まずは、その美しい姿から見ていきましょう。
これはインドクジャクと呼ばれる種類です。オスは後ろに上尾筒(じょうびとう)と呼ばれる立派な飾りを持っています。上尾筒には数えきれないくらいの目玉模様が付いています。
一方、この写真の手前にいるのがメスですが、メスはオスに比べて大変地味な色をしています。オスの輝くような色は構造色によるものです。その色の仕組みは、また、この次にお話しすることにして、今回は羽をじっくり眺めてみましょう。
これは上尾筒の目玉模様を拡大したものです。この羽の色は光の当たる方向により変化します。
左は観察者の後側から、羽に真正面に光が当たっている場合です。目玉模様の周辺はむしろ赤紫色に近く、目玉模様の中心付近は水色に輝いています。右は観察者の前方から羽に斜めに光が当たっている場合です。目玉模様の周辺が緑色に変化し、目玉模様の中心付近は濃紺色に変化しました。このように光の当たる方向や見る方向で色が変化する性質のことを、イリデセンス(iridescence)と呼んでいます。
クジャクのほかの部分の羽も見てみましょう。
これは首のところと背中の部分の羽です。これも方向を変えて見てみましょう。
観察者の後側から羽の正面に光を当たるようにしたものが左の写真、前方から羽に斜めに光が当たるようにしたものが右の写真です。色が顕著に変わっていることが分かりますね。このようなイリデセンスを示すのは、構造色の大きな特徴の一つです。
【解説】
なぜ、オスはこんなに綺麗な上尾筒を持っているのでしょうか。それについては、古くから、ダーウィンの進化論で説明されていました。上尾筒が大きく、目玉の数が多いほど遺伝的には優れた形質を持っていて、メスに好まれるから、自然淘汰されてそのようなものだけが残ったという説です。しかし、そのことを明確に示す研究はありませんでした。
東京大学総合文化研究科に在籍する高橋真理子さんらは、100羽近いクジャクが自然に近い環境で飼育されている伊豆サボテン公園で、7年間にわたり、上尾筒の大きさや目玉の数がメスとの交尾数や健康状態と関係するかどうかを調べてきました。その結果は驚くべきものでした。目玉の数自体は集団の中でそれほど大きく変化しないにも拘わらず、交尾数は個体で大きく変化したのです。つまり、上尾筒の大きさや目玉の数は交尾数とは直接関係しなかったのです。
このことから、立派な上尾筒を持つのはメスと交尾できる直接的な条件にはなっていないことが分かりました。高橋さんらは、上尾筒自体は過去の遺物であり、メスの嗜好は変化していき、現在では、むしろ鳴き声が直接的に関係していると考えています。
その後も世界中で研究が行われ、外側にある目玉模様が20個ほど欠落すると交尾に支障が出ることや、オスは太陽に向かって45度の方向に上尾筒を向けてディスプレイを行うことなどから、立派な上尾筒を持つことは直接的ではないものの、交尾に至る最低限の条件にはなっているのではと考えられています。
【感想】
私はこれまで、クジャクの構造色の研究はしてきましたが、それが生物的にどんな意味をもっているかという研究を、今回初めて読んでみました。詳しく読んでいないので、見落としも多いと思いますが、あれほど立派な飾りが、実際にはそれほど役に立っていないということを知って、ちょっとショックです。人の嗜好も時代と共にどんどん変化していくからそうなのかとも思いますが、進化の過程であのような立派な上尾筒を作り上げるのに、いったどれほどの時間がかかったのかを考えると、ちょっと複雑な気持ちになります。今後、進化が進めば、あの立派な上尾筒は次第に退化していき、大きな鳴き声をする鳥がクジャクだということになるかもしれません。(追記:ところで、クジャクの羽はどんなお店で扱っているかご存知ですか。実は、釣り具屋さんで売っています。私は釣りをしないので分かりませんが、上尾筒の羽軸はヘラブナ釣りの浮きに、小さな羽は毛針の材料として使われるようです)(SK)
【参考文献】
M. Petrie, T. Halliday and C. Sanders, Anim. Behav. 41, 323 (1991).
M Takahashi et al., Anim. Behav. 75, 1209 (2008).
R. Dakin and R. Montgomerie, Behav. Ecol. Sociobiol. 63, 825 (2009).
R. Dakin and R. Montgomerie, Anim. Behav. 82, 21 (2011).
【解説】
なぜ、オスはこんなに綺麗な上尾筒を持っているのでしょうか。それについては、古くから、ダーウィンの進化論で説明されていました。上尾筒が大きく、目玉の数が多いほど遺伝的には優れた形質を持っていて、メスに好まれるから、自然淘汰されてそのようなものだけが残ったという説です。しかし、そのことを明確に示す研究はありませんでした。
東京大学総合文化研究科に在籍する高橋真理子さんらは、100羽近いクジャクが自然に近い環境で飼育されている伊豆サボテン公園で、7年間にわたり、上尾筒の大きさや目玉の数がメスとの交尾数や健康状態と関係するかどうかを調べてきました。その結果は驚くべきものでした。目玉の数自体は集団の中でそれほど大きく変化しないにも拘わらず、交尾数は個体で大きく変化したのです。つまり、上尾筒の大きさや目玉の数は交尾数とは直接関係しなかったのです。
このことから、立派な上尾筒を持つのはメスと交尾できる直接的な条件にはなっていないことが分かりました。高橋さんらは、上尾筒自体は過去の遺物であり、メスの嗜好は変化していき、現在では、むしろ鳴き声が直接的に関係していると考えています。
その後も世界中で研究が行われ、外側にある目玉模様が20個ほど欠落すると交尾に支障が出ることや、オスは太陽に向かって45度の方向に上尾筒を向けてディスプレイを行うことなどから、立派な上尾筒を持つことは直接的ではないものの、交尾に至る最低限の条件にはなっているのではと考えられています。
【感想】
私はこれまで、クジャクの構造色の研究はしてきましたが、それが生物的にどんな意味をもっているかという研究を、今回初めて読んでみました。詳しく読んでいないので、見落としも多いと思いますが、あれほど立派な飾りが、実際にはそれほど役に立っていないということを知って、ちょっとショックです。人の嗜好も時代と共にどんどん変化していくからそうなのかとも思いますが、進化の過程であのような立派な上尾筒を作り上げるのに、いったどれほどの時間がかかったのかを考えると、ちょっと複雑な気持ちになります。今後、進化が進めば、あの立派な上尾筒は次第に退化していき、大きな鳴き声をする鳥がクジャクだということになるかもしれません。(追記:ところで、クジャクの羽はどんなお店で扱っているかご存知ですか。実は、釣り具屋さんで売っています。私は釣りをしないので分かりませんが、上尾筒の羽軸はヘラブナ釣りの浮きに、小さな羽は毛針の材料として使われるようです)(SK)
【参考文献】
M. Petrie, T. Halliday and C. Sanders, Anim. Behav. 41, 323 (1991).
M Takahashi et al., Anim. Behav. 75, 1209 (2008).
R. Dakin and R. Montgomerie, Behav. Ecol. Sociobiol. 63, 825 (2009).
R. Dakin and R. Montgomerie, Anim. Behav. 82, 21 (2011).