クジャクの羽の微細構造 | 構造色事始

構造色事始

構造色の面白さをお伝えします。

前回に引き続いて、クジャクの構造色の仕組みを調べていきましょう。

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まず、上尾筒の目玉模様を実体顕微鏡で拡大していきましょう。

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色のついた部分を良く見ると、細かい繊維のようなものが見えます。この写真の左右に走る太い軸が羽軸(うじく)です。羽軸から両側に枝分かれしているのが羽枝(うし)です。細かい繊維は、その羽枝に付いているように見えます。中心の水色の部分をさらに拡大してみましょう。

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この写真の左下から右斜め上方向が羽枝の走っている方向に当たります。繊維のように見えていたのはその羽枝に生えている小羽枝だったのです。その小羽枝がきらきらと光っているのが分かりますね。それでは色の違う部分はどうなっているか見てみましょう。

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水色の部分と目玉の中心の黒い部分との境目を拡大しています。羽枝自身はずっと続いているのですが、途中で小羽枝の様子が変化しているのが分かります。黒い部分では、小羽枝の大部分は茶色になり光っていません。先端だけが、わずかに濃紺に色付いているだけです。反対側の茶色の部分との境はどうなっているでしょう。

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今度は小羽枝自身は同じように見えますが、色ははっきりと違うことが分かります。青い部分は整然と並んでいますが、茶色の部分は少し乱れていることも分かります。織物か絨毯を拡大したようですね。

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首の部分(左)と背中の部分(右)の羽についても調べてみましょう。

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(吉岡伸也博士提供)

構造的には上尾筒と全く同じです。この写真では、小羽枝が羽枝の両側に生えていることがはっきり分かりますね。実は上尾筒の羽枝に生えている小羽枝も両側にあったのですが、隣の羽枝に生えている小羽枝に隠されていたので見えなかったのです。上尾筒の小羽枝と同様、きらきらと光っています。良く見ると、小羽枝には節のような構造があることも分かります。

クジャクの羽の色は小羽枝によるものでした。それでは小羽枝はなぜこんな色に光るのでしょうか。その仕組みを電子顕微鏡で調べてみましょう。

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(吉岡伸也博士提供)

左の写真は走査型電子顕微鏡写真で、スケールバーは20ミクロンです。小羽枝の節のようすが良く分かります。小羽枝の表面はつるっとしていて特に構造は見られません。きっと、色を産み出す微細構造は小羽枝の内部にあるのですね。

そこで、小羽枝の断面を透過型電子顕微鏡で調べてみました。それが右の写真です。驚くような構造が見えてますね。小羽枝の表面(右上)から11-12層の黒い丸が規則正しく並んでいることが分かります。スケールバーは200ナノメートルです。この規則正しい構造が、クジャクの輝くような色の正体でした。

この黒い丸はメラニン顆粒で、実は、円柱状をしています。メラニンは髪の毛の黒い成分と同じ成分ですが、その顆粒が規則正しく並ぶことで色を作ることができるのです。

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(Durrer1977による)

1962年、ドイツのデュラーは電子顕微鏡でクジャクの羽を詳細に観察した結果、このような奇妙な構造を初めて見出しました。その後、彼は上のような模式図を描いて、その微細構造を克明に記録しました。それによると、クジャクの羽のメラニン顆粒は円柱状で、円柱と円柱の継ぎ目はランダムなのですが、その切り口は格子状に綺麗に並んでいます。それ以外にも空洞があって、メラニンの格子の隙間に分布しています。

羽の色の違いは、主に、メラニン顆粒と顆粒の奥行き方向の間隔で決まります。間隔が小さいと青くなり、大きくなると緑や赤くなるのです。このように、結晶のように規則正しく並んだ構造をフォトニック結晶と呼んでいます。フォトニック結晶は光を自由にコントロールできる素子として、現代科学の最先端技術の一つにもなっています。クジャクは大昔から最先端技術を使って色付けしていたことになりますね。(SK)

【参考文献】
H. Durrer, Verh. Naturforsch. Ges. Basel 73, 204 (1962).
H. Durrer, Denkschr. Schweiz Naturforsch. Ges. 91, 1 (1977).

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/