティがゆるい。もはやアイドルは話せて当たり前。今のアイドルは握手会などの“接触イベント”なしには成り立たない。そんな状況で、「接触の時間を短くする」「荷物や服装のチェックに時間を割く」など、警備を厳しくしたらファンが離れてしまう。
“現場”(※ライブやイベントがある現場の俗称)ではみんなが顔なじみになっていく。ある種の村社会ができる。それがある種の相互監視の機能を果たして“自浄作用”が生まれるため、実はアイドルに暴言を吐いたりやセクハラ行為をしたりするファンは減っていく。
しかし今のAKBほど規模が大きいとお互いが顔見知りになるのは難しい。また“ピンチケ”といわれる若いファンが増えるに従い、自分の欲望を抑えない、自制の効かないファンが増えてきたのも事実だ。
イメージ職業ゆえ、隠ぺいされてしまう暴力事件
“アイドルが襲撃されるのは珍しいことではない”と書いたが、今回のAKBのように衆人環境で起きてしまい隠しようのないものは別として、大半は被害者であるアイドル側が事件を隠してしまう。騒ぎを大きくして犯人を刺激したり模倣犯が現れるのを防ぐ、そして、そのアイドルにマイナスイメージが付かないように、だ。
これはメジャーと地下の中間ぐらいのあるグループで実際にあった話だが、メンバーが帰宅中自宅近所の暗い細道でいきなり刃物を持った男に突進された。荷物が多く刃物は紙袋に刺さったが突進されたメンバーは転倒、頭部を打って通院することになった。荷物に守られてなければ命にかかわる事態である。
このメンバーは話を大きくするといろんな人に迷惑をかけると考え、このことを数日にわたり隠し、その後マネージャーやスタッフに告白。それからはマネージャーやスタッフが家の前まで送るようにした。しかし数日それを続けると「警察に通報してあるのであとは警察に守ってもらうように」ということで事務所によるフォローはなくなったという。
自分の身を守るのは自分だけ、悲しいアイドル事情
売れてないアイドルの場合、マネージャーも他のタレントと掛け持ちで担当することがほとんど。1人のタレントのために時間を割くことができないことがほとんどだ。かつてのようにアイドルを守るファン・親衛隊のような存在もなく、「疑似恋愛商法」によってアイドル本人の危険だけが増している。アイドルが粗製乱造される状況では守るだけの人員も足りないが、そもそも「守るだけの価値」も薄まってしまったのかもしれない。
所属事務所やイベント会社が安く儲ける手段ばかり考えているのならば、これからもアイドルを標的にした暴力事件が減る事はないだろう。
(取材・文 パコ武蔵)
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