前回からのつづき

 

振り向くとそこには、

別れたばかりの事務局長が立っていました。

「そこのカフェにでも行きましょうか。お茶代は代表からもらってますから」

 

先に歩きだした事務局長に慌ててついて行き、席に着くと・・・

 

「ごめんね。あの場で続けて聞くのはちょっと・・・と思って」

 

Nさんがいない場で話したかったということか。それはこちらにとっても好都合。


事務局長が確認したかったのは、

「この学年はどのぐらい保護者総会を開いているのか」ということでした。

 

新型コロナの緊急事態宣言が明けた2年夏に入団した長男と私は、総会なるものに出席した記憶がありません(この時点で3年冬)。

 

「1年の・・・最初のGWに開かれたのが最初で最後だと思います」とキーパーママ。

「ああやっぱり、その程度なんですね」

 

事務局長によると、コロナ前は基本的に年1回以上の保護者総会と納会を開くことを各学年のコーチに求めていました。役員以外の保護者向けに、1年間の総括や今後の活動方針を伝えて合意を得るためです。

保護者側も疑問があれば、その場で指導者に聞くことができます。

 

「例えば、都大会を目指すことを目標とするのも、実力別でグループ分けするのも、それはOKなのかと問われればOKです。ただその方針は指導者だけでなく、保護者全体が共有して納得していることが条件。少年団ではトラブルを未然に防ぐために説明責任を尽くすことが求められると思いますし、実際に私もコーチ時代はそう考えていました」

 

ただコロナの流行以降は大人数で集まることが困難に。団の全体コーチ会議もオンラインのみとなり、活動方針の説明は各学年監督のやり方にゆだねられることになりました。

 

「会議で気になる学年のコーチに会えば直接話を聞くこともできますし、会議後の飲み会で相談に乗ることもしていました。でも、この学年のコーチとはそういう機会がないままで・・・。お二人の話を聞く限り、コーチ陣は仲間内の活動だった1年時の感覚のまま、一気に団員が増えてからも説明の必要性を認識していないのかもしれません」

 

事務局長はそう話し、早急にコーチ会議を開くことを約束してくれました。

 

「あともう1点お願いがあるのですが。

会議を受けてコーチ陣が2か月後の『ハトマーク』に向けてどんな説明をしたか、教えてもらえると助かります」

 

「ハトマーク」とは、東京都内で4年春にブロック予選が行われる公式大会。3年冬の公式戦(TOMAS東京都サッカー交流会)のブロック大会が中止になったので、長男の学年にとっては初めての公式戦となります。

 

「ハトマークは25人登録ですが、今の3年生は25人以上いるので必ず誰かがベンチを外れることになります。2チーム出しも可能なので、果たして彼らがどんな判断をしてどう説明するのか・・・非常に気になります」

 

「わかりました!」

 

「ありがとう」と言って先に席を立った事務局長を見送りながら、キーパーママと私は


「いやーー事務局長っていい人!!」

と感激していました。

 

「少年団の指導者ってまさにああいう考えの人がなるべきよね」

「ほんと!事務局長が親身になってくれてよかった。最初はどうなるかと思ったけど…」

「あーNさん連れてきちゃってゴメン。でも結果オーライじゃない?」

「確かに・・・結果として彼女がエキセントリックに映った分、〇〇さんの冷静さが際立った気がする・・・」

 

ここまで言うと、私ははっとしました。

当初は「監督解任」を言い出すほど激怒していたキーパーママ↓

少年団からの移籍「監督がわからない」

 

少年団の代表に「モンスター」的な印象を持たれたら相談も逆効果になりかねず、私は「気持ちはわかるけど冷静な対応でいこう」と事前にお願いしていました。

 

実際に、彼女は終始冷静でした。

パパコーチたちへの不満を大げさに話すNさんを連れてくることで、モンスター的な印象はNさんに集中し、結果的にコーチ陣の信じられない行動を総代表と事務局長に伝えることにも成功しています(「直訴編②」)。

 

自分の手を汚さずに。


そこまで考えてNさんを連れてきたのならば、キーパーママは相当な策士では・・・

 

「どうかした?」

「い、いや何でも!本当によかった!!ケーキでも頼もうかな!」

 

慌ててメニューに手を伸ばす私・・・汗

 

キーパーママは「私も!」と言いながら、

「でも・・・監督が代表や事務局長になんて言い訳するのか、気になるよね。さすがにそれも教えて、なんて図々しくて言えないし」

とため息をつきました。

 

「そのことなら、ちょっと考えがあるんだ」


私の頭にはある人が浮かんでいました。

うん、彼に協力してもらおう。

(「私のスパイ」編につづく)