少し前のことだが、スティンガーにさくら剛さんが僕を指名して遊びに来てくれたことがある。
さくら剛さん(以下さくらさん)とは作家である。
初めて僕がさくらさんを知ったのは、iphoneのアプリ、ポッドキャストのネットラジオだ。
まず、ポッドキャストというアプリの存在を知った僕は、何か面白いネットラジオがないかと探していた。そこで僕の目にとまったのが、「さくら通信」というタイトルだ。
そのアイコンが可愛い女の子のイラストだったのもあり、ふらっと過去の放送のタイトルをみていると、どうも可愛い内容だとは思えない。
例えば「ひきこもり」だったり、「死後の世界」だったり果ては「物理とストーカー」などという少しトんでいるものもあった。そこで興味をそそられ初めて聞いたモノが「恋愛の統一ルールを作れ1」だ。
面白そうでしょ?
まず登場するのが、どこか陰鬱な声、そしてテンションのさくら剛さん。
そしてハキハキと快活にしゃべる山本さんという男。この二人でさくら通信は進行していく。
男二人の野暮ったいラジオかいな、と思っていたが、これがたまらなく面白い。
さくらさんのひねた考え、意見。それに同調しつつも、つっこむところはしっかりつっこむ山本さん。このやりとりがとてもバランスが良い。
すっかり「さくら通信」に引き込まれた僕は、聴ける分の放送は全て聞いた。
結果、さくらさんのファンになった。
賢さと陰鬱さ、ユーモア、テンション、経験値、そこはかとない優しさ。
全部好みだった。
さくらさんが書いている本も全てとはいわずとも沢山買った。読んだ。
そして結局、尚更にファンになるわけだ。
そんなあるとき、「さくら通信」が配信用のアプリを開発するとのことでクラウドファウンディングで資金を募っていた。
そのクラウドファウンディングのページには投資した資金のお礼品一覧があったのだが、そこで僕がこれは!と注目したのが3万円の投資のお礼品、「さくら剛と飲みに行ける権利」というものだった。
3万円という値段は関係なく、さくらさんに会って飲めるなんて素敵なことだな、と思った。思ったが、どうやらそれは東京付近でないと叶わない権利であることがわかった。
まあ、そりゃそうだ。諦めるほかなかった。
さて、ここまでは僕がまだホストでもなく、熊本で会社員をしていたときの話である。
その後、ホストとして歌舞伎町にやって来た僕はある日、思った。
東京か。さくらさんに会えるかもしれんな。と。
この会えるかもしれんな、は例えば本のサイン会だとか、オフ会だとかで、会えるんじゃないかと思ったわけだ。
そして続けて思った。3万円払えば会えるんじゃないかこれ。と。
中々に失礼な発想なのは重々承知だが、率直に思っちまったのはしょうがない。
そして僕はとうとうツイッターからさくらさんに、
謝礼金3万円で僕と飲みに行ってくれませんか。という旨のメッセージを送ったのだ。
今となって思えばヤバい奴だが、そのときはさくらさんに会いたい気持ちのほうが勝っていたのだ。というか酔っていたのだ。ホストだから。
まあ返事なんて来ないだろうと思っていたら、なんと来たのだ。返事が。割と早めに。
この人暇なのか。と思った。
さておき、返事の内容を大まかにいうと、
謝礼金で飲みに行くというのは気乗りはしないが、ホストというものに興味があるので、招待という形であったら、是非。とのことだった。
実際はもっとメタメタに丁寧な文章で返事がきている。しっかりした人だ。
これは願ったり叶ったり。そして同時に思ったことがある。
餌に喰らいつたぞ、と。
実をいうと、最初のメッセージを送ったとき、自分がホストだということをあえて強調していた。
僕にはわかっていた。
さくらさんの作家魂は、普通に男性が過ごしていたら経験できないであろうホスト体験に必ず興味を惹かれる、と。作家としての糧にしたくてしたくて堪らないだろう、と。
ていうか僕にはそれしか面白ポイントないし。普通の職種なら断られる確率濃厚だと思ったわけで、あえて強調していた。
さあ、まんまと引っかかったな。さくら剛討ち取ったり。
という気持ちが3割。残りの7割はシンプルにすんごく嬉しかった。
あのさくらさんに会えるぞ!と。
そんなこんなで、さくらさんがスティンガーに遊びに来る当日となった。
さくらさんとは店の前で待ち合わせし、僕自身で迎えにいった。
緊張の初対面だ。そりゃそうだ、憧れのさくらさんだ。
でも俺にはわかってんだ。
絶対さくらさんのほうが200倍ド緊張している、と。
先にいっておくが、僕の知っているさくらさんは、かなりのアクティヴィティを持っていると同時に、最強に人見知りである。
そんな人見知りの彼が、わざわざこの歌舞伎町に一人で足を運び、なおかつ初めましての得体の知れないホストに会いに、魔の巣窟かもというホストクラブに遊びに行こうというのだ。
もしかしたら彼は・・・いや・・・きっとこれは変態に違いない。ドマゾに違いないぞ。
さて、対面のとき。
お互い第一声のはじめまして。僕からすると聞き馴染みのある声での挨拶だった。
僕は緊張していたが、さくらさんのほうが緊張しているに決まっとる。エスコートしなければ。シャキシャキと!
