思えばクリアな頭には目標が薄くて霞んで無きに等しい | 愚奏譜

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ワタシ、かなでの備忘録みたいなもの。
割と内向き・オタクなハナシが多くなりそうです。

本のハナシです。

パチンコによりコンテンツ寿命を延命させられているのは、今世紀に入ってからよく見られる現象であり、逆に本体を乗っ取られてるんじゃないか?みたいな風情の作品すらもある気がします。
『花の慶次』なんかは、知名度に関しては今やパチンコブーストが強い作品だと言わざるをえません。
それだけに、小さな書店でも原作『一夢庵風流記』があったりする可能性は高く、その作者である隆慶一郎の名は、作品に触れてない人からも謎のリスペクトを受けてたりします。

既に亡くなられて久しい隆慶一郎。
ワタシには「伝奇物の名手」なイメージ。6冊ぐらいしか読んでませんが、元々寡作だから全体の半分ぐらい?
寡作ゆえに死後の伝説化も早かったか。
そんな伝説の一部として語られるのが「あの隆慶一郎が最期に会いたがった男」の存在。

その男の名は安部龍太郎。

彼の作品です。

『婆娑羅太平記 道誉と正成』
『士道太平記 義貞の旗』集英社文庫
同じ世界のハナシを違う視点で二作。

安倍作品は久しぶりかしら?
ご多分にもれず、賞取りとか売れ筋を戦国方面でやってたので、ワタシは読むのから遠ざかっていたんですが、そもそもデビューが『血の日本史』とかいう、短編連作で日本通史をやるという荒行だったし、『師直の恋』(コッチがデビュー作だったかな?)みたいなのも書いてたし、元来がオールラウンダーな方。ワタシが初めて購入した安倍作品も『バサラ大名』だし、漸くココを書いてくれたなみたいな気持ち。

そして本二作。
まずは佐々木道誉。
どうしても大河『太平記』の陣内孝則の道誉のイメージが強すぎるから、そういうビジュアルイメージで読んじゃうけど、やはりそうではない。行状は史実通り婆娑羅なカンジでも、心情はちょっと熱血?それはもう一人の主役のせい。
楠木正成。
設定モリモリです。といっても割と新史料とかに基づいてるのかしら?元々得宗家臣の長崎家被官だった、とかはもう定説なの?あと遠江に本貫地があるとかは初耳。伊賀の服部家との繋りは勿論使ってたけど、お姉ちゃんと世阿弥への繋りは使ってなかったな。
築城から土木、勢力基盤としての経済力、倒幕戦での智略武勇、そして悪党としての無法者感。楠木正成というのは、様々な顔がありすぎるので、どんなキャラでも史実準拠っぽく描けちゃいます。今の正成研究だと、むしろ大河での農夫っぽいキャラが一番ファンタジーかもしれないぐらい。
本作の正成は、上記設定では芸事以外は全部乗っかってます。これは強い。
でも、弱点が馬の骨ゆえの動員力の弱さなのも史実準拠。
正成をスーパースペックにすると、滅びるにはもう少し理由がいるけど、そこはやはり護良親王になる。
護良親王。
カリスマです。正成も道誉も彼に心服するカタチでダブル主人公になる。
だから彼の最期以降は精彩を欠く。
いや、彼らほどの男が連携していれば親王を救えたはず?!でも歴史の主役が立ちはだかる。
足利尊氏直義兄弟
尊氏はミステリアス(底が知れない)なまんまだけど、ヒールは直義。
直義は直義で色々あるんだけど、謎兄より動く。観応の擾乱までこの世界が描かれれば、何かしら物語的決着を貰えそうだけど、本作では引き立て役ヒール。

そんなA面なハナシのあとに登場が新田義貞。
とかく鎌倉戦だけの一発屋猪武者にされがちな彼。
それなり以上の方が書いた作品で、義貞がカッコいいのなんて新田次郎『新田義貞』(今は絶版か?)しかないんじゃないか?アレだって鑓とか諏訪とか無理してアゲてた気がするし。北方太平記じゃボロクソ。
でも、本作の義貞は快男児的にカッコいい。
彼に色んな男女が惚れて付いてくる。
だから、正成・道誉の活躍も義貞視点に移ると、不気味な謀略に見えてくる。だから、二作品の世界は全く一緒なんだけど、全く違う作品にも思える。
彼も護良親王にはヤられる。
けど、彼はすぐ正成にみたいにはならなかった。ある意味での「最強」にもヤられていたから。
後醍醐天皇。
その不思議な事績を単なる「暗君」と解釈させないための解説をするのが義貞。帝にだけ見えていたものを理解できたのが、まさかの義貞というサプライズ。逆に持ち上げすぎか。阿野廉子が意外と地味パターン。

道誉は義満期まで活躍するので、正成の最期とともに物語は終わります。
義貞の最期も北畠顕家とセットでボンヤリです。
正直、この義貞ならば史上「犬死」とされる「あの最期」も良いシーンになりそうだったけど、あえてなのかやってません。
北方謙三『楠木正成』のラストも衝撃的ですが、こういうのが流行りなのか?
いや、安部太平記はまだ終わらない。
劇中でちょくちょく名前が出てきた謎の男が物語を繋ぐ?
けど、ワタシは文庫化まで待ちます。
こりゃあ楽しみが増えた。


もうちょっと安部作品を読んでみようかしら?
やっぱりお上手です。