「シン・ゴジラ」から7年振り、日米合わせて37作目となるゴジラ映画の新作です。

 7年振りというといかにも間が空いたようですが、実際はアニメ映画が3本、テレビアニメシリーズが1作、ハリウッドのレジェンダリー版が2本公開されているので、ゴジラ作品はコンスタントに展開されていました。レジェンダリー版の「ゴジラvsコング」からは2年振りということになります。

GODZILLA 怪獣惑星(2017年)
GODZILLA 決戦機動増殖都市(2018年)
GODZILLA 星を喰う者(2018年)
ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ(2019年)
ゴジラ S.P <シンギュラポイント>(2021年)
ゴジラvsコング(2021年)

 また、「シン・ゴジラ」は社会現象級のヒットとなり、東宝ゴジラ29作品の中で観客動員ランキングで5位にランクインするというとんでもない金字塔を打ち立てた近年の最高傑作だったことで、東宝実写版の次作となる30本目はかなり難易度の高い企画だったと思います。興行収入では「シン・ゴジラ」が桁違いの首位なのですが、さすがに60年前と今ではチケット代が異なるので、昨今は観客動員数で比較するのが一般的になっています。

観客動員数ランキング
1位:キングコング対ゴジラ(1962年)
2位:ゴジラ(1954年)
3位:ゴジラの逆襲(1955年)
4位:モスラ対ゴジラ(1964年)
5位:シン・ゴジラ(2016年)

 ちなみにこの後のランクイン作品は「三大怪獣 地球最大の決戦」「怪獣大戦争」とオールスター祭り的な作品がつづくので、ゴジラ単体しか登場しない作品で他の作品を凌駕したことは大業績なのですが、本作の好発進もそれにつづくのではと期待されています。

 日本のCG映画の第一人者のようになった山崎貴監督の念願のゴジラ映画ということで、気合の入れ様はさることがら、やはり「シン・ゴジラ」に対してのプレッシャーは相当なものだったようで、公開前から「シン・ゴジラ」を言及するコメントをしていました。
 公開直前の10月27日には公開記念イベントとして「シン・ゴジラ」をモノクロ・コンバートした「シン・ゴジラ:オルソ」が公開され、庵野秀明と山崎貴との対談が行われました。
 この対談は動画配信されましたが、方向の事なるオタク同士の噛み合わない感じが面白かったです。
 対談で印象深かったのが、山崎監督は肩書に「VFX」を入れているが、庵野監督はCGを用いて特撮を再現していて、あくまで東宝特撮映画をリスペクトしているが、山崎監督はハリウッド映画だろうといったことです。
 後のコメントで山崎監督はCGでゴジラを描く以上、着ぐるみでは表現できないCGの特性を最大限に引き出したいとしていて、まさにそのような映像になっていました。

 ひとつはゴジラにどこまでも近づけるということです。

 東宝特撮でも、これまで原寸大の足を製作したり、巨大なゴジラヘッドや背中など、いわゆるアップ撮影用の巨大な模型が用意されているのですが、巨大にすればする程、生物感が損なわれるというデメリットは払拭できませんでした。
 CGにすることで巨大なゴジラが電車に食らいつくシーンが描けたといえます。

「シン・ゴジラ」を充分に意識したことで、本作は結果的に対極にあるようなゴジラ映画になりました。

「シン・ゴジラ」ではゴジラに感情移入して、アメリカ軍の砲弾を全身受けながら耐えるシーンは泣けてしまいました。そこから熱線を吐くまでの一連のシーンに勇猛な楽曲ではなく、レクイエムがあてられていることで、ゴジラの感情が表現されていました。

 一方で本作は徹底的に犠牲となる人々が描かれ、ゴジラはまるでジョーズのように本能で攻撃してくるように見せているので、ゴジラへの感情移入は拒まれてしまいクライマックスでははじめてゴジラを怖いと感じました。
 これまでも原点回帰を理由に怖いゴジラを描こうという試みは何度も行われていますが、そもそもゴジラ映画はゴジラに気持ちを入れてしまうので、なかなかうまくいきませんでした。
 本作のゴジラは、なぜ突進してくるのか、なぜ街を破壊するのか、なにに対して怒っているのかが一切わかりません。この「わからない」ということがそのまま「怖さ」に直結しています。

 そもそもフランチャイズはホラー映画であれ、主役が人間からモンスターにシフトします。ゴジラ・シリーズも5作目にしてゴジラは人類の味方にキャラ変していました。何度もキャラ修正がなされ、平成シリーズでは立ち位置が曖昧になっていました。

 1954年のファースト・ゴジラは桁違いの災害、天変地異を描くための怪獣でした。「シン・ゴジラ」もこのコンセプトを継承して、大災害を現代日本にコンバートして見せました。
 本作の熱線の表現や冒頭の基地のシーンなどからは、マイナスワン・ゴジラは災害ではなく、戦争被害を描いているように見えました。旧約聖書のソドムとゴモラのように天から降る巨大な火の玉を食らったようです。