さくらさん。あの瞬間僕は、無理やり気丈に振舞っていたんですよ。
初めて生でみたさくらさんの印象としては、写真などで知ってはいたが、本当に若く見えるな、ということ。さくらさんはそのとき恐らく43歳くらいのはずなのだが、マジで33歳〜35歳くらいに見えた。
いや、これは失礼な話、顔の作りが幼いとか、若々しいとかじゃなく、何故かそう見えるのだ。なんなんだ。お肌ケアでも欠かしてないのか。それとも内面から湧き出る若さなのか。
でもわかっているのだ。前者後者、どちらも違う。
なんか若い。まあどっちでもいいんだけど、なんか若い。
そんなヤングさくらを連れて店内へと案内し、ほっと一息の僕である。
まあもちろんホストクラブであるから、ドリンクを提供しなければ。
さくらさんにドリンクを何にするか伺ったところ、中々の長考の末、ディタグレープフルーツを注文した。
僕は2つ思った。
まず一つ目が、
あ、飲むんだ。と。
さくらさんがお酒が強くないことは知っていたので、もしかしたら飲まれないんじゃないかと思っていたが、そこは飲むらしい。
さくらさんいわく、やはり緊張があるので、それがほぐれれば、ということで飲むとのこと。
正しい。正しいぞ、さくらさん。さすが伊達にいろんな修羅場をくぐってきただけある。
と、これがひとつ。
2つ目が、
ディタグレープフルーツ。ちょっとカッコつけたな。だ。
僕の認識ではさくらさんは生ビールとカシスオレンジしか酒の種類を知らない。
ディタなんてお酒さくらさんが知っているはずがないのだ。なんとなく。
というか俺がディタを知らん。なんだディタって。
本当はさくらさんはカシスオレンジが飲みたかったのだ。きっと。
しかし、彼の認識では我々はイキっているホスト。
というわけで自分もイキらねば舐められる、という結論に達したに違いない。
いいんですよ、さくらさん。カシスオレンジで!!!
安心してください。僕はさくらさんに失礼な感情など一切抱きませんから!!
さて、そんなこんなでさくらさんとお話しを楽しむわけである。
はやりさくらさんは物珍しいホストに関心があるようで、彼のほうから様々な質問を受けた。
思ったのは、意外としゃべる方なのだな、ということ。
もちろん、さくらさんは気遣いができる方なので、初対面の僕に対して気まずい思いをさせないように、会話が途切れないようにしてくれてる面もあるとは思うのだが、それでもしっかりと丁寧に受け答えをしてくださるし、何より話していて面白い。
会話の端々からインテリジェンスを感じるし、ウィットにも富んでいる。いや、マジで。
さすが面白い方だなあ、と改めて感じた。
しっかりした人物である。
こちらも質問したいことは沢山あったので、仕事のことやポッドキャストのことなど、色々と聞かせていただいた。内容はそりゃ僕たちだけの秘密です⭐︎
と、時間も良い頃合いになったので、僕からシャンパンコールをプレゼントさせていただいた。
やっぱりホスト体験の醍醐味、要といったら、シャンパンコールである。
シャンパンコールをすると、お客様であるさくらさんにもマイクが回ってきてコメントタイムがあるので、それも僕個人の楽しみなのだ。
さて、ここでさくらさんのシャンパンコールのマイクコメントを紹介させていただきたい。全然許可などとっていないが、紹介させていただく。きっと許してくれるはずだ。
とてつもなく寛大な心をもつさくらさんなら!
