ジャーナリスト中村俊介著「世界遺産」より
<朽ち果てた鉄や、コンクリートの塊、
重苦しくて薄暗く何か不気味な空気を漂わせて、
顧みる人もいないまま打ち捨てられている。
世界遺産はそんな不遇の構造物にも光を当てた>
世界文化遺産に登録されている長崎県の軍艦島は、
今も崩落が進み現状維持の不可能な建造物群です。
世界遺産の対象はこうしたものにも拡大され、
イギリスはもちろん、ドイツやインド、チリにも、
「産業革命遺産」というものが存在しています。
そこにあるのは後世に伝えるべき「美」ではなく、
そこで働いていた祖先に対する敬意、なのだそうです。
イギリスの世界遺産、アイアンブリッジ渓谷
を取材した中村氏は現地の人からこういわれます。
「日本では祖先との結びつきが
あまり意識されていないのではないかな」
確かに、お墓参りとかはするけれど、
祖先の思いや教えを後世に伝え続けよう、
という空気は戦後日本の日常には欠けています。
そんな当時の暮らしを残し伝えよう、ということで、
<旧広島陸軍被服支廠倉庫施設は1914年に建設され、
戦時中は陸軍兵士の軍服や軍靴を製造した。
爆心地から2・7キロ、原爆投下直後は救護所にもなった>
<同施設は4棟で、当時最新の鉄筋コンクリート造と
旧来のレンガ造が併用された珍しい構造で、
鉄筋コンクリート造としては現存最古級の建造物となる>
文化財に指定されると維持管理の費用が支給されます。
軍国時代の負の遺産ではあるといっても、
当時の人々が懸命に働いてきた歴史があります。
苦しい戦時中を生きていた方々への尊敬と感謝、
自分たちの祖先が働いていたことへの誇り。
遺産には祖先との対話の役割があるのですね。
ドイツ フェルクリンゲン製鉄所
イギリス コーンウオール鉱山跡群
インド 山岳鉄道群。現役の世界遺産です。
チリ ハンバーストーン・サンタラウラの硝石工場
幼児期を過ごした大阪の家の取り壊し現場。
一つ一つ私の過去がなくなっていきます、さびし~っ!