旅人になろうとしているのは俺だけじゃなかった。
世界じゅうの人たちが、遊牧民になろうとしている。

ITの本質は、持たざる経営だ。

 掃除の一環で、写真を整理していた。捨てていい写真もいっぱいあるが、データで持てばもっと荷物は減る。そう、要はこういうことだ。紙媒体の雑誌や本は、情報をリアルなメディアに載せている。ITは、情報をサイバーのメディアに乗せている。後者の方が同じ価値を享受しつつ、少ない在庫で済む。我々は全ての資産から、その情報だけを抽出することが可能になった。多くの場合において、情報とは価値そのものを示す。つまり、必要のない在庫だ。雑誌も、新聞も、テレビも、映画館も、店舗も、情報という目的のみにおいてはもう全て必要のないものだ。IT化が進んだことで、すでに世の中の多くのものが負債になってしまったのだ。

 「ECO」が嫌いな俺は、グリーンITだとか、スマートグリッドというものはその一部と思い、避けていた。しかしこれらの本質は、在庫の削減にあった。省エネは地球環境の為ではなく、各経済主体のコスト削減の為。ストックでなく、フローに重点を置き、ランニングコストを抑えたスマート経営が結果的に省エネになる。部分最適化が全体最適化を生むという市場原理がこれからの世界を変えていく。
 そしてSaaS(Soft as a Service)によってこれからはデータさえも持たなくなる。クラウドによって企業のデータセンターに消費者の情報は全て収められ、より効率的に需要情報が配分されバランスのとれた供給が社会的に行われる。やがて国境は消え、人々は何も持たずに世界中を行き来する。


その優しさは罪だ、と彼は言った。

愛想を振りまくことや、俺がめいっぱいに手を広げることを。
そして、たとえそれが戦略だとしても、いつか足枷になるかもしれないと。

1年くらい前のことだ。それが最近になって少し分かり始めてきた。犠牲があることは知っていた。それでもなんとかうまくやってきてたんだ。だが、そろそろ底を広げるのは限界かもしれない。選択と集中の時が迫ってきてる。いや、決別と言うべきか。

見えるものだけじゃない。物だけじゃない。持っていて負債になり得るのは。