さくらさんコメント全文「男ひとりですいません。男ひとりでも楽しいです。
貴重な経験ができてすごくびっくりしています。またよろしくお願いします。」
素晴らしいコメントです。さくらさん。
好きな作家さんに貴重な体験をしていただけるのが、ファンの喜びっつうもんです。
ちなみに僕のコメントも紹介しておこう。
僕のコメント全文「さくらさんありがとうございます。いらっしゃっていただいて。
5年前にね、ポッドキャストのさくら通信を聴いてから、ものすごいファンで、こうやってツイッターでメッセージを送ったら、来てくれるという。本当に尻の軽い男だなと思いました。いや、でも本当にありがとうございます。ただ、イメージとしてはすごいどうしようもない根暗な男だと思っていたんですが、こうやって話してみると凄く気さくな方で凄く素敵な男性だなと思いました。本当に会えてよかったです。あまりお酒は飲めないかもしれませんが、今日は楽しんでいきましょう。」
我ながらなんてバランスの取れた素晴らしいコメントなのだろう。
いや、すいません、所々凄まじく失礼な表現がある。
ただ、このコールが始まる前に、さくらさんには、コメントを面白くするために失礼な言い回しをするかもしれませんがいいでしょうか、と伺ったところ、「全然大丈夫です」と許してくれたのでこうなったのだ。さくらさん、ありがとうございました。
お陰様で凄く失礼なことが言えました。
というわけで、シャンパンコールも終わり、そろそろ閉店の時間。
さくらさんは終電までには店を出る予定だったのだが、その時間を越えてもまだお店に居てくださった。気を遣ってくださったのか、楽しくなっちゃったからなのか定かではないが、少しでも長くお話しができて嬉しかった。
もしかしたら2杯目にオーダーされたピーチウーロン(濃いめ)で酔っ払ってしまい判断能力が鈍くなってしまわれた可能性もあるが、そこは御自分で濃いめをオーダーしたので、そうだとしたら自分のせいです。
楽しい時間もあっという間なもので、お別れのとき。
終電がないので、僕のほうからタクシー代を出させていただこうと思ったのだが、さくらさんは歩いて帰るとのこと。きっと気を遣っているのだろうと思ったので、遠慮はなさらずにと伝えた。
するとさくらさんは、歩くのが最近好きなのでお気になさらず、ダイエットにもいいですし、と返してきた。
いや、遠いのよさくらさんのお家。歩いてかなりの距離なのよ。
その返答が気を遣っているのか、真実なのか、そのときは測りかねた。
しかし、これ以上こちらから同じことを提案することも野暮だと思い、さくらさんの言葉に甘えさせていただいた。
タクシー代を押し付けるのも、さくらさんの考えを汲むとこの場面ではむしろ失礼なことなのかもしれないと思ったのだ。
どちらにせよ、相手にこれ以上の気を遣わせないよう、そういった返答をしてくれたさくらさんは、本当に気遣いの人である。
しっかりと記憶に残っている場面だ。
そうしてお互いに礼とさよならを告げ、さくらさんは帰っていった。
以上が、さくらさんがスティンガーに遊びに来たときの話だ。
敬愛している人物に会えた喜びでの興奮もあれば、直接だと聞けない話。
さくらさんの本当の人となりや雰囲気。それを感じれただけで、僕にとって素晴らしい経験になった。
さくらさんとの会話の中で、印象に残っているものがある。
さくらさんが口にしていたのだが、「人は誘えば思いの外来るんだなって、思いました。自分がこうやってここにきて思ったのですが。」というものだ。
さくらさんにぶっつけでメッセージを送ってみて、実際に会えた。
いや、僕も、さくらさん来るんかい!!と思った。
さくらさんが思うには、モーションを起こしてないだけで、人って誘えば意外と普通にそれに乗ったりするもんだ、と。
自分は作家とはいえ大人物というわけではないし、モノを書いてるだけの一般人だから。普通に誘ってもらってタイミングと気持ちが合えば来る。
自分に限らずみんな意外とそういうものなのかもしれない、と。
さくらさん自身の中でも少し新鮮な思いのようだった。
その内容もそうだが、自身の行動の中にも発見がある人なんだな、と素直に感心した。
だからね。こうだから、少なくとも僕の中では、さくら剛さんは大人物である。
おしまい。