 ゴジラを明確に神として描いたのは2001年公開の金子修介監督作品「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」においてですが、怪獣を神として解釈するのはおなじ金子作品の平成ガメラ・シリーズなどもあり一般化しています。
 ちなみに「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」においてゴジラは太平洋戦争で犠牲になった英霊の集合体であるといった言及がなされます。
 この設定もどこか本作と重ね合わせることができるように感じます。実際、山崎監督はゴジラ映画のマイベストとして「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」を挙げているので、裏設定としてあるのかもしれません。
 そもそもゴジラはアメリカの水爆実験の副産物で、戦争を体験した日本人のトラウマから創造されたといえることから、根底には常にピカソの「ゲルニカ」のように阿鼻叫喚の具現像という側面があると思います。
「シン・ゴジラ」の前田真宏と竹田隆之による造形にもこの阿鼻叫喚は組み込まれていたと思いますし、劇場ではそのように感じました。

 ちなみに山崎監督はゴジラのデザイン上の意図として、両手を横に向けたのは、昭和のゴジラは怪獣(動物)なので下向き、シン・ゴジラは神なので上向き、マイナスワンはその中間だから横とコメントしていました。

 本作は偶然にも主演の神木隆之介と浜辺美波が夫婦役を演じNHKの朝の連続テレビ小説「らんまん」の放送終了間もなく公開となったことで「らんまんゴジラ」として劇場に足を運んだひともいるのではないでしょうか。
 怪獣ファンではない観客も満足度が高いような気がするゴジラ映画というのは、これはこれで偉業なのではないかと思います。

 その意味では、大団円に終わることは望ましいことと思いますが、やはり典子が生きていたという大オチはやり過ぎと思いました。
 あの状況で生還できるかよりも、行方不明であること、遺体がないまま葬儀を執り行ったことについての表現が一切なかったのことは、観客が騙されたといよりも、観客に嘘をついたように感じます。また、いよいよ試作機の震電で飛び立つという段階で浩一が「死にたくない」と本音を吐露する心変わりも根拠が不明瞭です。典子と明子との3人で暮らしていて、そのように感じるのなら分かりますが、典子が銀座で絶命した喪失感からはむしろ死にたい気持ちを高めるのではないでしょうか。

 たとえば、わだつみ作戦の実行当日に病院の典子から連絡が届くも、浩一は試作機の震電で飛び立ってしまい、駆逐艦に乗船している秋津から無線で
「典子さんが生きてたぞ、お前絶対に死ぬなよ、帰って来いよ」
 と、なりゴジラへの特攻をためらうような展開で、実は脱出装置が補完され、浩一が生還して典子に会いに行くというのであれば大オチの印象派まったく異なったように思います。

 所々、時間の飛躍や感情の移り変わりについて思うところはありますが、ツッコミどころが気になるかどうかは個人差がありますし、それを踏まえてなお本作はもう一度見たくなる、少し中毒性のある作品と思います。

 ゴジラの演出にカウントダウンの要素が強調されていることも印象的でした。深海魚が浮いて来るといった予兆も冒頭から描かれます。これは「ジョーズ」におけるジョン・ウィリアムスのテーマとおなじで、出現を宣言して観客に構えさせるカウントダウン効果です。但し、深海魚の大量死滅とゴジラとの因果関係は一切説明されません。
 熱線放射前にひれが光り、尻尾側からひれが突出しながら背中を上がるメカニズムは「宇宙戦艦ヤマト」の波動砲の妙です。
 ゴジラの生態に新しい要素を追加できるようになったのも「シン・ゴジラ」の大胆なアレンジがあってこそと思います。
「シン・ゴジラ」では完全生命という呼称がなされていましたが、本作にもその要素が再生力の速さで表現されました。
 崩壊するゴジラに船員たちが敬礼をすることについてはイマイチ気持ちが乗りませんでした。神であり完全生命であるといった「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」と「シン・ゴジラ」のハイブリット設定による矛盾のような気がします。
 人々を罰する全知全能の神であることと、生態系から離脱した完全生命であることは似て非なるものだからと思います。

 2017年公開のクリストファー・ノーラン監督作「ダンケルク」のようなクライマックスや名もなき民間人たちの活躍といったプロットや、GHQを描かないことで米軍批判もなく欧米受けする作品に感じました。
「シン・ゴジラ」のような社会現象にはならないと思いますが、海外での収入も含めて充分なヒット作になるでしょうし、山崎監督は次作への意欲も見せていますので、「シン・ゴジラ」に次ぐヒット・ゴジラ映画になるのではないでしょうか。

 21世紀のゴジラ映画としては、英米合わせて「シン・ゴジラ」に次ぐ傑作と思います。