昭和天皇と日本人 ノート | 気になる映画とドラマノート

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昭和天皇と日本人 ノート

昭和21年2月27日付け「読売報知」{当時の名称)
AP電
「多くの皇族も陛下のご退位に賛成だという。
東久邇宮も賛成だという意見を持つひとりだ。」

 昭和」21年10月12日アメリカABC放送は、近衛文麿の言葉を報道
「天皇は退位され、京都に隠居なさったほうがよろしい。その場合、国民投票により、高松宮様が摂政になるのがよい。」
※大正10年に昭和天皇は、青年時に、「摂政」になっているので、「摂政」というのは、次期天皇候補という意味と思われる。高松宮は、昭和天皇よりも4歳下の弟。
昭和天皇よりひとつ歳下の弟、秩父宮は、この時、肺結核のために療養中だった。

週刊朝日昭和23年5月16日号
三淵忠彦最高裁長官
「天皇が戦争の道義的責任をとって、責めを受ける詔勅を出して、退位したならば、どんなによい教訓になっただろう。」

 つづく、6月9日には、中国中央社のいインタビューに、東京大学総長南原繁が、「天皇には道義的責任があり、自発的に退位されるのが望ましい」と答えた。

 また、アメリカの一般的な国民、および英国、ソ連、中国、オーストラリアは、天皇への極刑を要求する声が多かった。

 7月16日、ハーバート・ノーマンがマッカーサーと会見した時、マッカーサーは、アメリカの主要新聞社の記事について、「天皇を貶めるためにはどんな事でもするアメリカ人特派員の中の左翼グループによる報道が目立つ」と発言した。

 芦田均がGHQ外交局長と夕食を共にして聞いた話では、「GHQは天皇の退位に反対の様子だった」ということだった。

 宮内省の寺崎英成がマッカーサーの側近のフェラーズに聞いてみると、「マッカーサーは天皇の退位には反対で、この見解をワシントンに報告している。」(後に判明したところでは、欧州軍司令官アイゼンハワーにも、その意見をつたえている。

 平成15年7月号文芸春秋に掲載された天皇の詔書の草稿によると、「朕の不徳なる、深く天下に愧ず」とある。

 愧ず、とは、恥じる、羞じる・・・よりも、深く重い意味。

 この草稿を発見した加藤恭子によると、昭和23年秋に侍従と相談して作成し、吉田茂の意向で、保留になった。
 次のような意味の事が、文語体で記載されていた。
「隣国との友好を失い、列強と戦ったが、ついに悲痛な敗戦に終わり、こんにちの惨状となった。
しかばねを戦場にさらし、職場で命をおとした人々は数えようがなく、死者とその遺族に思いをいたせば、「ちゅうだつ」(パソコンの字にない難字)の情、禁じ能わず。」

 そして、
(東京裁判で有罪とされない状態で退位すれば、実態としてむしろ、安穏として老後を送ることになるので、)世情騒然としたぞの中で、あえて退位の道は選ばないことにした、という意味の事を書いている。

 この詔書の草稿は、吉田茂首相就任後の昭和27年5月3日憲法施行記念式典の天皇のおことばでは、「こいねがわくば、ともに分を尽くし事に勉め、相たずさえて国家再建の志業を大成し、もって永くその慶福を共にせんことを切望してやみません」となった。

 後に共産主義で、ソ連のスパイではないかという疑いをかけられ、(また、日本共産党の羽仁五郎に師事したこともある)カナダの外交官ハーバート・ノーマンは、マッカーサーとの天皇についての対話のあと、マッカーサーは天皇を退位させたくないらしい、と悟るが、ノーマンは、この時、「天皇は退位しなくても、間違いなく、権威は失墜した」と考える。

 ノーマンという人物は、在日カナダ人宣教師の子として日本に生まれて、青年期には、「禁酒運動」「廃娼運動」つまり売春防止運動に熱心であり、ハーバード大学留学時には、日本人社会主義者の都留重人と親友になって、学友に社会主義者になることを勧誘しているので、きわめて純真な人間愛あふれる行動家だったように思われる。

 この時点で、ハーバート・ノーマンには、日本は、軍国主義で遅れた国、アメリカは文明に毒され、原爆を投下した悪魔の国、ソ連は貧しい人々を救い、平等な社会を目指す人類の希望、と善意にあふれて思っていたかもしれない。

 ノーマンは、アメリカによるスパイ嫌疑をかけられて、赴任先で自殺する。

 ノーマンが、もし、長生きしたら、ソ連の悪行数々、北朝鮮、中国共産党の悪行を知って、社会主義に幻滅したろう。それにしても、ノーマンが「東條英機がすべて罪をかぶって、天皇が訴追されなかったにせよ、天皇の権威は失墜した。なぜなら、多数の日本人が天皇のために死んだのだから、多くの人間は、もう天皇を重く崇敬はしない」という意味の事を語った事は興味深い。

 つまり、アメリカは、「権威を失った天皇」を残すことは、日本国内の左右両派争論の種を残すに等しいのだから、あえて天皇退位ないしは廃位して、占領行政の混乱のリスクをアメリカが負うまでの事でもない、また、それは、日本の共産化防止の重石のひとつでもある、とかんがえた可能性がある。